19 すべての始まりと終わり-林奥編
包帯の男は林奧をじっと見つめていた……
林奧はそのとき、帽子を深くかぶり直し、包帯の男と林月を見据えた――
「大丈夫、もうこれでいいよ!」林月が林奧に向かって言った……
「何言ってんだよ! 俺がそんなことするわけないだろ! ていうか、自分だけ逃げようなんて考えたこともねーよ、バカ!!」
林奧は林月を睨みつけながら叫び、彼にされたことを思い出し、拳を握りしめた。
その拳に力を集中させ、手を突き出すと、糸が勢いよく飛び出し、包帯の男の持つナイフに絡みついた。
林奧が糸を後ろへ強く引くと、ナイフは勢いよく引き寄せられた――
「うわ……すごっ!」林月は驚いたように林奧を見つめた……
だがその直後、引き寄せられたナイフが林奧の頭にぶつかってしまった!
「ちっ……ガキが調子に乗るんじゃねえ!」包帯の男は苛立ちを露わにして林奧を指差した。
次の瞬間、糸が再び射出され、林月の体を林奧のそばへと引き戻した――
包帯の男はその光景に一瞬たじろぎ、すぐに手を掲げ、林月たちの方へ向けて、何かの能力を発動するかのようにゆっくりと掌を開いた――
「ねぇ、気をつけて、林奧! あいつ、力を溜めてる……自分の前に透明な壁を作ろうとしてるの。あれはガラスの壁……なんとかして壊さないと……」林月は林奧に警告した。
林奧は包帯の男をにらみつけ、血まみれの林月に目を向けたあと、深く息を吸い、そして言った――
「今度は俺がやる……俺は今まで、自分の力を使うのが怖くて、いつも姉さんや妹に頼ってた……
でも俺だって、みんなを助けたい。自分の力で何かをやり遂げたいんだ!!」
彼はもう一度息を吸い込み、糸を勢いよく放った――
その瞬間、包帯の男のガラスの壁が粉々に砕けた。糸の先には、先ほど林奧が奪い取ったナイフが括りつけられていた。
林月は驚きとともに林奧を見つめた。林奧はうつむき、帽子の影に目を隠しながら、静かに微笑んだ――
「てめぇら……」包帯の男は怒りに満ちた目で林月たちをにらみつけ、歯を食いしばりながら低く唸った――
「もう終わりにしよう……そんなことして何になる? 誰かの命令を聞くだけのバカ……
自分の顔を恐れ、壊れた人生を恐れ……そんなお前は、いつまでも誰にも必要とされない、捨てられたボロボロの犬でしかないんだよ」
林月は冷たい眼差しで包帯の男を見据え、そう言い放った――
包帯の男は拳を強く握りしめ、何も言い返せなかった……
その時、林月は林奧に向かって中指を立ててみせた――
「シュッ!!」
林奧はその合図を聞いたようにすぐ反応し、糸を再び放った――
糸に結びつけられたナイフが一直線に飛び出し、包帯の男の左目に突き刺さった!
左目を覆っていた包帯がずり落ち、包帯の男は慌ててナイフを引き抜いたが、血が目から噴き出した。
さらに、目元を隠していた包帯も一緒に崩れ落ち、彼女――いや、彼は、慌てて手で顔を覆い隠し、怯えた表情を浮かべた……
「一体なんなんだよ……お前は何を隠してるんだ? このバカ……」
林月がそう呟き、包帯の男に向かって猛然と突進した――
彼は相手の腕を強く掴み、もう一方の手で顔の包帯を乱暴に引き剝がした――
ちょうどそのとき――
「パァンッ!……ズブッ……!」
突然、鋭く耳をつんざく音が鳴り響いた――
包帯の男の右手には、透明なガラス片が握られており、それを林月の腹にゆっくりと突き立てていた――
「ぷ……あぁ……」
林月の口から鮮血が溢れ出た……
林奧は衝撃で目を見開き、糸を天井の梁に巻き付けて一気に木材を引き落とした――
その重たい木の塊は一直線に落下し、包帯の男の顔面に激しく叩きつけられた――
ガラス片は林月の身体から抜け落ちた――
林奧が再び糸を回収しようとしたそのとき、何かに絡め取られていることに気づいた……
彼が前方を見やると――
そこには無数のガラスの破片と鋭い棘が敷き詰められた罠が広がっていた――
包帯の男は顔の血を拭いながら、ゆっくりと、静かに立ち上がった……
そして再び林月の顔をつかみ、陰鬱な声で呟いた。
「いいか、そこでじっとしてろ。動いたら……この男を殺すぞ……」
そう言うと、林月を勢いよく横に投げ飛ばした――
林奧は緊張した面持ちでその男を見つめた。
すると包帯の男は瞬時に林奧のそばへと移動し、体を密着させながら近づいてきた。
肩をがっしりと掴み、低く唸るように言い放つ――
「殺しはしねぇ……だからあの男のことは放っとけ。さっさと消えろ……聞こえたか? とっとと失せろ!!」
林月は血を流しながら地面からゆっくりと起き上がり、大声で怒鳴った――
「このバカ野郎! 何がしたいんだよ!? そいつを解放して何の意味がある!?
