表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/82

第13話「理解」

犠牲者を出日本、そして、義を持ってガリウスを討ったベサリウス。

二人の出会いが日本に新たな針路を示す。


第13話「理解」お楽しみください。

ガリウスが死に、残った兵士たちは混乱の中でベサリウスに討たれていく。

流石に怒りのまま混戦の中に入り込めなかった伊藤は状況を見守るしかない。

だが、最終的にガリウスの部隊は殲滅され、生き残りはいなくなる。

本来なら降伏を進めるのだが、ガリウスの軍勢は薬物により意思がない。

命令が無ければ降伏もしない。

故にどの道、殲滅する以外無いのだ。


基本的にバジル王国は鉱山による収入が主になる。

その性質からどうしても荒くれ者やならず者が集まる。

そうなれば犯罪も増え治安が悪化するのだが、バジル王国ではどんな軽い犯罪を犯したにしても刑罰は単純だ。

薬物により意思を奪われた生きた屍にされ奴隷か囚人兵となる。

薬物を使うことで反抗心を奪い、命令に忠実な人形と化すのだ。



ガリウスの部隊が殲滅された時、自衛隊とベサリウス騎兵隊は互いに睨みあっていた。

ベサリウスにすれば自領に無許可で入り込まれているし、自衛隊からすれば元ホードラー王国の貴族相手だ。

互いに油断できない。

しかし、ベサリウスはこれ以上不毛な睨み合いをする気もない。

ならば、せめて日本の兵士の遺体と遺品を返還したいと思った。

「ベサリウス様!危険です!」

王国を滅ぼした日本に危機感を持った部下が注進するが、少なくとも難民を守ろうとしたのだ。

ベサリウス自身、義を知るものとして日本もまた義を知るものだと思っていた。

義を知るならば話ぐらいはしても危険はない、そう判断したのだ。

「大丈夫だ。彼等が無闇に攻撃するならば、ガリウス軍と一緒に討たれている」

そう言って一人で自衛隊の鉄の車に向かっていく。

その様子を見ていた伊藤は89式装甲戦闘車から降りてベサリウスに向かって歩きだす。


両者は顔が見える位置で止まる。

ベサリウスは馬から降りると伊藤に向かって声をあげた。

「私はベサリウス、この地を統治する者だ」

恐れるものは何もない様な威風堂々とした名乗りに伊藤も応えた。

「私は日本国陸上自衛隊レノン駐屯地指揮官、伊藤重信いとうしげのぶ少佐です」

ベサリウスは奇妙な出で立ちの伊藤に興味があった。が、まずは難民を守り散った日本の兵士の遺体や遺品を返還する事を告げる。

その申し出に伊藤は感謝の言葉と勝手に領内に侵入した事を詫びた。

二人は互いに話が通じる相手だとすぐに理解するが、双方がここでいきなり会談する訳には行かない。

ベサリウスは領内の意思をまとめてからで無ければ出来ない。

伊藤に至ってはその権限がない。

「貴君らの勇敢さと崇高な行為に敬意を払う。また会おう」

ベサリウスはそう言って馬に乗り部下の下に向かっていく。

伊藤はその後ろ姿に敬礼で答えると、掛井たちの遺体と遺品を残さず集める様に指示を出した。



野は難民キャンプに起きた襲撃をその日の内に耳にした。

田辺から無線電話で報告されたのだ。

その上で犠牲者が40人でたこともだ。

これだけ纏まった形で犠牲者が出た事は転移後初だろう。

それまで自衛隊の犠牲者はエルフとの誤解により一名、そして一連のファマティー教のテロで八名、合計九名であった。

しかし、ここに来て40名が難民キャンプを守るために命を落としてしまった。

これは問題になる。

北野は即座にそう考えた。

その為、田辺との話を一端切って日本政府に連絡を行った。

後日、詳しい経緯はまとめて報告する事になったが、この話に鈴木たちは狼狽えた。


「・・・40名、決して少なくない人数です」

伊庭は苦しそうに言った。

彼とて政治家だとしても、自衛隊に対して責任を持った立場にある。

この事態には彼自身、難民を刺激しないように配慮するよう通達を出していたのだ。

それがこの結果ならば、責任を持たなければならない。

「確かに少なくない。だが、今回の事態は不測の物だ」

伊達はそう言いながら伊庭の考えを読み取る。

伊庭の責任感を把握してた伊達はそう言って責任追及の話にならないようにした。

誰が悪い訳でもないのだ。

