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自由研究の冒険  作者: 56号
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第一話 “自由”という課題

三日前、7月最後の日の朝。

夏休みに入ったというのに、早起きしてしまうあたりがまだ小学生らしい。

母親の「宿題、早くやっちゃいなさい!」という“口撃”を背中で受けながら、諒一は居間の扇風機の風を浴びつつ、半分溶けた氷菓子を口に運んでいた。


テレビでは、夏休み特集のコーナーが流れていた。

「きみだけの“じゆうけんきゅう”を見つけよう!」とタイトルが踊り、画面には、虫かごを手にした男の子や、観察日記を広げる女の子たちが映っている。


――カブトムシの成長記録。

――朝顔の観察日記。

――セミの鳴き声の変化と種類の移り変わり。


友達の話を思い出して、諒一は眉をひそめた。

「なんかさ……どれも、子供っぽいんだよな」


クーラーのない家で、扇風機と氷菓子が唯一の避暑道具。

汗をかきながらも、諒一の頭の中には、“人と同じじゃない何か”が引っかかっていた。

「自由研究って、もっとこう……誰もやってない、スゴイこと、ないのかな」


けれど、テレビからは“やさしい先生”の笑顔が、「身近なものを調べるだけでも立派な研究です」と言ってくる。

「立派な研究です、じゃねぇよ……」

諒一はつぶやきながら、最後の一口をくちびるでくわえて、棒だけになった氷菓子のゴミをゴミ箱に放った。


そのときだった。

テレビの最後のコーナーで、ある言葉が引っかかった。


「かつて町に存在した“消えた地図”を調べる、ミステリー研究に挑戦した子もいたんですよ」


“消えた地図”。

それは、諒一が去年の冬、偶然図書館で見つけた、実現しなかった古い鉄道敷設計画の記事を思い出させた。

あの地図には載っていない、けれど確かに存在していた、という“なにか”。


諒一の瞳が、子ども向け番組の最後のワンシーンに、静かに燃え始めていた。

――そうだ、それにしよう。


他の誰もやらない、“自由研究”を。

自分だけの、夏の冒険を。

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