「帰宅」「結婚指輪」「昆虫」
質屋『大福』は、化け鼠の老店主が営む、年季の入った店である。
その日『大福』に現れたのは、やたら派手な女だった。
メイクは濃く、露出は多い。だがもっとも目を引くのは、その長髪の色である。ベースはギラギラ輝く黄緑色で、その中に金、青、橙などが混じっている。
なるほど、これは玉虫の化身か。
ならば良い品が期待できそうだと、白髪頭の店主は丸眼鏡をかけ直した。
「これ、買い取ってちょうだい」
女は勧められて席に着くなり、木製の帳場に、さも忌々しそうに紙袋を置く。
店主は「拝見します」と言って白手袋を嵌め、袋の中身を取り出した。
それは全部で四つの指輪ケースであった。
すべて同じブランドのものだ。
店主は一つ目のケースを開ける。
現れたのは豪華なダイヤのリングだった。婚約指輪だろう。期待通り、石の大きさも輝きも文句ない。
店主は二つ目のケースを開ける。
すると、不思議なことに、収められていたのは一つ目と全く同じ、ダイヤの指輪だった。
もしやと思いながら三つ目、四つ目を開ける。出てきたのは二つの結婚指輪であった。これが妻と夫のペアならまだ分かるが、サイズはどちらも細く、内側の刻印も『K to M』で一致している。
本来、ひとつずつしかないものが、ふたつずつ。
はてさて、これはどういうことか?
「これは全てお客様の物で?」
店主は指輪の傷などを確認しながら問うた。
「そうよ。何か文句ある?」
「すみません。来歴を訊ねるのは質屋のルールなんですよ」
特に、このように不可解な場合は、とは言わなかった。
女は「ふん」とでも言うように顎を上げる。
「盗みなんかしてないわよ。離婚してこっちに戻って来ただけ。金遣いが荒すぎるんですって! 昔はそんなところもかわいいって言ってくれてたのに、ケチくさい」
そうして彼女はその左手を見せた。
昆虫の手足は六本。
人間の手足は四本。
その、足りない分の帳尻合わせであろうか。
玉虫女の手には指が六本。
増えているのは、薬指だった。