第14話「活動再開」
犠牲者を出したものの襲撃を押し返した日本は新たな方針を打ち出す。
それはこの世界に積極的に干渉することになるのだが・・・。
第14話「活動再開」お楽しみください。
―――レノン市対岸難民キャンプ
最早誰も居なくなった難民キャンプは自衛官たちが資材の撤去のために作業をしていた。
先の襲撃により40人が犠牲となったあの戦いより難民は日本側へと移動させたのだ。
ただし、受け入れた訳ではないので新たに難民キャンプを設置している。
とは言え、今までのキャンプに比べれば雲泥の差だろう。
プレハブとは言え簡易住居に川から引いた水を浄水器にかけた水道。
そして簡易トイレ。
これらの他に赤外線等の警報が柵に張り巡らされ、勝手にこのキャンプから出ないようにされている。
しかし、劣悪な環境では無くなっているので難民たちに不満はない。
むしろかなり良くなっていると言えた。
また、これにより対岸からの新たな難民の受け入れは出来なくしている。
「間宮さん、伊藤さんの後任ですがよろしくお願いしますね」
田辺からの申し出に間宮勇次少佐は敬礼で応じた。
はっきり言って伊藤が失策を犯した訳でもないのに伊藤の代わりに、しかも昇進付きなのは気が引けた。
しかし、誰かがやらねばならないのは事実である以上は間宮は引き受ける気だった。
田辺に頼まれてから一週間経つが、今のところ特に問題はない。
集まった難民の安全も確保して、後は少しずつでも今いる難民を日本の領域に踏み入れさせる。
これを1ヶ月もやればここは誰も居なくなるだろう。
後は橋に敷いた防衛拠点と合わせて難民キャンプを自衛隊の駐屯施設へ作り変えれば無駄もなく使える。
「第03、04小隊は引き続き旧キャンプの撤去。第2中隊は周辺の警戒を第3中隊と交代だ」
基本的に事務屋だった間宮に実戦指揮は無理だ。
やって出来なくないだろうが、伊藤の補佐として事務関連を引き受けていたので自身は訓練の時以外は銃を持ったこともない。
しかし、伊藤の信頼も厚かった間宮は最大限の労力を惜しまなかった。
「間宮大隊長。橋の陣地化は一段落ついた模様です」
今まで自分が伊藤にやってきた様に部下の安西四郎が報告してきた。
「では第03、04の手伝いに第1中隊全体で当たらせろ。日暮れまでには終わらせるんだ」
そう言うと日本本土からの増援を確認する。
明らかにオーバースペックな代物が送られて来たのには間宮自身驚いた。
鉄道の施設も急がれていたが、まだアルトリア内に留まっている。
なのに鉄道を使わずに送られて来たこれらを見る限り日本の燃料事情はかなり良くなっているのだろう。
「もう旧式だが、ここでは遥か未来の代物だろうな」
間宮の手にした資料には「74式戦車」の文字が書かれていた。
74式戦車・・・日本が開発した第二世代主力戦車だ。
90式戦車は高性能だったがコストの問題もあり少数が配備されているだけで、10式が出るまでは実質の主力だった代物だ。
とは言え、10式戦車も配備されだして間もない戦車なので数的には未だ主力の地位にある。
恐らく今回アルトリアに回されたのは10式配備に伴い退役する予定の物が送られて来たのだろう。
また、74式戦車以外にもこれまた旧式も旧式だが、60式自走106mm無反動砲や74式自走105mm榴弾砲まである。
既に鉄屑に変えられているとばかり思ったが、それなりの数は確保してあったらしい。
「しかし、我々からすれば親父の代の代物なんだが、ここではこれでもオーバースペックなんだよな」
日本から送られて来たこれらの装備を見る限り日本はこの大陸で事を構える事態になると判断しているのだろう。
「もしくは先の襲撃が精神的なダメージとなった・・・かな?」
政治の事は間宮には分からないし、その中に首を突っ込む気もない。
しかし、日本が未だこの世界では孤立している以上は無いとは言えない。
日本はエルフの国と国交を正式に樹立し、アルトリアとの国境沿いの都市建設が加速しているが、やはりそれ止まりだ。
他に国交を持った国が無ければ持つための交渉すら始まっていない。
これは南ホードラーが対立姿勢を持ったままなのと、西ホードラーが戦国時代化しているために日本がこれ以上先に進めないのが原因だ。
また、ファマティー教のテロ活動によりホードラーの開発が遅れたのも一因と言える。
とは言え、まだ足りない物ばかりだが着実に足場は固めて来た。
動くならそろそろか?
間宮はそう思うと伊藤が信頼を寄せていた北野がどうでるか、と考え出していた。
―――シバリア市行政区
シバリア市内のテロの拠点を全て制圧する事が出来た高橋たちはようやく3日の休暇を与えられた。
しかし、この休暇が新たな任務の前に与えられる物だと知っているのは高橋だけだ。
次の任務はベサリウス領に特使の護衛として向かうことになる。
それが無事達成出来れば今度は北、バジル王国への攻撃だ。
今回はバジル王国をベサリウス領に組み込ませる為の戦いになる。
バジル王国はベサリウス領としか繋がっていないので、北野の目論見としてはバジル王国を日本が、ではなくベサリウス領に確保してもらい相互貿易をしたいと考えていた。
ベサリウス領には農耕技術を含めた技術を輸出、そしてベサリウス領からはバジル王国の鉱山からの資源の輸出。
これら相互貿易が条約として締結出来れば日本の産業が一部でも蘇る。
それを目しているのだ。
最初はバジル王国を日本領にしてしまえ、と言う主張があったが、飛び地になるので統治が難しい。
また、新たな領土を得てそこも開発、となると正直他の地域の開発が疎かになる。
いくら北野でも飛び地を含めた全域をカバーしきれる物ではないのだ。
だからバジル王国はベサリウス領に任せる他無い。
問題は、ベサリウス領を支配しているベサリウス元男爵が素直に受け入れるか?と言うのがある。
何せかなり義理難い人物らしい。
ちょっとやそっとで独立するとは思えない。
それでも北野には勝算がある様だが、高橋には思い付かない。
「結局、蓋を開けるまでは分からない、か・・・」
北野ほど視野を拡げれない自身には実際に事に接しない限りは分からない。
そう考えると高橋はシバリア市内仮駐屯地となったカトレーア邸近くの貴族の屋敷の窓を開けた。
貴族の屋敷は広く、小隊だけで使うには広すぎた。
なのでテントやプレハブ住まいの他の部隊もここに来ている。
おかげで庭は車両置場兼整備場と化していた。
しかも、付近の住人が物珍しさに見物までしている。
関係者以外立ち入り禁止にしているが、時折行商が入り込んで商売する有り様だ。
「営門は何をやってんだ?」
賑やかな駐屯地入り口付近を見た高橋は頭がいたくなった。
見知った連中が行商の相手をしてるからだ。
「あのバカ・・・」
遠くから井上のはしゃぐ姿に高橋は頭痛薬がほしくなった。
最近空気な主人公がまた活躍しだしますw
さて、あっと言う間に14話まで来てしまいました。
色々すっ飛ばしてるようにも思いますが、ダラダラやってる場合でもありませんしね。
後で補足でもしようかな?
と思っています。
多分やらないけどw
では、また次回でお会いしましょう。