12話 勇者歓迎パレード
気づいた時そこは薄暗い部屋の中だった。空間の認識はできるが自発的に動くことはできない。夢特有の感覚。
あぁ、またか。
「お前のせいだ!このクソ野郎がぁぁぁ!!!!」
「ひぃ!ご、ごめんな」
「口答えすんじゃねぇ!」
ドカッ! ドゴッ!
挙げていた手を勢いよく振り下ろす老婆。
僕の口は勝手に動く。あの日をそのままリプレイしたように。
「お前は誰にも愛されない!殺人鬼に居場所なんてない!」
僕はこの人がとても怖い。普段は忘れようと努力しているが不意に夢でこうやって殴ってくる。
わかっている。これは僕の罪悪感が生み出した悪夢だ。だが、夢と知ってなお反撃ができない。悪夢とはそういう物なのだから。
それに、殴られているのは僕に原因があるからだ。
決して許されない僕の罪
「お前のせいでぇ…お前のせいで修太朗はあぁぁぁ!」
「ごめ…んなさ…い…」
助けて…みさと…
◆ ◆ ◆
「あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!」
恐怖のあまり掛布団を蹴り飛ばし、飛び起きる。
「はぁ、はぁ、はぁ…。また、この夢か…」
クソ!最近は寝覚めがよかったってのに!
もう!もう、もう…なんで、だよ
トントン
「失礼します。…大丈夫ですか?叫び声が聞こえましたが…」
起こしに来てくれたのは、僕の専属メイドのマリーさん。まだ少ししか付き合いはないが心配そうな顔をしていて、それが珍しいことがわかる。
「え、ええ、大丈夫です…。嫌な夢を見てしまいまして」
「そうですか。今日は勇者歓迎パレードが夜にあるのでお忘れのないようにしてください」
それだけ言い、いつもの仏頂面で部屋を去っていくマリーさん。
はぁ…みさとに会いに行こう…お前は誰にも愛されない、かぁ…大丈夫、だよな…?
そう思いパパっと身支度を済ませ、食堂に急ぐ。時間的にまだみさとはいないだろうが、部屋に勝手に入るのはよくないし、待っていた方がいいと思い大人しく食堂で待つ。
しばらくするとみさとが目をこすりながら来る。そして迷わず僕の膝に座る。
あぁ。よかった。少なくともみさとには嫌われてない。
気づいたらほとんど無意識的にみさとを抱きしめていた。
「しゅう?また悪い夢見たの?」
「…ん。しばらくこうさせて」
「大歓迎」
こうして抱きしめさせてもらってるだけで僕の精神が正常に保たれる。
獣人になったおかげで鼻が良くなり、みさとの香りが地球にいたときより良く感じられる。気持ち悪いだろうが僕には必要なことだ。
…落ち着いてきた。いつもの修一君に戻れそうだな。
「ありがとうみさと。…大好き」
「…!ん」
「さて!僕の調子が戻ったところで、グルーミングをして差し上げよう!」
「感謝。おねがい」
丁寧にみさとの尻尾のグルーミングを進めていくと、クラスメイトが集まってくる。そろそろ朝食の時間だ。
いやぁ~ご飯がおいしいってホント良いことだよな!本当に
◆ ◆ ◆
時間が経ち夜。
突然ですが今僕は王城側正門前の広場にいます。もちろんみさとも一緒。とゆうかクラスメイト、勇者が全員集まっております。
朝マリーさんが言っていたパレードとやらです。趣旨としては、勇者という絶対の安心を国民と通信の魔道具で各国に見せ安心感を与え、協調性をなんやかんやするんやと。
僕もみさともあんま聞いてなかったからわかんないぜ。
とにかく、今から上部分がないこの馬車でここ、コズミット王国を回るらしい。ちなみに服装は制服。そりゃ勇者が全員持っていて豪華さは無くとも貴族の服ほどの細かさがあるらしいからな。ちょうどいい。
案内されるまま、前から4番目くらいの馬車に乗り込む。この馬車特注らしく、乗る場所が高い。だから御者さんは下の方にいて完全な2人乗りだ。最高。コズミットに50点加点。
乗って周りを見る。予想していたが、上にのぼると結構高かった。
内装はゴシック調の座席に飲み物を置ける机もどきに結構居心地はよさげだった。壁が肘置きにちょうどいいのが高得点だな。
正純君は先頭の馬車にいつも一緒にいる…確か聖女や剣聖のクラスメイトのお二方と一緒に乗っている。心なしか正純君の乗っている馬車は少し豪華に見える。
まあ、勇者様の中の勇者なんだから豪華じゃない方がおかしいか。
みさとを膝に乗せ耳をいじっていると準備ができたのか馬車が動き出す。
王城の正門を正純君が通り抜けると、聞こえてくる歓声。しばらくして、僕の乗っている馬車が正門を通り抜ける。
突き刺さる目線。周りを見下ろすと、どこを見ても人、人、人、人。馬車に近づかないようにブロックしている兵士さんを押し倒す勢いでこちらを見る人、家の窓から見ている人。中には屋根の上に登ってこちらを見ている人もいる。あっ兵士さんに怒られてる。
「わ、わぁ…」
「すごい期待されてるなぁ」
驚きと少しの恐怖が混じった顔をしているみさと。多分僕も同じような顔してると思う。なんか現実味が無くて他人事のように思えてくる。
こんなに人がぁ、誰がいるんだろぉ~。僕らだぁぁぁぁ…
勇者がどれだけ期待されているのかをおぼろげながら実感し、怖くなってきた頃には王城に戻っていた。