07 この時、自分を受け入れてください 一林月編
祝!休日前に無事に二話分を書き上げました!
これで次は第二章の物語ですね!
啾啾啾……
窓の外では小鳥たちが楽しそうに歌い踊り、美しい日の出がカーテン越しに差し込んでいる。私はゆっくりと目を開け、視界に飛び込んできたのは精巧で美しいブラインドだった。
陽光が部屋全体を包み込み、室内は異様に美しく感じられる。ベッドにはまだほのかな香りが残っており、自分の服がきれいに洗われていることに気づいた。
そんな時、部屋の外から食べ物の香りが漂ってきた。私にとって、この香りはとても懐かしいもので、思わずその匂いを追って外に出た。
「あら!起きたのね!ほんと、よく寝たわね……」
セナが楽しそうな笑顔で外から入ってきた。
私は不思議そうに彼女を見つめ、ここがセナの部屋だとようやく気づいた。
「大丈夫?それよりお腹空いてない?朝ごはん作ったんだけど、一緒に食べる?それとも朝ごはんは苦手?」
セナは心配そうな表情で私に尋ねた。
朝ごはんか……そういえば、何日も食べていなかったことを思い出した。
テーブルを見ると、そこにはいくつもの美しく盛り付けられた料理が並んでいて、どれもとても美味しそうだ。驚きつつも私は思わず尋ねた。
「セナ、これ……全部朝ごはんなの?さすがに多すぎない?」
「ああ、違うのよ、ははは!」
セナは少し恥ずかしそうに笑った。「前にある女の子が、私の料理をいつも美味しいって褒めてくれたの。それで新しいレシピを試したかったんだけど、気づいたらこんなに作っちゃって……でも、これ全部余り物だから、食べなくてもいいのよ。」
「そ、そう……なの?」
私は静かにテーブルの料理を見つめたが、言葉を発する前に、お腹が大きな音を立てた。
「お腹空いてるんでしょ?食べる?もし美味しくなかったら、外に行って別の物を試してみるのもいいわよ、どう?」
セナは優しく微笑みながら私を見つめ、温かい声で言った。
外に出るか……外の世界を思い浮かべると、恐怖が一気に襲ってきた。両手は震え、私は右手で左手をしっかり押さえたが、過去の記憶が波のように押し寄せ、吐き気を催すほど不安になった。
セナは私の様子に気づき、表情が心配そうに、そして少し真剣になった。
「そう……ね。この世界がそうだから仕方ない。でも……いいの。」
彼女は私に食器を差し出した。
私はセナの心配そうな顔を見つめながら、無意識に彼女から食器を受け取った。
テーブルに座り、最初の一口を食べた瞬間、涙が自然と頬を伝って落ちていった。
これは夢じゃない。この素晴らしい味わい、こんな感覚は本当に久しぶりだ。昔も、死ぬ前ですら、私は一度もこんな満足な食事をしたことがなかった。それを思うと、胸の奥から深い後悔が湧き上がった。
妹よ、本当にごめん……
ずっと私のそばにいてくれたのに、君が亡くなる前に、一度も美味しいご飯を食べさせてあげられなかったなんて……。
気がつくと、テーブルの料理は一口ずつ、すべて私の胃の中に収まっていた。
「あの、リンユエ、大丈夫?そんなに美味しいの?」
セナが驚いた顔で私に尋ねた。
「そうだね、もうずっとこんなに楽しく食事をしたことなんてなかった……本当に久しぶりだよ。」
私は俯きながら、自分の過去や、もう取り返しのつかない出来事について、誰にも打ち明ける勇気がなかった。
「そう?それは本当に良かったわね、リンユエ。」
セナは満面の笑みで私を見つめながら、心からの安堵を込めた声でそう言った。
……朝食を終えた後、セナが突然私の手を引き、一緒に部屋の外に連れ出した。
「な、何をするの?」
私は緊張しながら彼女に尋ねた。
セナは部屋のドアを指さし、微笑みながらこう言った。
「何をするかって?もちろん、外に散歩しに行くのよ!リンユエ、私を信じて。外の世界は、そんなに怖くないから……」
彼女が言葉を言い終える前に、私の心は既に混乱していた。頭の中では過去の辛い記憶が次々と蘇り、緊張のあまり彼女を直視することすらできなかった。私は俯いたまま、突然彼女の横を駆け抜け、一気に自分の部屋に戻ってしまった。
その時、セナはその場に立ち尽くし、少し厳しくもどこか失望したような表情を浮かべていた。
私は部屋に閉じこもり、ベッドに飛び込むように横たわり、静かに考え込んだ。頭の中には数えきれないほどの思い出が押し寄せ、さらに混乱し、どうすればいいのかわからなくなった。
外の世界……かつて自分が経験した全てを思い出すと、現実世界の中で起こった消えない悲劇を思い出し、私はただ逃げ出したいという気持ちでいっぱいだった。逃げて……できるだけ遠くへ。
どれくらい時間が経ったのかわからない。時が止まったように感じた。目を閉じ、自分自身に問いかけたかのようだった――私はもう全てを諦めたのだろうか?
