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自由研究の冒険  作者: 56号
11/24

第十一話 電話と変電所の影

「とっととお風呂入っちゃいなさい!」


母の声が、夕飯の後のリビングに響く。

「はいはい……」と面倒くさそうに立ち上がった諒一の背中に、またしても父・五郎が絡んできた。


「お、ハム太郎だな!」

「……は?」

「だって、“トットト”って言ったろ? あれ? “トットコ”だったっけ?」


「……始まったよ……」

毎度おなじみのダジャレターンに、もはや反論する気も起きない。

軽く受け流して脱衣所へと向かった。


湯上がりの風は心地よく、火照った体に浴びる扇風機の風が極楽のようだった。

冷蔵庫を開けて、お楽しみのプリンに手を伸ばしたその瞬間――


――プルルルルル。


電話の音が鳴った。

「……まじかよ」


すかさず父の声が飛ぶ。

「電話に出んわ!」


「出るのは母だよ……」

受話器を取った母がすぐに言った。

「慎ちゃんからよ」


プリンのスプーンを諦めて、諒一は受話器を受け取った。

「もしもし?」


「おい、諒一、お前さ、あの支線計画の地図やってんだろ?」

電話の向こう、慎吾の声はいつになく低かった。


「お前もついに乗っかりたいのかよ? 支線計画に」

ふざけ気味に返すと、慎吾はすぐさま否定した。


「バカ言え、オレのは太陽光発電の効率だって言っただろ。……ただな、今日、図書館の電力開発史の資料を読んでて、気になる記述を見つけたんだよ」


諒一は、プリンのスプーンを握ったまま、動きを止めた。


「……何があったんだ?」


慎吾の声が少しだけ低くなる。

「武蔵野の太陽光発電施設が急に計画された理由、な。あれ、“変電所跡地で起きた死亡事故”が関係してるって話があるらしい」


「……死亡事故?」


「そう。“変電設備の地下室で作業してた業者が感電死した”って記録がある。しかも、その場所って、例の吉祥寺支線の変電所予定地だったらしいんだ」


「……まじで……?」

諒一の中で、昨日見たコンクリートの土台だけが残された空き地の映像が、ぞわりと蘇った。


「で、その事故が公にならなかったのは、“あの土地がまだ都の名義のまま”だったからだってよ。

つまり、報道されたら都の責任が問われるから、揉み消された。

けどな……揉み消せなかったものが、もうひとつあるんだ」


慎吾の声の向こうで、小さくページをめくる音がした。


「事故が起きた直後に、その土地を太陽光発電施設に転用する計画が立てられた。しかも、わずか一ヶ月後にだ。どう考えてもおかしいだろ?」


諒一は、プリンの蓋を開けるのも忘れて、黙っていた。

さっきまで“自由研究”だったはずのテーマが、また一歩、奇妙な闇に踏み込もうとしている。

支線計画。地上げ。幽霊企業。変電所。そして、隠された事故。


「諒一……お前の自由研究、気をつけた方がいい。オレは冗談で言ってるわけじゃないぞ」


慎吾の声が、初めて“本気”だった。


「……わかった。ありがとな、慎吾」

「じゃあな」


通話が切れ、リビングには扇風機の音だけが残った。


諒一はスプーンを口に運びながら、冷たく甘いプリンの味が、まるで何も感じられないことに気づいた。


この夏の自由研究――

その終着点は、ただの調べ学習なんかじゃ終わらないかもしれない。












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