まさか、あの子が戻った後に、姉ちゃんや妹を狙って反撃でもするつもりか!?」
彼は胸を押さえながら、怒りに満ちた声で問い詰めた。
「ん? そんなことするわけないだろ。俺はお前とは違うんだよ……
それに女なんてどうでもいい。男のほうがずっとそそるね。例えば、お前だよ、林月……」
包帯の男はニヤリと笑いながらそう返した――
「よしよし……そんなに言うなよ。どうやってお前を始末しようか考えなきゃな……」
そう言うと、彼は再び瞬間移動し、林月のそばに現れた。
自身の能力でトゲだらけのガラスを生み出し、林月の皮膚を深く突き刺し、皮膚の下まで刺さったガラスに彼を吊るした……
林月はその光景を見つめ、次にどうすればいいか必死に考えていた。
その時、衣服の中で何かを触れた……
男の顔が徐々に近づき、林月に迫ったその瞬間——
林月は拳を振り上げ、手に持っていたものを思い切り包帯の男の顔に叩きつけた!
同時に手の中の結晶も強く相手にぶつけた——
「ドン!!」
結晶は包帯の男の顔で瞬時に砕け散り、氷片が飛び散り、トゲが彼の顔を覆い、血が噴き出した……
林月は衝撃で吹き飛ばされ、背後のガラスも全て割れ、痛みと血の匂いが襲ってきた……
彼は辛うじて頭を持ち上げ、砕けた結晶の方向を見つめた——
そこには雪娜の身に現れたのと似た青い光が輝いていた……
林月はゆっくりと地面から這い上がり、その方向へ叫んだ:
「雪娜……早く来てくれ!このバカ……!!」
そう言い終えると、包帯の男も再び立ち上がり、手にはさっき投げられた刀を固く握っていた。
再び林月に近づこうとしたその時——
一閃の斬撃が走り——
「シュッ——!」
彼の腕は一瞬で斬られ、手の刀も音を立てて落ちた。
包帯の男は痛みに顔をしかめて手を握り、横を見た——
「ったく……バイトに出るなら一声かけてくれよ。俺を頼れば、仕事もはかどるかもしれないのに。まさか、俺と一緒に働くなんて考えたこともないのか……?」
雪娜は冷たくそう言った。
天井には大きな穴が開き、夕陽が差し込み、雪娜と林月の姿を照らしている。
雪娜の周りには氷の結晶のような青い光が輝き、林月の助けを求める声を聞いて駆けつけたようだった。
林月は雪娜の姿を見つめ、傷ついた身体を握りしめ、どうすればいいのかわからなかった……しかし心の中ではようやくほっとした気持ちが湧いた。
「ごめん……俺は……何もできない、何もかも失敗ばかりで……」
彼は淡々とそう呟いた。
雪娜は林月を見て、頭の仮面を外し、それを彼に投げた。
仮面は林月に当たり、彼はそれを拾い上げた。
「何を言ってるんだ?よく見ろ。」
「人はいつもそうだ。仮面をかぶって、自分の感情を隠しながら語る……しかし——」
「謝り続けて、自分にはできないと思い込むなら、お前はずっとその場でぐるぐる回り続けるだけだ。」
林月は雪娜の仮面を握りしめた。その仮面には傷跡が無数に刻まれていた。
「そうだ、実はちょっと視点を変えればいいだけなんだ。」
「お前のおかげで俺はこの世界を知り、お前のおかげで、あの背後の少年も助けたんだ。」
雪娜は再び手にした刀を掲げた。
「助けた?でも俺は……」
林月が反論しようとしたその時、林奧が強く彼の手を握った。
「そうだよ。自分では気づいていないかもしれないけど、君は本当に俺を助けてくれたんだ。もう自分を貶めるのはやめろ!」
リンオウは力強く言った。
リンゲツはマスクを高く掲げ、口元に微かな笑みを浮かべて言った。
「……わかったよ、もういいってば……」
その時、包帯の男は手に持ったガラスの破片を放ったが、雪娜が一刀でそれを斬り裂いた!
