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第17話「双方の思惑」

田辺たちがベサリウス領で会談を始めたのと同時期、バジル王国では大規模な軍勢がベサリウス領に向けて動き出していた。

これは、先の戦いでガリウスが帰らずにいたために戦死、もしくは捕虜となっていると予測されることから、これを理由にベサリウス領を制圧してしまおうと画策したのだ。

既にこの時、ガリウスは日本の自衛隊によって戦死していたのだが、誰一人として帰還しなかったことから情報として何も届いていなかったためだ。

そのためバジル王国のザハン・バジル王は、ガリウスが負けたのは間違いないとしつつも、少なくともベサリウスの戦力は大きく低下してるものと考えたのだ。

「陛下、では吉報をお待ち下さい」

謁見の間にて玉座に座るザハンに対して膝をついての礼をするのはヘルマン・カノープス将軍だ。

元はバジルの配下の平貴族だったが、バジル領の軍事に携わっていた実績から独立と共に将軍に列せられていた。

「うむ、どんな手段を用いても構わん。必ず彼奴の首を持って帰れ」

ザハンの言葉にヘルマンは恭しく礼を取ると、豪華な意匠を凝らした真紅のマントを靡かせて謁見の間を出て行った。

「陛下、よろしかったので?」

ヘルマンが去った後でバジル王国の内政責任者たる地位にいるレオナルド・フリーマン内務卿が今回の出兵についてザハンに尋ねてきた。

「貴公は何かと反対してきたが、この期に及んでまだ言うのか?」

些かも不機嫌さを隠そうともせずにザハンはレオナルドを睨み付ける。

元はバジル領の財務を仕切っていた故の人事であったが、少々小うるさいと感じていた。

「されど、今回の出兵のために国内から根こそぎ動員しています。そのために国内の鉱山を筆頭に各種産業が停滞しております」

レオナルドは出兵にかかった費用、食料、兵員をかき集めた為に民の生活が困窮していることを理解していた。

とは言え、王(成り上がりでも)の命である以上はこれを実行しなければならない。

お陰で治安を維持すべき戦力まで引っ張り出しているのだ。

治安悪化も懸念される。

当然、国内の食料事情は逼迫し、民はその日の食事にも事欠き、働き盛りの男手が殆ど持っていかれてしまえばバジル王国における最大の収入になるはずの鉱山は機能を停止する。

また、唯でさえ食料の自給さえままならない状態だったのに対し、その生産力は著しく低下していた。

金銭などの費用はまだある程度蓄え(元々税金をかなり取っていたため)があるが、人はお金を食べて生きているわけではない。

それらは、元々ある程度の形として問題があり、今まではそれでも何とかなっていたが、出兵により問題は大きく拡大している。

この状況で内政など打てる手は少ない。

よしんば打てたとしてもザハンが認めるとは思えなかったが・・・。

「ベサリウス領は広くはない。だが、それでも食料はかなりの生産量が見込める」

つまらない事を気にするな、といわんばかりのザハンにレオナルドは目の前が暗くなった。


(これで反乱等が起きたら事だろうに)


レオナルドはそう思いながらも、王の決定には逆らえなかった。

「見ておれ、この時代に西方を統一し、我が名を歴史に刻んでみせるわ!」

自信に満ちた言葉であったものの、元々の主であるホードラー王国を滅ぼしたニホンと言う得たいの知れない存在と直に領土を接する事の危険性を無視しているでは?とレオナルドは感じていた。




