第15話「旅路」
比較的話が通じると思われるベサリウスとの交渉の為に動き出す日本。
果たして、交渉の行方は・・・?
第15話「旅路」お楽しみください。
―――レノン市 市庁舎
ベサリウス領に特使として向かうことになった田辺は、北野が推薦した特殊任務部隊と初めて対面した。
噂には聞いていたが、イメージしていたのとは違い若い自衛官で構成されているのに田辺は驚いていた。
田辺は鍛えぬかれた歴戦の勇士を想像していたのだ。
しかし、例え見た目は予想外であっても一番実戦を経験してきたのは伊達ではなさそうだ。
彼等の表情に自信が溢れている。
これだけでもどれだけ困難な任務を乗り越えて来たのかが伺えると言うものだ。
「はじめまして、今回特使として出向く田辺麻里です」
キャリアウーマンと言う言葉がぴったりの田辺の挨拶に高橋たちも敬礼で答えた。
「今回護衛に付きます特殊任務部隊の高橋重信少尉です」
互いに挨拶を済ませると高橋は道中の案内役として1人の少女を紹介した。
本来ならアインを連れて行きたかったのだが、田辺が女性と言うのもありミューリを連れてきていた。
「ミューリと申しましゅ」
ミューリはガチガチに固くなっていたのかちょっとばかり噛みながら挨拶した。
後ろでは井上たちが笑いを堪えながらも直立不動を保つ。
表情は変わらなくとも体が僅かに震えているのを見たらミューリは泣き出すかもしれない。
「そう固くならなくても良いですよ。よろしくね?」
柔らかい笑顔で田辺がミューリに笑みを浮かべる。
ミューリは自分では雲の上の人の様な立場にあり、しかもかなりの美人な田辺に圧倒されていたが、思いの外、優しい人であると理解すると漸く緊張が少し解れた。
「彼女は度々我々を助けてくれました。今までは彼女の村への支援の恩返しとしてくれましたが、今回を機会に正式な報酬と言うのを出してください」
高橋の言葉にミューリは目を丸くする。
たしかに恩返しもあったが、それはこれからもずっと続けようとしていたし、何よりも高橋たちと一緒に居られるからだ。
報酬は有難いが、そうしてしまうと高橋たちと一緒に居られる機会が無くなるように感じる。
それはミューリに取って有り難くない申し出と言えるだろう。
そんなミューリの悲しそうな表情に気付いた田辺は溜め息を洩らした。
(なるほど、北野さんの言う通り生真面目なのね)
とは言えこのままでは可哀想に思った田辺は一つだけ良い方法を考えだした。
「分かりました。報酬は与えましょう」
田辺はそう言うと書類を書き出す。
どんな物だ?と高橋は疑問に思うが、書き終わった田辺が高橋に渡した書類にはミューリを特殊任務部隊専属の情報収集員とする旨が書かれていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!これ報酬ですか!?」
ありえん、と思いながら田辺に詰め寄るが田辺はバッサリと切り捨てる。
「彼女にとっては報酬です」
有無を言わさぬ田辺にたじたじになりながら高橋は更に食い下がる。
「いや、しかし、勝手にそう言われましても・・・人事権の問題が・・・」
高橋は人事権の問題を口にしようとしたが田辺はそれに先手を打った。
「北野さんに了解を取れば問題ありません。即座に『その様に』手続きをとってくれますよ。なんなら今取りましょうか?」
北野なら承認しかねない。そしてやりかねない。
高橋は自分に退路がないことに気付いた。
「・・・了解しました」
諦めにも似た高橋にミューリは何が起きているか理解出来なかった。
軽装甲機動車3台と74式中型トラック2台、そして87式偵察警戒車1台、合計6台の自衛隊車両は87式偵察警戒車を先頭にベサリウス領内を進んでいった。
目指すはベサリウス領の首都(正確には首都ではないが)コンスタンティだ。
本来なら事前に連絡を、と考えたが、この世界における連絡手段があまりにも原始的かつ、日本では到底無理(鳩とか早馬、もしくは魔法通信と言われても日本では実用の範疇にない)があったため、最低限の護衛と共に直接乗り込むしかなかったのだ。
後々、問題になりそうではあるものの、連絡手段も無い為に白旗(一応特使であるとの証明になるらしい)を挙げたまま進むしかなかったのだ。
それ故に特使たる田辺を乗せた軽装甲機動車を守る形で全周囲警戒がとられている。
「コンスタンティは治安がいい」
とミューリは言っていたが、この世界にとって日本は異分子となっている。
如何に話が通じる相手と言われても、今までが今までなので警戒しないわけにはいかない。
ましてや、ファマティー教によるテロもあったが故、なおの事警戒せずにはいられなかった。
「一応、ベサリウス卿は武人であると同時に温和な人柄を持つ御仁なので、だまし討ちはしないと思います」
車内で田辺が交渉に必要な情報を少しでも必要としたため、ミューリはコンスタンティへの道すがら田辺に自身の知る限りの情報を教えていた。
冒険者として以前、コンスタンティに行った事もあるミューリの情報は、今まで彼女が知りえることの出来た貴重な経験でもある。
この世界ではそう言うのは秘匿されがちだが、だからこそミューリのように生きてきた、また生きてるものにとっては収入へと繋がる。
そのため、ある程度のお金をだせば情報を買えるのだ。
しかし、現在日本が保有するアルトリアは当然ながら、ホードラー地区では情報が集め難い。
何故ならば、ホードラー王国滅亡の混乱でそう言ったギルド(盗賊ギルドなる闇組織や犯罪組織)はその力を大きく失っていた。
と、言うのも、日本の情報を得るためにかなりの労力を向けたものの、ハイテク機器による警戒態勢の前では鍛えられた技が殆ど通用しなかったのだ。
結果、捕らえられ処罰されるものが続出し、その活動力を予期せぬ形で喪失してしまったのだ。
「その話通りであるなら、友好的に付き合えるかしら?」
一通り話を聞いた田辺は、内心とは裏腹な質問をミューリにしていた。
その問いの真意には気付かなかったものの、ミューリは首を横に振り否定を表した。
「いえ、ベサリウス卿は義に厚い人物です。王家を崇拝、とまでは言いませんが忠誠心は未だあるでしょう。それであればそう簡単には行きません」
愚直な武人であるが故に王国を滅ぼした日本と仲良く、は直ぐには無理だろう。
だが、同様に領民への責任感も持ち合わせている。
その利害を突く、それが鍵になると田辺は踏んだ。
「なるほどね。如何に先のバジルによって引き起こされた事件の事を差し引いても簡単には行かない・・・か・・・」
だが、そう言っているが思考の奥底ではベサリウスは唯の愚直な人物ではなく、それと同時に優秀な政治家でもあると考えていた。
「ま、出たとこ勝負かしら?」
努めて明るく言った田辺だが、少なくともそれなりの結果を出せると言う自信にあふれているようにも見えた。
大変遅くなりましたが、ようやく更新できました。
取りあえず短いですがこれで第15話は終了です。
ではまたお会いしましょう。