斬り裂かれたガラスは全て雪のように変わり、ゆっくりと空中に舞い散った——
包帯の男は驚いたようにそれを見つめていた……
彼は信じられないようにその光景を見つめ、雪娜はもう一度彼の顔に一刀を浴びせ、包帯も一部斬り落とした……
包帯の男は残った片手で必死に自分の目を覆った……
「俺はわからないんだ。お前は何を恐れているんだ?自分の容姿か?理解はできる……でも、ずっと他人に操られる人生を生きているなら、お前はただ他人の命令を聞くだけの犬になるだけだ……」
雪娜はそう言いながら、彼の肩にもう一刀を浴びせた……
雪娜は刀を引き抜くと、彼の手の骨や組織ごと引きちぎり、血が飛び散った……
リンゲツは雪娜のマスクを手に持ち、その一部始終を見つめた。
マスクの裏側には違う景色と立場が映っていた……
包帯の男は雪娜の一刀で地面に倒れたが、まだ諦めておらず、フィナに向けてガラスの破片を投げつけた……
しかし何度投げつけても、結末も全て同じだった——
結末を知り、敗北を受け入れている……この勝利感のない結末は、「結末」と呼ぶにも嫌悪感が湧く過程でしかなかった……
これは包帯の男とリンゲツが共に思いついた理念だった……
だが、異なるタイミングで思いついたため、異なる心情の転換と結末が生まれたのだ……
雪娜は包帯の男が投げた破片と地面のガラス片を全て集め、氷で固めた……
そして再び包帯の男の顔に一刀を浴びせた——
鮮血が彼の顔に噴き出し、包帯の上からも血が溢れ出て顔を覆い、彼の顔には深い傷痕が刻まれた……
続けて、包帯の男の体にガラスの破片が瞬時に砕け散った——
破片は鋭い刃物のように、彼の全身に突き刺さった……
ここに勝者は雪娜だった……
終わった……
リンゲツはマスクを雪娜に返した……
リンオウは驚きながらそれを見つめ、続けてリンゲツのそばに歩み寄り、何か話そうとしている様子だった……
「ん?あの女の子が誰か知りたいのか?出たら教えてやるよ!」
リンゲツは傷を撫でながら笑って言った……
「いや……少しは知りたいけど、そうじゃないんだ。俺が聞きたいのは、なぜお前はずっと俺を助けてくれるんだ?俺はお前に何もしてやってないし、むしろお前に助けられたこともない。それは絶対、お前が言うような、ただ一時的に助けたいと思ったからじゃないだろう!」
リンオウはリンゲツを見つめ、大きな声で言った……
リンゲツはリンオウを見て何も言わず、肩を軽く叩き、静かに笑った……
その後、リンゲツとリンオウは荷物や物を失った人々のところへ一軒ずつ頭を下げて謝罪した……
そして、事は静かに終わった……
月末、本当の年末大会が始まった。
リンゲツ、雪娜、リンオウの姉と妹も会場に来ていた。
彼らは最後の「真剣度」受賞者リストを待っていた……
リンオウが勝てば、姉を助けることができる……
「お兄ちゃん、すごく楽しみでしょ?君はこんなにも真剣に全部をやり遂げて、毎日寝る間も惜しんで働いて、一軒ずつ謝罪し、荷物や物を受け取れなかった人たちの家でさえ、無料の労働者として手伝ったんだから……」
リンオウの妹は嬉しそうにリンオウを抱きしめて言った……
しかし、その時リンオウが本当に考えていたのはそんなことではなかった。
彼はリンゲツを見つめながら、あの出来事が終わった後にリンゲツが自分に言った言葉を思い浮かべていた……
彼はどうやってこの状況を助ければいいのかわからずにいた……
そして表彰台では、本当の一位が発表された——
「はいはい……今回のイベントの一位は栄さんです。彼は今回の大会で最も多くの品物を配達し、合計で1600件も送りました!他の選手は一桁台だったため、今回もチャンピオンは栄さんです!!」
司会者は全ての参加者の実行数を掲示した。
そう……
リンオウの回数も点数も、やはりゼロだった……
そして、煙草を吸う男がゆっくりと姿を現した。
「どうやら、俺がまた一位みたいだな……」
栄は邪悪に笑いながら言った。
そう、彼がリンオウの点数を全て奪ったのだ。
やはりそうだった、運命づけられたことはこうなる——
どんなに足掻き、変えようとしても、結末はいつも決まった答えだ……
リンゲツはリンオウの姉と妹を見つめた……
「お兄ちゃん……なぜ、君は……」
リンオウの妹が言った。
その時、リンゲツはこのすべてを見つめていた。
リンオウに自分が昔経験したあの出来事のような思いをしてほしくない。
あの時、自分のせいで家族が崩壊し、その結果はすべて自分のせいだった……
リンゲツは拳を強く握り締めた。
勝てないことはわかっていたが、それでも黙ってステージに向かった……
ちょうど煙草を吸う男に抗議しようとした時、リンオウがリンゲツの手を掴んだ。
「何をするつもりだ?一人で上がって殴られたいのか?俺もそれで家族を失うのが怖いのか?
