第二十二話 夏の終わり、少年たちの選択
長いようで短かった夏休みが終わり、
再び始まった日常の中に、諒一の元気な姿が戻ってきた。
5年3組の教室は、夏の名残を残しつつも、どこか秋の気配を孕みはじめていた。
新しい自由課題や作文の発表、絵日記の交換――
そんな小学生らしい風景の中にあって、諒一の表情には、ほんの少しだけ、
他の子どもたちとは違う重みが宿っていた。
夏休みが終わる数日前。
蝉の声がゆるやかに遠ざかりはじめた頃、神谷五郎は、神妙な顔をして息子を呼び出した。
「……今日はビールも、ダジャレも、なしだ」
それだけで、諒一は何かが違うと察した。
座卓の正面にあぐらをかいて座る父の前に、諒一も正座で向かう。
「支線計画のこと。
変電所施設のこと。
千田事務所のこと。
……そして、尊敬していた上司が、自ら命を絶ったこと――」
五郎の声は、決して感情的ではなかった。
けれど、その静けさがかえって、事実の重さを際立たせた。
「お前が調べていた自由研究は、偶然にしては出来すぎていた。
それでも――俺はお前が、正しいことを見ようとしていたと思う」
その夜、語られた内容のすべてを、諒一は言葉にはしなかった。
けれど、心の中では確かに何かが刻み込まれた。
翌日。
諒一は学校に来ていた杉井慎吾に声をかけた。
「なあ、慎吾……ちょっと、話していいか?」
二人は校舎裏のベンチに腰をかけた。
諒一は、夏の間に起きたことを話した――核心に関わる部分はぼかしながら。
「支線計画のやつさ、ちょっと……いろいろあって、お蔵入りになっちゃった。
“自由研究”が、“自由じゃない研究”になっちまったっていうか……」
おどけて言うと、慎吾は目を丸くしたあと、笑って言った。
「……アジャパーだわ。」
「……それ、うちの親父もよく言う」
「古いけど、味があるよな」
ふたりで少しだけ笑い合ったあと、諒一はお願いを切り出した。
「なあ、慎吾……お前の太陽光発電の自由研究、オレと**共同研究ってことにしてくれないか?」
慎吾は少しだけ考え、そしてうなずいた。
「いいけど、発電効率の計算、手伝えよ?」
「まかせろ。なんなら、“ひらめき電力”で一発逆転だ」
「……ダジャレまで親父譲りかよ」
太陽の下、ふたりの笑い声がさわやかに響いた。
あの夏の真実は、どこかにしまわれたままだ。
けれどそれでも、彼らは前に進むことを選んだ。
それぞれの“正しさ”と“守りたいもの”を胸に抱いて。




