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第9話「西方諸国」

シバリア市内での騒動は一端幕をおろしたが、そのほかの都市でも問題は存在した。

そして、そんな中、西方に動きがあった・・・。


第9話「西方諸国」おたのしみください。

―――レノン市レノン市庁舎


難民問題に直面しシバリア行政区並みに忙しいレノン市の行政を司る市庁舎では、北野の後輩である田辺麻里たなべまり市長が四苦八苦していた。

まだ27なのだが、その交渉力や現状把握に定評があり、北野も「いずれは私の後任にしたい」と言うほどの女性だ。

ただし、性格がややきつめな為、嫁の貰い手がいないと言う悲しい現実を突きつけられている。

もっとも、彼女は嫁にいく気がさらさらなく、親泣かせではあった。

「田辺市長、難民キャンプでまた小競り合いです」

連日の様に起きる食料などを巡っての争いに彼女はため息をついた。

「十分食べて行ける量は出しているのに・・・」

そうは言ってもこのまま暴発されては堪らない。

即座に鎮圧を命じた。

疲れた様子の田辺に秘書がお茶を出す。

「恐らく、ストレスが溜まっているのでしょう」

秘書の言葉に田辺はよくわかると感じた。

何せ長い者だと1ヶ月以上キャンプで寝泊まりしてるのだ。

これだけ長い間悪条件の中で生活していれば心身ともに疲労してしまうだろう。

「だからと言って即座に入国はさせれないし・・・何か良い案はないかしら?」

頬杖をつきながら考えるが、抱えている様々な問題から早期入国は無理がある。

ファマティー教や旧王国の残党などを警戒しなければならないからだ。

しかし、川の対岸側には西方諸国が群雄割拠中であり、難民の数は増えている。

このままでは不味いのだが、明確で確実な方法がなければ入国は難しい。

現状では難民一人一人を調べてようやく入国、と言う手順を踏むしかない。

「ところで、西方諸国の情報は集まったのかしら?北野さんからもせっつかれてるのよね」

田辺の様子に秘書は苦笑いを浮かべて報告書を出した。

日本外人部隊、治安警備隊から選出された諜報員からの連絡だった。


報告書によると、西方の貴族たちはそれぞれが西方の王にならんとして建国した様だ。

それ自体は以前から情報として入って来ている。

問題はその後だ。

何がどう変化してるかをはっきりと把握しなければ日本としても打つ手がない。

まさか見ず知らずの土地に交渉に出掛けても危険しかないからだ。

そして田辺が手にする報告書には、集められた情報がまとめられて書かれている。

これ一つで、とは行かないが大まかな状況は掴めるのだ。


そして、それは書かれていた。


「西方諸国の更に西の国が侵攻?」

西方もホードラー王国の一部だった時は隣国であったタラスク王国が西方諸国を制しに侵攻を開始したと書かれていた。

タラスク王国は商業が主流で交易で成り立つ国である。

その性質からかなり協力な傭兵団を抱えており、単純な数だけならホードラーを上回る。

ただし、傭兵と言う物はいつ裏切るか分からない存在でもあるため、無闇に戦争はしないはず、だったのだが、これには日本の影響が大きく関わっていた。

タラスク王国は北西部にアルトリアとタラスク王国を分ける山脈があり、直接アルトリアには入れなかったが、西方ホードラーとは平原続きだ。

かつては何度か戦争もしたが、基本的に西方諸侯の力で牽制できていたのだが、日本によりホードラーが滅び西方諸侯はそれにより分裂、各小国になってしまっていた。

結果、協力して牽制出来ていた形が崩れ、タラスク王国はそこを突いて西方を自国領土にしようと動いたのだ。

ある意味で日本の取った行動でタラスクは押さえられていた野心を揺さぶられ、領土拡大の機会として動く理由を与えていたのだ。

そのタラスク王国により、西方諸国の3分の1は既に飲み込まれている。

「これは・・・由々しき問題ね」

田辺の言うとおり、タラスクが日本と友好的ならばともかく、そうでないならば直接国境を接するのは危険だった。

何せ日本はアルトリアやホードラーの開発に忙しい。

他国と新たに戦争したりなどする余裕はない。

だが、このままではいずれ西方諸国は併合され日本と直接対面する事になる。