でも違うよ、妹は『大丈夫、次は頑張ろう』と言ったし、姉は『結果がどうであれ、君は人を虐げる奴らよりずっとマシだよ』と言った。君はいつでも俺の誇りで可愛い弟なんだ……」
リンオウはリンゲツの手を握った。
「今、あの時の答えを言ってもいいか……?」
実は、すべてが終わったその日、リンオウはリンゲツを見つけて、一緒に海辺へ星空を見に行った。
その夜の星空は本当に美しかった。星空が海の半分に映り込み、左右対称の美しい景色を作り出していた……
リンゲツはその光景を見て驚きながら見つめていた……
「さあ、リンゲツ。教えてくれないか?なぜずっと俺を助けてくれたんだ?心の中に何か隠していることがあるんだろう!」
リンオウはリンゲツに問いかけた。
リンゲツはリンオウを見つめ、実は自分のかつての家族のことを思い出していた。自分が家族を壊し、妹も自分のせいで死んだのだが、そのことを誰にも話したことはなかった。なぜなら、すべて自分のせいだと信じ続けていたからだ……
「リンゲツ、怖がらなくていいんだよ。どんな記憶でも、僕は君を笑ったりしない。どんなことでも、僕はずっと君を支えるから。
それに、もし君がいつも自分の考えるものを心に抱え続けるなら、君はずっとそのままの思いで生きていくことになるよ!!」
リンオウは怖がり、不安なリンゲツの手を握った……
「ゆっくり話そう。僕はずっと君を支えるから!」
リンオウはリンゲツの手を取り、そう言った……
リンゲツは前を見つめ、口を開いた。
「それはとても普通の少年の話だ。その少年は、みんなを不幸にした少年の物語……
その少年の家族はすべてを重んじる家庭で、少年には妹と弟がいた……
少年の祖母や年長者、父親は家の長男がすべてを背負うべきだと思っていた。だから弟や妹が何か悪いことをしても、罰を受けるのはいつもその少年だった……
弟が人の物を盗んだり、誰かが物を壊しても、最後に店に謝りに行くのはいつも少年だった。
他の家族はその少年を嫌っていて、彼はどこへ行っても謝り続けなければならなかった……
やがて、父親が毎日母親を暴力で苦しめ、母親は離婚を決意した……
少年の弟妹は母親をとても好きだったが、父親や祖母は「全部あの少年のせいだ。長男だから」と言い、
弟は少年をひどく嫌うようになった。
しかし父親が酔って暴力を振るうとき、いつも少年が弟妹を守り、そのすべてを受け止めていた……
弟はそれを「全部あの少年が背負うべきことだ」と思い、少年は弟妹が傷つかないように話しかけたかったが、彼らは徐々に彼を嫌うようになった……
もしかしたら、すべてはその少年が引き起こしたのかもしれない……」
その少年は学校でいつもいじめられ、笑われていた。次第に学校に行くことが怖くなった。
誰かに相談したかったが、自分がとても孤独だと気づいた。結局、自分一人だけで誰にも愚痴を言えなかった……
少年はいつも一人で、ずっと耐え続けていた……
やがて学校に行くのをあきらめ、すべてから逃げ続けた……
少年の父親と弟も、少年を嫌い始めた……
ただ逃げてばかりで、問題に直面せずに逃げる少年は本当に嫌われ、憎まれた。少年もそれを知っていたが、なぜか分からなかった……
やがて、父親は外で大きな借金をし、子供たちの養育も面倒になって、屋上から飛び降りてしまい、最後は腐った肉塊となり、泥にまみれた……
祖母たちは父親の葬儀を行い、何万円もかけて哀れな父親を葬った……
「お前の父親は死んだ。もうお前たちのことは知らない。家族のゴミはどこまでも消え失せろ……」と祖母は長男(少年)に言い放った……
「全部お前のせいだ!長男であるお前は情けない兄で、この家の役にも立たず、ただ傍観して学校にも行かないバカだ。お前のせいで両親は離婚したんだ!全部お前のせいだ!!」
弟はそう言うと少年から背を向けた……
その後、借金取りが家に押し寄せてきた。
少年は妹を守るため、すべてを一人で背負った……
その日々、借金取りに殴られ、少年は毎日ひざまずいて謝り、建設現場で働き、毎日現場監督に殴られ、学校もやめた。すべてを良い方向に向けたかった……
しかしまもなく、豪雨の中で少年が見たのは——
血まみれで腐敗した妹の遺体だった。
妹は雨に濡れ、血の匂いが近くの蚊を引き寄せて遺体の腐敗を加速させていた……
