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自由研究の冒険  作者: 56号
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第四話 地図の向こう側

「昭和の最後らへんって……昭和60年代とか?」

古地図に目を通しながら、諒一はぽつりとつぶやいた。


思い出すのは父・五郎の言葉だった。

「おれが生まれたのは昭和49年だ。ベトナム戦争は終わってて、ウォークマンも出てきてたころだな」

そういえば、そんなことを風呂上がりに言っていた。


「ってことは、この地図に載ってる未成線って、親父が小学生のころの話じゃねえのか……」

扇風機の羽の音が遠く感じる。


地図の端には、手書きでうっすらと書かれた赤鉛筆の線。

“吉祥寺—大和町支線(計画案)”とある。

現在はその上に住宅街が広がっているはずのエリアに、明らかに“つながるはずだった何か”が示されている。


「支線……?」

諒一の眉が動いた。

これまでに読んだ鉄道の本には載っていなかった名前だ。


しかも、地図の隅には、誰かが書き加えたような小さな文字がこう記されていた。


「昭和63年計画凍結/※第八倉地建設事件の余波により」


「……けんせつじけん?」

その単語だけで、なんとなくヤバそうな響きがした。

子ども向けの歴史漫画で見た、“バブル”とか“土地ころがし”とかいう言葉が脳裏をかすめる。


「まさか、鉄道の計画が……事件で中止されたってこと?」


胸の奥がざわついた。

自由研究のテーマとしては破格すぎる。

子どもっぽいどころか、社会派じゃないか。


だが同時に、どこか背筋がぞくりとする感覚もあった。

地図の裏面をめくると、そこには昭和62年の日付とともに、当時の地域新聞の切り抜きが糊で貼られていた。

タイトルにはこう書かれていた。


「都市計画と闇の接点――“八倉地事件”と吉祥寺支線の真相」


「……なんだよこれ」

諒一の声は、図書館の空気にかき消されるほど小さかった。


まさか――

まさか自由研究のはずが、“事件”に足を突っ込むことになるとは。

このときの諒一はまだ知らない。


自分が開こうとしているのは、過去の忘れられた鉄路ではなく、

都市と政治と金とが絡み合った、昭和の亡霊の封印そのものだということを。











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