その時、妹との昔の会話を思い出した……
「ねえねえ、お兄ちゃん、もしある日異世界に行ったら、どうする?」
妹は興奮しながら口元を手で覆い、目を輝かせながら言った。
「異世界?うーん……」
少し考えた後、私は興奮気味に答えた。
「異世界に行くなら、後宮を築いて、強大な力を持つ、レベル999の勇者になりたい!」
「そう……ふぅ。」
妹は微かにため息をつき、再び興味津々に尋ねた。
「それじゃあ、それが死後の世界だったら?」
「死後の世界か……それなら勇者ギルドを探すか、異世界で友達を作るかな。だって、それはもう別の世界なんだから。」
私は何気なく手を振りながら、少し軽い調子で答えた。
「もし本当にそんな世界があるなら、ゼロから全てをやり直して、かつて達成できなかった夢を追いかけるよ。多分そんな感じ。」
あの時の私は、それをただの冗談として、適当に答えただけだった……
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どれくらい時間が経ったかわからないが、気づけば眠ってしまっていた。目が覚めたとき、ふと気づいた――ここは、まさに異世界だと。
脳裏に妹が言った言葉が浮かんだ。
「お兄ちゃん、こんなこと言うのは変かもしれないけど、ずっと一人ぼっちでいないでほしい。私以外にも友達を作ってほしいの。約束してね。」
彼女の声が鮮明に耳に響く。それなのに、現実の私はただ逃げ続けている。私は本当に怖いのだろうか?いや、本当は怖いのではなく、ただ孤独を感じているだけなのではないか……?
「ここにギルドとかあるのかな?」
私は独り言のように呟き、窓の外を見上げた。
目の前に広がるのは、美しい景色だった。ここは、私が住んでいた古びた街ではなく、田園風景が広がる美しい場所だ。
遠くを見渡すと、陽光が緑の田園に降り注ぎ、微風がそっと吹き抜けていく。かつての私は、自分ならどこへでも行けると強く信じていたはずなのに、結局どこに行ったのだろう?
……今の私は、もはや誰かに助けを求めるような自分ではない。
でも……心の奥底では、言葉にできない孤独や寂しさが消えない。
これが本当に私が望んだ人生なのだろうか?私は本当に自分のために選択できるのだろうか?
それとも、ただ生きる意味を探し続けているだけなのだろうか?
ふと、セナが語っていた寓話が頭をよぎった。
「過去を胸に抱き、目的のない夜道を彷徨い、不眠の闇へと歩みを進める。流れる雲に未来の誓いを立てるけれど、置き去りにされるのを恐れている……」
そうだ、私はずっと人と関わるのを怖がり、他人に迷惑をかけるのを恐れていた。でも、同時に誰かに自分の心を聞いてほしいとも思っている。
矛盾した感情に囚われ、気づけば全てを失い……幸せの端を掴むことすらできない。
こんな私なんて、一体何なんだろう?
