表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

第12話


王宮に戻ったリオネル王子は、午餐会の報告を終えると、執務室で一人、静かに思考を巡らせていた。

彼の脳裏には、午餐会でのロゼの姿が鮮明に焼き付いていた。

「…あのメイド、ただ者ではないな」

彼は、独りごちた。

ロゼが放った言葉は、単なる機転の利いた受け答えではなかった。

それは、熟練した外交官でも瞬時に思いつけないような、相手の心理を巧みに操る卓越した話術だった。

しかも、それを、何の訓練も受けていないはずのメイドがやってのけたのだ。

彼女の言葉に、セシリア皇妃の側近である公爵夫人までもが狼狽した。

そして、何よりも、彼女の毅然とした態度と、ベアトリスを守ろうとする強い意志が、彼の心に深い印象を与えていた。

(彼女は、一体何者だ?ただのメイドにはあり得ない。あの振る舞いは、王族か、あるいは高位の貴族の教育を受けた者にしかできないものだ)

リオネル王子は、自身の記憶を辿った。

彼女がこの宮殿に派遣された時の報告書を思い起こす。

ただの孤児院出身のメイド、と記されていたはずだ。

しかし、彼女の言葉の選び方、立ち居振る舞いの端々に、偽装しきれない高貴さが滲み出ているように感じられた。

(ベアトリスの心を、あれほどまでに変えさせた。そして、あの機知と聡明さ…)

彼の脳裏には、ロゼが庭で花に水をやっている姿、ベアトリスに絵本を読み聞かせている姿、そしてあの朝、絵本を守るために身を呈した姿が、次々と浮かび上がってきた。

その全てが、彼の心を掴んで離さない。

「…フッ」

彼は、かすかに笑みを浮かべた。

それは、普段の彼からは想像できないほどの、興味と、わずかな愉悦を含んだ笑みだった。

「面白くなってきたな、ロゼ」

リオネル王子は、自分のメイドに、ロゼの素性を密かに調査するよう命じることを決めた。

彼の心には、ロゼという存在が、単なるメイドではなく、彼自身の、そしてこの国の未来にとって、重要な意味を持つかもしれないという、漠然とした予感が芽生え始めていた。

彼の視線は、既にロゼという一人の女性に向けられ始めていたが、ロゼ自身は、そのことに全く気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