ーベサリウス領コンスタンティ


田辺とベサリウスの会談は2日たった今日も行われていた。

途中何度か休憩を挟みつつ行われた会談は未だ合意に至らず、互いの主張とそれに併せての議論が続いていた。

「友好関係については異存ありませんね。ですが、国交ということは私に独立を求めていると言う事になります。私は例え国が滅んでもホードラー王国の一家臣です」

ベサリウスの変わらぬ言葉に辟易としながらも田辺は説得を続ける。

ここでベサリウスが立たねば日本は自力で広大な領域を守らなければならなくなる。

如何にこの異世界の軍事力を圧倒出来ても、それは局地的なものに過ぎない。

他国と面する広大な領域すべてを守れる訳ではない。

日本外人部隊となった在日米軍を併せても流石に数が足りない。

「ですが、いつまでもその姿勢では限界があるのではありませんか?必要とあれば我が日本国政府はあなた方の要請次第で支援、援助する用意もあります」

肥沃と言うほど肥沃でもない土地だが、手を加えれば幾らでも生産力が向上するのだ。

それを聞いてもベサリウスは動かない。

「それでもだ。それに、この領内を守るだけなら何ら問題はない」

おそらくベサリウスは自分の領地を守ることに力を注いできたのだろう。

それを伺わせるに足る自信が見て取れた。

「しかし、先の難民襲撃でも分るように、この地を狙うものは一人や二人ではありません。このままでは何れこの地は踏み荒らされる事になります」

田辺の言葉にベサリウスも思うことがあったのだろう。

少しばかり表情が曇った。

「この状況を作ったのは我が国かもしれません。しかし、時代が動いているのもまた事実です」

田辺の言葉を聞きながらベサリウスは考え込んだ。

確かに、日本が現れ、ホードラーが滅び、そして西方がこうまで乱れて居るのは時代が動いたからだろう。

しかも北のバジル王国はベサリウス領を常に狙っている。

そして、隣国であったタラスク王国が乱立した西方諸国を飲み込み始めている。

既に西方半ばまできているのだ。

ハッキリ言って悠長に議論していられる状況にはない。

しかし、ベサリウスには決断しかねた。

長く王家に仕え、それを誇りとしてきたのだ。

時代がそうなったからと言って簡単に捨て去るのは簡単ではない。

「・・・一旦休憩にしましょう」

ベサリウスは考える時間がほしかった。

正直に言えばそれが最善であり最良な判断だろう。

頭では最初から分っている。

しかし、気持ちの整理が付かないのだ。

「・・・分りました。続きは明日にしましょう」

既に日も暮れ、夜の帳が下りてきているのに田辺も今更ながらに気付いた。

「ですが、今一度考えてください。既に残された時間はあまり多くはありません」

暗にベサリウス領を取り巻く状況が切迫している事を揶揄するために言った田辺だったが、まさかこれが本当になるなど露ほどに思っていなかった。


ベサリウスの予想以上な頑固さに田辺は辟易としていた。

これなら北野が言う尻に火が付いた状況を待てば良かったと思う。

しかし、その状況が実際に着てからでは遅すぎる。

ならべく日本が関わらずに済ませれるならそれに越したことはない。

そのために北野に無理を言って今回の会談を行ったのだが、少々稚拙だったのか?

と考えてしまう。

しかし、あの北野が何ら確証もなく会談を認めるわけがない。

恐らく、北野は何らかの確信があって会談を認めたのだ。

いや、この場合、北野が持っていて自分が持っていない切り札というべきか?

それが何かは分らないが、少なくともタイミング的には問題ないはずだ。

田辺は野営地に帰る途中でそう考えていた。



「田辺さんと北野さんの違いですか?」

野営地で北野と最も接してきたであろう高橋に田辺は思い切って聞いてみた。

会談の内容は明かせないが、北野と自分の違いを感じた限りでよいので教えてほしいと言われた高橋は、内心で交渉がうまく言ってないのを感じた。

「なんでも良いから気付いたことを教えてもらえないかしら?」

田辺にそう言われはしたが、流石に高橋にも思いつかない。

そもそも担っている役割が違うのだ。

少し考えた高橋は思いつくことをそのまま言ってみる。

「男性と女性ですかね?」

「そんなのは言われるまでもないわね」

「役職と権限?」

「それも言われるまでもないわよ?」

「じゃあ、抱える仕事の量?」

「じゃあ、て・・・それは役職と権限が違えば変わるから同じくよ・・・まじめに考えてる?」

じと目で睨む田辺に高橋は冷や汗を流した。

「これでもまじめなんですが・・・」

佐藤ならおちゃらけた感じで言うだろうが、高橋にそれが出来るわけがない。

「本当に何でも良いのよ」

田辺はそう言って高橋の顔を見上げる。

二人は田辺の方が年上だが、背は高橋の方が頭一つ分程高い。

そのためどうしても田辺は見上げる形になる。

「何でもいい・・・と言われましても・・・あ」

ふと思いついた様な高橋の様子に田辺は興味津々で言葉を待つ。

「持ってる手札の量」

高橋は今度こそ、と言う思いで言ったのだが、田辺はあきれた様子だった。

「あのねぇ、そりゃ私と北野さんでは年季も違うし当然、交渉の手札は全く違うわよ」

ため息混じりに言う田辺の様子に高橋は慌てていた。

「で、ですが、北野さんは自分の下に元ホードラーの人も抱えてますし・・・」

高橋はどう取り繕うか迷っていた。

そんな高橋に田辺は聞いた自分が馬鹿みたいじゃない、と言う雰囲気を出している。

しかし、この時田辺は気付いた。


抱える人材。


たしかに北野は多くの人材を抱えている。

その中には元ホードラー王国の人も少なくない。

それら多くの人材を抱えれたのには理由があるはずだった。

「例えば、どんな人かしら?」

田辺は北野がそう言った人材をどう抱えたのかは高橋にも分らないとは思ったが、だが、どんな人が居るのかぐらいはわかるだろうと思い聞いてみた。

「そうですねぇ、ラーク治安警備局長やシュタイナー補佐官」

二人とも元ホードラー王国の将で、しかも日本との戦いに参加していた。

当然、日本の力を目のあたりにしての鞍替えかもしれないが、話に聞く限りではかなり優秀で人望もあるらしい。

そして次の言葉が田辺を驚愕させた。

「それと、カトレーア元王女とその護衛たちですかね?」

それは田辺も予期せぬことだった。

「はぁ?カトレーア元王女は今や一民間人でしょう?」

カトレーアは今では王家の人間ではなくただの一市民だ。

少なくとも行政にはかかわっていない。

にも関わらず出てきた名前に入っているのはどう考えてもおかしかった。

「ですが、彼女を粗略に扱わずに遇している事で人心を集め、纏めているなら立派な手札だと思いますがね」

高橋は思ったことを口にしているのだが、田辺は逆に高橋に興味を持った。


(ただの脳筋、じゃないようね。ちゃんと見るべきところはおさえているのかしら?それとも単なる偶然?)


そんな田辺の考える様子に高橋はまたやってしまったか?と言う様な渋い表情になる。

しかし、今回の回答はどうやら田辺にとって満足いく答えだったようだ。

「手間をとらせたわね。ありがとう」

田辺はそれだけを言うと足早に自室代わりの天幕に向かった。

礼を言われた高橋は一体なんだったんだ?と言う感じではあったが、ようやく開放されたことに安堵していた。


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