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自由研究の冒険  作者: 56号
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第十四話 裏役たちの記憶

千田尚輝の個人秘書、梨本祐三は、冷や汗をぬぐいながら廊下を早足で歩いていた。

議員会館の地下駐車場へ通じる通路。通り過ぎる職員たちに一礼もせず、ただ無言でスマートフォンを握りしめていた。

――やばい、これはまずい。


スクープの種が掘り返された。

それだけならまだしも、“吉祥寺支線”と“倉地建設”の名を結びつける者が現れたと聞いたのだ。

まさか、こんなにも早く、そして“子ども”によってその火種が生まれるとは思いもしなかった。


梨本は尚輝の父、千田重一の代から仕える古参の男であり、かつて尚輝と共に同じ秘書として活動していた時期がある。

当時から、表の選挙戦略やパーティー運営などは、梨本の妻・香が引き受けており、

梨本は主に“裏の仕事”――土地調整、口利き、金の流れの帳尻合わせといった、表に出ない処理を担当していた。


「尚輝様は、表の道を歩むお方。私が、裏を黙って整える」

そう信じて、長年手を汚してきた。

そして、“第八倉地建設”の設立とその解体も、梨本の指揮のもと、すべて裏で処理されたはずだった。


だが――今、その記録の一端が、何者かの手に渡っている。

誰かが地図を、資料を、証言をつなぎはじめている。


「……子ども? ガキが何を知るか……」

そう言いかけて、梨本は思わず言葉を飲んだ。


記憶には残っている。あの変電所の事故のことを、確かに見ていた少年がいた。

騒然とした現場の隅、倒れた作業員の担架が運び出されるのを、ただじっと見つめていた小さな影。


「……まさか、あれが……あの子が、何だったというんだ……?」


焦燥と警戒が、梨本の中で渦を巻いた。

――すべてを片付けたはずだった。

――何も残っていないと思っていた。


しかし、過去を“埋めた”だけでは、消したことにはならなかった。


梨本はひとつ、ため息をついた。

尚輝のもとに報告を上げるべきか、それとも――

先に“芽を摘む”ほうが、彼にとっても良いのではないか?


必要なら、手を打つ。あくまで静かに、跡を残さず。

それが、自分に課せられた役割だった。


そして、梨本はそっと、懐から名刺サイズの封筒を取り出した。

中には、古いタイプの**“連絡カード”――非公式の実働工作員用通信札**。

政治の世界では、いまだに一部の人間だけが使う、もう一つの電話帳だった。


「必要になったな……また“彼”を動かすときが」


もう一度、影を踏んでしまう前に――

記憶と記録を、完全に抹消しなければならない。


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