24/24
終話 紅葉の、その向こうへ
秋の夕暮れ。
風に舞う落ち葉が、歩道をカサカサと転がっていく。
神谷家の居間では、父・五郎がいつものように座卓にあぐらをかきながら、ビール片手にニヤニヤしていた。
「なあ、諒一――紅葉に行こうようって言ってるのは……前田耕陽なんてな……!」
どや顔を浮かべたまま、五郎は満面の笑みで息子の反応を待つ。
だが、そのときの諒一の目が、変わっていた。
もう、そのダジャレに微笑んでみせることも、呆れてツッコむこともなかった。
ただ静かに、教科書を閉じ、筆箱を整理して、言った。
「ごめん、ちょっと勉強の続きあるから」
五郎は一瞬、言葉を失いかけたが――
すぐに何も言わず、苦笑してグラスの中身を傾けた。
(……成長ってのは、寂しいもんだな)
だけど、わかっている。
あの夏、息子は何かを知ってしまった。
そして、何かを選んだ。
諒一の背筋は、かつての五郎によく似ていた。
けれど、その瞳に宿る光は、どこかそれ以上に遠くを見つめていた。
父と子。
真実と正義。
そして未来。
この国に、もし闇があるのなら。
少年はきっと、光を手にしてそこへ向かうだろう。
――おわり。