これがすべて、ただの冗談だと言うのなら――それも仕方ないのかもしれない。
もがけばもがくほど深みに嵌まり、果てしない闇の中で足踏みしているような気がする。
目の前には何もないはずなのに、心の中は引き裂かれるような痛みでいっぱいだ。
人はよく言う――孤独な気持ちになればなるほど、晴れることのない暗雲が心に立ち込め、息苦しくなると。
でも、私はそんな結末で終わりたくない。
変わらなければならない。
この世界を変えるんだ。今の私は小さくて脆いかもしれないけれど、息をしている限り、立ち上がる理由はまだある。この終わりのない運命を変えて、この世界を変えてみせる。たとえここが見知らぬ新しい世界だとしても、私はそれに変化をもたらしたい。
もうこれ以上、落ち込んでいるわけにはいかない……。
「そうだよ……」
ドアの外から声が聞こえた。セナがドアの向こうに立っており、静かながらも優しさのこもった声で語りかけてきた。
「君……全部聞いてたのか……でも、そんなの関係なく、僕は……」
私は口ごもりながら話しかけたが、言葉は途中で詰まってしまった。
「ええ、全部聞いてたわ。」
セナはそっと息をつき、穏やかに言った。
「昔の私はね、毎朝起きるのが怖かったの。だって、残酷で退屈な日々がまた始まるってわかっていたから。いくら私のレベルが高くても、それで何が変わるの?どんなに強くても、今の状況を変えることなんてできなかった。」
セナの声には、自嘲とどこか平穏な決意が込められていた。
「私も君と同じように、誰かに頼りたいと思ってた。でも努力なんて、私には向いてなかった。むしろ諦めたり、絶望したりする方が得意だった。そんな日々は、結局すごく疲れるものだったよ。」
彼女は少し間を置いて、私を見つめ、優しい口調で続けた。
「でも、それがどうしたの?変えたいの?もし君がそう思うなら……一緒に実現しようよ。」
「昔の私も、いつも落ち込んでばかりだった。でもね、行動すれば、そして変わろうとすれば、幸せと希望は少しずつ見えてくるんだよ。」
セナの言葉はまるで一筋の光のようで、私の心にかかっていた霧を晴らしてくれた。過去の自分を思い返すと、うまくいかないことがあった時は、いつも音楽に感情を託していた。今も、きっと新しい方法を探しているだけなのだろう。
私は深く息を吸い込み、ドアをゆっくり押し開けて、セナの前に立った。
彼女は手を差し伸べ、優しく言った。
「さあ、行こう。一緒にね。怖いなら、私もいるからさ。ほんとに……ほら、行こう!」
セナは笑顔で私の手を握り、私を外へと引っ張っていった。
私たちは再び玄関まで来た。ここまで来た以上、もう逃げるわけにはいかない。
私は力を込めてドアを押し開けた。目の前に広がる光景に、思わず息を飲んだ――真っ青な空、色とりどりの花々、澄んだ鳥のさえずり、そしてそよ風が運ぶ爽やかな空気。
ここは田舎のように見えるけれど、それでも心を奪われるほど美しい場所だった。
こんな美しい景色を目にするのは、本当に久しぶりだった。抑えきれず、私は笑みを浮かべた。それは、心の底から湧き上がる久しぶりの笑顔だった。
昔の私はいつもこう思っていた――どんなに頑張っても、人生なんて変わらない、と。
でも、これがきっと人生の旅路なのだろう。複雑な出会いと別れに満ち、何が正解で何が間違いかを知ることはできない。
外に出ると、燦々と降り注ぐ陽光が体を包み込んだ。セナはまだ私の手を握りながら、静かに言った。
「本当にね、君はいろいろ経験しすぎたけど、それでもちゃんと前に進んでほしいんだ。」
そう言うと、彼女はそっと私の手を離した。
一瞬驚いたけれど、すぐに気づいた――彼女が手を放したのではなく、私が自分の意志でその扉をくぐり抜け、かつての恐怖や拒絶を乗り越えたのだ、と。
この新しい世界に来たのだから、この新しい人生を楽しもう。そう、今度こそ私は、心からそう思えたのだった。