しかし、誰かが責任を負わねばならない。

まさか現場の人間に責任を押し付ける訳には行かない。

だが、鈴木も伊達も、こんな状況下で伊庭に辞められても困るのだ。

伊庭は冷静に場を分析し、今までの防衛大臣と違い明確に自衛隊に何が出来何が出来ないのかを把握している。

その上で政治家でありながら戦略家でもある伊庭は得難き人材だった。

何故彼が政治家になり、自衛隊に行かなかったのかが不思議な程だ。

「現場の指揮官は伊藤とか言ってたな」

鈴木は確認するように伊庭に聞いた。

その言葉に伊庭がまさか、と言った表情を見せる。

「総理!現場の人間を人柱にする気ですか!?」

絶対に承服しかねると言った雰囲気で伊庭は鈴木に詰め寄った。

しかし、鈴木とて分かっていた。

それがどれだけ卑怯な事で許されざる事かぐらいは・・・。

だが、ここで防衛省のトップを替える事など出来ない。

この状況下で伊庭以外に防衛省を任せられる人材もいない。

ならば伊庭が責任を取って辞めなくていい様にしなければならない。

「伊庭、今お前以外に誰が防衛省をまとめられる?」

正直、鈴木とてこんな判断を下したくない。

だが、今は有事なのだ。

日本が転移し、存続の危機があるなかなのだ。

「すべては私の判断であり決定と明記しなさい。全責任は私が負う」

はっきりと告げる鈴木に伊庭は何と言って良いのか分からなかった。

鈴木は恨みも何もかも自分一人に集める気なのだ。

それは伊達も付き合うと言うぐらい一人で背負い込むには重すぎる物だ。

しかし、鈴木はやるだろう。

そうして各方面がやり易い様にしている。

例えそれが自身が不名誉な汚辱にまみれるとしてもだ。



「伊藤重信少佐。現時点を持ってその任を解く。速やかに日本に帰国せよ」

苦々しい思いで北野は直接レノンに出向き伊藤に告げた。

田辺が抗議の声を上げようとしたが、それよりも早く伊藤は了解しました。と言って敬礼した。

「・・・すまない」

北野にしては珍しく北野は苦しそうだった。

そんな北野に伊藤は笑顔を見せる。

「お気に為さらずに、私一人の身で問題を沈静化出来るなら安いものです」

そんな伊藤に田辺は泣きそうになっている。

北野はせめて何か出来ないか?と聞くが伊藤は頭を横に振った。

「40名もの隊員を犠牲にしてしまったのは私自身の指揮に問題があった。それは事実です。それに・・・」

一端言葉を切る伊藤は何か遠くを見ている様だった。

「これまでに出た犠牲者の遺族に詫びにいかねばなりませんから」

そう言う伊藤の顔を見ながら北野は決意を新たにする。

「総理からは現場の人間の名前は出さずに蹴りを着けると言われています。しばらく日本でゆっくりしてください」

伊藤は俯きながら被ってた帽子をさわる。

その表情は帽子に隠れ伺うことはできない。

「伊藤さん、帰国は一時的なものです。貴方にはまだまだ仕事を任せたいのですから」

北野は絶対に伊藤をこのまま終わらせる気などなかった。

何故なら伊藤は今まで的確に行動し、今回以外の事態でも常に功績をあげてきた。

それだけ状況判断ができ、尚且つ人望もあった。

だからこそこの地に欠かせない人材なのだ。

「感謝します。それとお願いがあります」

北野の善意に乗っかる形で悪いとは思ったが、伊藤はこの機会をおいて他に頼む事はないと判断していた。

「程度によります、としか言えませんが・・・」

はっきり言ってホードラーとアルトリアの両方に責任を持つ北野は必ず出来るとは言えない。

「それで構いません。ただ、対岸のベサリウス領の事です」

伊藤は難民キャンプに襲撃をしようとした勢力を相手に戦った勇士の話をする。

伊藤は彼なら日本に取って有益な存在になると判断しての事だ。

彼がもし、日本と正面から向き合ってくれるなら、日本に新しい友人が作れる。

そう願ったのだ。

「わかりました。早期に私自ら動いてみます」

北野の言葉に伊藤は直立不動の敬礼を持って応えた。


更新遅れて申し訳ない。

1日ずれてしまいました。

何せ帰って来たのが夜中で疲れてまして・・・と、言い訳しても仕方ありませんね。


さて、第13話如何でしたでしょうか?

賛否分かれる処置だとは思います。


では、また次回でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