少年はそこにしゃがみ、どうしていいかわからなかった。
泣きたかったが、許されず、まったく涙も出なかった……
その後、少年は妹の葬儀をし、犯人を探そうとした。
だが葬儀には何万円もかかり、誰も来ないことを知って、仕方なく火葬にした……
犯人も見つからず、DNAの痕跡はあったのに、捜査官は重要な証拠を捨てられ、上の人間に止められた……
実は妹を殺したのは警察かその側の者だったのだ。
どうやっても捜査は行き詰まるしかなかった……
最後に弟もこのことを知り、誰かを探した……」
いや、これは君に話しても意味がないかもしれない……
リンゲツはすべてを見つめ、前の夕陽を見て、地獄から解放されたかのように感じた……
リンゲツは立ち上がり言った。
「もういいよ。これはただあの少年のクズな人生だ。どうせあの少年は何もできず、何も……」
ここで言葉に詰まり、感情が溢れてリンゲツは走り去った……
「おい……リンゲツ、どこへ行くんだ……」
リンオウは遠ざかるリンゲツを見つめ、空を見上げた……
「バカめ、誰があんたを信じないって言ったんだ。あの少年の話も知ってる。そして俺が今やるべきことは——あの少年を救うことだ!!」
リンオウはそう言い帽子を深くかぶった……
リンゲツの妹は木の陰からこの一部始終を見ていた……
リンオウは、すべての記憶を思い返しながら、そっとリンゲツの手に触れ、そしてその手をしっかりと握った。
彼はリンゲツの手を引き寄せ、その隣に並んで立つ。
「……うん。」
リンゲツはリンオウを見つめる。少し戸惑いと迷いがその瞳に宿り、どう返していいか分からない、あるいは何を言えばいいのかも分からないようだった。
「……さっきの言葉、ちゃんと最後まで言わせて。」
リンオウの声は優しく、しかし芯の通った響きで、まるで暗闇に差し込む一筋の光のように静かに語る——
「……全部、君のせいじゃないんだよ。本当に。
君はただ、あまりにも長い間、誰にも理解されなかっただけだ……
この世界は、決して優しさを基準にできているわけじゃない。
それでも……君は諦めなかった。今日まで、こうして生きてきた……
それ自体が、奇跡なんだ。」
「だから、謝る必要なんてない。
“誰かが決めた『あるべき姿』”に、無理に合わせる必要なんて、これっぽっちもない。
君は、君のままで生きていれば、それで十分なんだ。」
「……もし……どんな結末が訪れても、
その過程が嫌で、結末すら受け入れたくないなら——無理して受け入れる必要なんて、どこにもない。
本当に、ないんだ。」
「最初から最後まで、全部……君のせいなんかじゃない。
たとえ君が——
『誰も生き方なんて教えてくれなかったじゃないか……』
『ずっと頑張ってきたのに、一度失敗しただけでダメ人間扱いされるなんて……』
——そんなふうに問いかけてしまっても、かまわない。
たとえそれが“逃げ”であっても、“言い訳”であっても、間違いじゃない。」
「ただ一つ——もう、同じ過ちだけは繰り返さなければ、それでいい。」
「だから、リンゲツ——僕に……君を救わせて。」
「もう逃げないで。もう一人で背負わないで。
君は今、もう一人じゃない。」
「周りにたくさんの人がいなくても……信じて。今の君には、僕がいる。」
「だから、一緒に行こう。——君の奇跡を、共に見届けよう。」
リンゲツは驚いたようにリンオウを見つめた。そして空を仰ぐと、理由もなく、その目から涙が溢れ出した……
リンゲツにとって、それは初めての感情だった。
今回流れた涙は、冷たく無機質なものではなく、心の奥から溢れ出た温かい涙だった……
どうしても止まらなかった。涙を見せる自分が嫌いなはずなのに、どうしても止めることができなかった……
その時、リンオウはリンゲツをそっと抱きしめた——
『まったく……泣きたいなら泣けばいい。大丈夫、何も心配いらない。今はそれでいいんだよ。』
リンオウはそう言って、優しく笑った……
セツナもそっと視線を向けながら、彼と出会った日のことを思い出し、静かに微笑んだ……
すべては、このままでいい。この記憶の大海原に、永遠に残り続ければいい。
この世界は広大で、どんな出来事も、どんな作品も、そのすべてが海のように心に生き続ける——
誰が“当たり前”を決めたんだろう?
