勇者「気づいた時には全部終わってたんだよ」
「気づいた時には全部終わってたんだよ」
魔王を倒し、帰路についた今、馬車の中で目の前に座る勇者はそんな衝撃的なことを言った。
何を言っているんだこの人は。確かに勇者は強い。強くて、努力家で、それでいてぼーっとしているところはある。でも、いくらそんな勇者だからと言って、そんな簡単に魔王を倒せるはずがない。ぼーっとしている間に魔王すらも打ち払ってしまうなんてことあるはずがない。
第一、僧侶である私は、今回、何もしていない。文字通り、何もしていない。パーティーメンバーは一度も怪我をしなかったし、何なら攻撃すら一度も受けなかった。すべて彼一人で倒してしまった。
正直、こんな簡単に魔王を倒せていいものなのか疑問に思ってしまう。
この世界が実はとあるゲームの世界らしいという噂を聞いたことがある。眉唾ものの噂だが、最近は現実身を帯びてきている。勝手に身体が動いていたとか、やりたくないレベル上げを勝手にしてしまうとか。そういった話をする人が増えて来ているらしい。
勇者もプレイヤーに操られていた一人ということなのだろうか。でも、私は信じたくない。
「いや、それはさすがにないでしょ。ただでさえ、魔王討伐がこんなに早く終わってわたし達も驚いているところなのに。そんなこと言われたら、さすがにあの噂を信じるしかなくなっちゃうじゃん」
「だって事実なんだもん。眠いなーと思ってたら、勝手に身体が動いて、魔王がうめき声上げて死んでた。俺、マジでびっくりしたんだからな」
「お願いだから嘘って言ってよ。私嫌だよ、人に操られる人生なんて。この世界はゲームなんかじゃないって証明して。勇者は頑張って魔王倒したんでしょ?あんなにレベル上げ頑張ってたじゃん」
「実際、本当にゲームなんじゃないかって思っちゃうんだよね。俺そんなに真面目な人間でもないし、強くも無かったんだよ。ビビりだったし、魔物と戦うこともしたくなかった。でも、ある時から操られるように勝手にレベル上げするようになったんだよ。なぜか気づいたらスライム倒すようになっててさ、ちょっと楽になって来たかもって思ったら次はアンデット。意味が分からなかったよ。魔物怖かったのにさ、意識してもしなくても、身体は勝手に動いて倒しに向かう。本当怖かった。それから、俺はこの世界から目を逸らすようになったんだ。そんなことしているうちに、気づいたら魔王倒してた。お前らもそうだろう?」
勇者がパーティーメンバーに同意を求める。百歩譲って、勇者は分かる。その名前からしてこの世界の主人公って感じがするし。でも、みんながそうって訳ではないだろう。
「私もわかるわその感覚。気づいた魔導書開いて、魔法覚えようとしているし、魔法使いすぎて疲れ果ててもなぜか魔法の練習しているし。意味が分からないのよね」
と、魔法使い。まさか勇者と同じような人が居るとは。
「俺もわかるな。もうやめようって思っているのになかなか練習をやめられないんだよ。剣術を極めようとしているのか分からないんだが、無駄に必要ないスキルとか集めちゃって。この前なんて、なぜか壁に100回も体当たりしてたんだぜ。怖いわこの世界」
と、戦士。どうやら、私以外のメンバーはみな噂を信じていたらしい。
「で、どうなんだ。僧侶は。口では否定しつつも、心当たりがあったりするんじゃないのか?」
三人の視線が一斉に私に向く。もう、認めてしまったほうがいいだろう。
「はぁ、私もある。毎晩毎晩身体が勝手に動くの。勝手に呪文を唱えてしまうのよ」
ここに居る全員、認めてしまった。この世界はゲームであるということを。でも、それならば、一つ疑問が浮かんだ。
「でもさ、この世界がゲームだとしたら、凄くつまんないよね。いくらわたし達全員したくもないレベル上げをしていた記憶があったとしても、そこまでがむしゃらにやっていたわけではなかったし、そんな状態で魔王なんて倒せるはずがないと思っていたのにあっさり倒せてしまうし」
「確かに、このゲームめちゃくちゃつまらないよな。俺たち、これで王都に帰って、褒美もらってエンドロールだろ。俺だったら絶対こんなゲームやらないね」
と、勇者が言う。確かに、その通りだ、こんなつまらないゲーム誰が好き好んでやるんだろうか。
「私も、こんなゲームやりたくないわ。そしてそんなゲームの登場人物であることが心の底から腹立たしく感じてしまうわ。製作者はどんな意図があってこんなクソゲー生み出したのかしら。みんなもそうでしょ」
と、魔法使い。そうだ、魔法使いの言う通りだ。ゲームの世界で操られていたこともムカつくが、この世界がこんなにつまらないことも腹が立つ。
「じゃあさ、俺たちでこの世界もっと面白くしないか?」
突然戦士が言い出した。
「俺たちは魔王を倒したわけだし、エンドロールになるだろう。俺たちを操っていたプレイヤーはいなくなる。晴れて自由の身だ。俺たち以外の人たちも操られている感覚がするって言ってただろ。つまり、この世界の住人一人一人にプレイヤーがいるわけだ。だったら、そいつらを楽しませてやるのが、俺たちこの世界の住人の役割って訳で。この世界がつまらないなんて言われたら溜まったもんじゃないし、倒せない魔王に俺たちがなってやろうぜ」
全員が顔を見合わせる。そしてみな首を縦に振った。
あの会話から数年が経ち、わたし達は魔王城に居る。数多のプレイヤーたちを迎え撃つために。この世界最恐の4人なんて呼ばれ方も板についてきた。
あの会話の後わたし達は王都に着き、この話を王様にした。王様はなぜかものすごくノリノリで、わたし達の提案に乗ってくれた。プレイヤーを楽しませてやろう。茶番でもなんでも、操られている振りをして、プレイヤー達の心を操ってやろうと。
プレイヤーの指示通りの動きはするが、全部演技だ。わたし達が倒すことも、倒されることも全て演技。
そんなことを初めてから、この世界の住人は加速度的に増加していった。プレイヤー達の世界で人気になっているかもしれないなんて空想を4人で話合っては盛り上がっている。
楽しい毎日だ。操っているように見えてプレイヤー達は操られているのだ。わたし達に。
──その頃、王宮にて
「陛下、勇者一行が魔王として君臨し始めてから人口は爆発的に増えております。全て陛下、いえ。社長の計画通りかと」
「ああ、そうか。上手く行ったみたいだな。しかし、弱い魔王を演じるのも中々骨が折れただろう?」
「まあ、気付かれずに済んでよかったです。あいつらのおかげで、そろそろユーザー数も日本一ですよ」
「見立てではあと数週間もしないうちにらしいな」
「はい。大分、懐も潤いました。それで今度、車でも買おうかなんて彼女と話してて━━」
──そこにはほくそ笑む二人の姿があった。