「自衛隊も南を押さえるのに忙しいでしょうから、この地域にまで手が廻るかはちょっと怪しいわね」

田辺の言葉に秘書は大変ですね。と言うしかない。

だが、仮にも北野に認められるだけの能力を持つ田辺は、大変ですます訳には行かない。

時間を稼ぐ、とは言わないがタラスク王国の動きをどうにかせねばならなかった。



―――シバリア市行政区


北野に無線電話がかかって来たのは遅い昼食を取ったすぐ後だった。

市内に今も潜伏するテロリスト対策は本職に任せ、開発などの問題に取りかかっていた北野は無線電話が日本からかかって来たものと考えていた。

しかし、電話の主は北野の後輩でありレノン市長になっている田辺からだった。

「君から連絡とは珍しいですね」

いつもなら北野の方から連絡するのだが、今回は田辺からだったのには驚いた。

と同時に新しい問題でも起きたか?と思っていた。

「シバリアは大変そうですね北野さん」

明るい感じの声が無線電話から聞こえてきたが、こう言う時は厄介な事を言おうとしている。

北野は田辺のいつもの癖からそう考えていた。

「で、何がありましたか?」

嫌な予感を持ちながらも聞かない訳にも行かない北野は渋々ながら田辺に尋ねてみた。

「実は・・・」


田辺の話を一通り聞いた北野は、やはりとんでもなく優秀だ。と田辺の能力を評価した。

「緩衝地帯ですか、なるほど、たしかにいい案です」

北野は田辺から聞いた西方諸国の状況を聞いてたしかに必要だとは思った。

だが、事はそんな簡単ではない。

まず、緩衝地帯となるべき国が日本をどう見ているか?

また、緩衝地帯となるべき国がどの程度の国力があるか?

日本に対し敵対の意志があれば日本と手を組む事はありえない。

そして国力が低すぎるならば今度は緩衝地帯として持たない。

タラスクと言う国がどの程度の力を持つのかはまだ情報が足りず判断難しいが、西方を併呑しようと軍を繰り出せるならば西方諸国をまとめたのと同程度の国力はあると言える。

「田辺君、良い案だが緩衝地帯になれるかは微妙なところだ」

電話の向こうで田辺は落胆していた。

緩衝地帯と言う考え方そのものは間違いではない。

だが、北野からそれをやるための情報が少なすぎると指摘されては実行は難しい。

そんな田辺に北野は語りかけた。

「要は隣国の情報を集めてからでなければ難しいでしょう。それと時期が悪い」

北野の時期が悪いと言う言葉に田辺は気付いた。

「隣国は我々と手を組む必要がまだない、と?」

田辺が問題に気付いた事で北野は自分の事の様に喜んだ。

「ええ、その手の話を相手にするには、もっともっと追い詰められて貰わないと有り難みが薄れますからね」

楽しそうに言ってはいるが、その内容は極めて、そしてかなり悪どい。

つまり北野は西方諸国がタラスクにもっと制圧されて、自分の首にタラスクの手がかかりかけたと認識させてからでなければ日本から話を持っていく意味がない。と言っているのだ。

「まあ、緩衝地帯になりえるか?と言う問題は解決策がありますしね」

久し振りに北野は疲れた表情ではなく、生き生きとした表情になっていた。

そう言う意味ではかなりいい性格をしていると言える。

田辺はそんな北野を想像して、北野の敵でなくて本当によかった。と思っていた。

「とりあえず、情報をもっと集めてください。それと集めた情報は随時こちらに渡す様に。ではまた今度・・・」

そう言って受話器を下ろした北野は、シバリアが片付き次第、田辺の案の検討に入る必要があると考えていた。

まだ、ファマティー教のテロリスト掃討に入ったばかりなのだ。

下手に大風呂敷を広げずにまずは地盤を固め、そこからゆっくりと手を出して行けばいい。

いきなりやればどっかこっかに隙を作る上、日本には一辺に事を行う余力はない。

アルトリアの油田も軌道に乗りつつあるが、まだ産油量は国内分を賄う程でもない。

そう言う意味では現状のまま出来る事から一つずつ進めるしかないのだ。


ちょっと短いですが、ご勘弁を・・・。


次回からは西方に目を向けることになります。


ではこの辺で・・・。

次回でお会いしましょう。

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