まるで日記のように、今をそのまま残しておけばいいのに……
リンゲツは再び立ち上がった。だが今度は、一人ではなかった。
確かに彼の中に何かが変わっていた……
彼は煙草を吸っていた男の方を見て、叫んだ。
『お前……お前が誰だろうと、どれだけ強かろうと……これは絶対に渡さないぞ。
これはあの子が命懸けで成し遂げたものなんだから!!』
リンゲツは怒りに満ちた声で言い放つ。
『ふん……だから何だ? 何がしたいんだ?』
男は苛立ちまじりに応える。
リンゲツは男を睨み、拳を握りしめる。するとその拳から、黒い物質が溢れ出した……
『な、なんだと……!? まさか……!』
リンゲツが拳を振りかざしたその時——
男は片手でそれを受け止めた……。
だがその瞬間、男の腕が空中で爆ぜ、手指が砕け飛び、大量の血が噴き出した!
男の背後に立っていたのは——セツナだった。
彼女は手にした刃を空にかざしていた……
『ガキが……終わりだ。
お前みたいに階級や金でしか動けないクズは、ここで終わりだ。』
セツナは静かにそう言った……
リンゲツはその隣で、心からの笑みを浮かべた……
そして、少し離れた場所では、ひとりの少女がその光景を見つめていた。
それは、悪霊族の少女だった——
『まったく……あのとき助けてもらったのに、結局私は何もできなかった。……ホント、役立たずだな……』
彼女は笑いながら、そう呟いた……
この大会で最高得点を獲得したのは、リンオウだった。
周囲の人々も、彼の勝利を祝福していた。
『へへっ……皆さんこんにちは。今回優勝できたのは、僕だけの力じゃありません。
もしリンゲツや皆がいなかったら、こんなこと絶対にできなかった。
それに……お姉ちゃん、僕やったよ! 今回はちゃんと、君の役に立てたよ!!』
リンオウは大声でそう叫んだ……
リンゲツは皆の顔を見渡し、過去の“あの少年”を背後に感じながら、彼にこう語りかけた。
『君はやったんだよ。自分の力で、ちゃんと成し遂げた。
誰かの影に縛られることもなく、誰かに従うだけの人生でもない……!!』
彼の背後には、もはや何もなかった。
そこにあったのは——悲しみでも、後悔でもない、確かな一歩だった……。
このエピソードは、実は書いているうちに、後半から突然インスピレーションの扉が開いたような感覚がありました。
回想シーン自体は以前にも一度描いたものですが、今回は別のアプローチでそれを振り返らせています。
そして何よりも、林月が自らの口で初めて語り、それを他人に伝えるのも今回が初めて──。その点で、これまでとは大きく違う試みとなりました。
もし気づいていただけたならうれしいのですが、
今回の章の主役は実は林月ではありません。
この章は大きく三つのパートに分かれており、それぞれに異なるテーマがあります。
――悪霊族、夜咒、フィナ、そして林奧。
夜咒の物語は「救い」を象徴し、
フィナの物語は「家庭」や「家庭という枠組みからの逃避」を、
そして林奧の物語は「兄妹」や「仲間」という絆の象徴となっています。
林月自身は主役ではないものの、これらの物語の中で確実に成長しています。
彼はもう、ただの普通の少年ではありません。
……もしこの意図にまったく気づけなかったとしたら、
それはきっと、作者の表現があまりにも稚拙で、伝えたかったことが何一つ伝わっていないという証拠でしょう。
それどころか、「ただ無理やり話を繋げているだけ」に見えてしまったかもしれませんね。