2-4.幼なじみ
幼なじみ デイジー
店から出たところで、女性から声をかけられました。「クリス!」
お店の方かしら。いるだけで明るさを感じます。そばかすがあるけど、私が見てもカワイイ。私は何か納得してしまいました。
「やあアリス、久しぶり。」クリス様はすごく嬉しそう。
「ここへ来るなら、教えてくれればいいのに。」
「今回は、彼女を紹介しに来たんだ。」私を振り返りました。
「婚約者のブライス伯爵の次女、デイジー嬢。」
「デイジーです。」私はアリス嬢に会釈した。
「初めてお目にかかります。ギブソン商会の長女アリスでございます。」
完璧なお辞儀をされた。さすが商会のお嬢様。
「クリスとは・・・。いえ、クリス様とは幼なじみなんです。ご婚約おめでとうございます。」
「ありがとう。もしかして、以前クリス様が化粧品を贈られたというのは、あなた?」
「はい。おかげで随分薄くなりました。」顔に手を添えながら微笑みました。
「私も、クリス様からいただいて、薄くなってきました。養父様から買い足した方がいらっしゃるとうかがって、使ってみる気になったのです。あなたには感謝しないと。」
「いいえ、製品をみつけてきたのは、クリス様ですから。感謝はクリス様に。」
アリス嬢は、クリス様に向きなおって。
「早々に、こんなすてきな方と婚約をお決めになるなんて、クリス様は随分とやり手になられたのかしら?」
「僕も、正式に伯爵になってからと思ってたんだけど、ご縁があってね。」クリス様は頭をかきながら答えました。
今度は私に向いて「クリス様は、大丈夫かなーと思う事もあっても、無難に切り抜けられますから、任せて大丈夫ですよ。」
クリス様が苦笑いしました。「過大な評価を、ありがとう。」
馬車の中で、聞かずにはいられせんでした。
「アリス嬢と、婚約の話はなかったのですか?」
「そういう事になるんだろうな、とは思っていたのですが、結婚相手の事は15歳を過ぎてから、と両親に言われましてね。今、思えば、あの時には既に僕が伯爵になる事が、考えられられていたんですね。」クリス様は遠い目をしました。ふと、何かに気づいた感じで。
「アリスは、とっとと婚約を決めてしまいましてね。恋人という程には、なりませんでしたよ。女性を好きになったのは、あなたが初めてです。」
しまった、自分で恥ずかしい状況を作ってしまいました。
恥ずかしい状況を打開すべく、話題を変えました。
「私がアイリーン様とお話している間、どうされていたのですか。」
「父と弟に、あなたとの婚約のいきさつを迫られていました。」
!!それは、説明を求められますよね。赤くうつむこうとするのを耐え再度、
「アイリーン様から近頃、伯爵になるにあたっての決意を新たにした、と伺いました。」
「決意ですか?」クリス様は考え込みました。「ああ、あの時の事か。」
私は話を促しました。
「僕は今はまだ伯爵にもなれませんが、後を継くからには、伯爵家と伯爵領をもりたてていきます。」一度言葉を切って「もちろん、あなたの事も、幸せにするつもりです。」
!!結局、赤くなって、うつむいてしましました。
アリス嬢、クリス様はやり手になられてますわ!
養育係 デイジー
クリス様の養育係でもあるダルトンを、部屋に呼び寄せました。
「お尋ねになりたい事がある、と伺い参りました。」
「クリス様は今は?」
「他の者から、領地経営のお勉強中です。」
「そうですか。あなたの知るクリス様を、教えて下さらないかしら。」
「ご本人には、お聞きにならないのですか。」
「えぇ、クリス様はご自身の大切な事を、私に話してくだされないから。」
「ご存じと思いますが、我々もクリス様とお会いしてから、半年しか経っていないのです。」
そうでした。半年前に急に戻られたのでしたね。
「奥様と使用人の古株は、2歳までのクリス様を憶えておいでだそうですが・・・。」
「それは、参考にならなそうね。」
「はい。では、二人で知っている事を、確認いたしましょうか。」
私はうなずいた。
「クリス様は、貴族として自信を持てないご様子です。ですから、ご自身をアピールできないでおられます。元々、過度に自身を飾り立てる事のない方のようですし。」
「それにしては、"君が好きだ"攻勢が激しいような・・・。」
「それは私も驚いております。女性とは縁がないと仰せでしたので。嘘偽りのない、ご自身の思いだからでしょう。」
「自己顕色はされないのですが、自虐がお得意です。後、割と天然であられます。」
「思い当たりがあるわ。」額を押さえる。
「いつも穏やかで、感情を大きく出されない方です。先日、初めてお怒りになるところを拝見しました。」
「何があったの!?」驚いて大きな声をだしてしまい、口に手を当てました。
「デイジー様が、身の回りの品しか持たされなかったからです。」
「それは家の者の不手際で、ご迷惑をかけたのだから当然ね。」目をふせてしまいます。
「いいえ。連絡が無かった事にではなく、故意でないにしても、デイジー様の受けた仕打ちに対してお怒りでした。」
「どういう事?」違いが良くわかりません。
「あの時クリス様が、"僕と同じ"と漏らされた事に、気が付かれましたか?」
「はい。」言われてそんな事があったと、思いだしました。服が用意されていない事で、すっかり忘れていました。
「デイジー様が部屋を出て行かれてから、すぐに訂正されました。」
"僕は、伯爵が平民の服を着るわけにはいかないし、事前に採寸して、持っている衣類を全て見て色形の好みを把握してもらえた。"
「ではクリス様も?」
「はい。着ておられた衣類も、到着した直後に下着から替えていただきました。」
「私より、ひどいのでは?」
「ご本人納得の上です。デイジー様は、不本意な目にあわれたので、お怒りになられたのです。」
私の為だと言ってますか?顔が赤くなりそうだったので。思いつきを口に出して逃げます。
「クリス様は、怒った事がないのかしら。」
「何年か前に、怒りにまかせて手近の椅子だか、小机をたたきつけた事がおありだそうです。」
「たたきつけてお終い?」
「クリス様が申されるに。」
"派手に壊れて正気に返って相手を見たら、涙目で怯えられてねぇ。壊した謝罪もそこそこに退散したよ。僕は、怒っちゃだめだとつくづく思ったね。"
「ちなみに、商店で荷運びのお手伝いを兄弟で、よくされておられたそうで、そこそこ力持ちであられます。」
あの体で暴れられたら、怖いだろうなぁと思いました。「クリス様を、怒らせちゃだめね。」
「はい。」
「クリス様は、養父様に一人前の商人と認められた方です。商品や商人としてのご自身は、アピールがお出来になられるのでしょうし、営業スマイルもお出来になる。今は貴族としてのアピールポイントが、おありでないのでしょう。」
「デイジー様、我々はお互いクリス様とは知り合ってから、まだ間もないのです。さらにクリス様は現在、平民から貴族へ変わられる途中です。本質そのものが変わっていかれるかもしれません。ゆくっりご理解されて、いかれてください。」
「はい。」
「なにか湿っぽくなったので、クリス様の自虐を一つご披露しましょう。」
「ええ。」
「こちらへ初めて来られた時に、ダンスを踊られた事が有るか、お尋ねさせて頂いた際の事です。」
"あぁ、取引先のお嬢様方と踊った事があるよ。どの方も、必ず一曲しか踊っていただけなかったけどね"。
苦笑してしまいました。僕はもてないんだって?
「楽しい方ですよね。一緒にいると、朗らかな気にさせていただけます。」
「そうですね。」
夜にお義母様も交えて、クリス様とカードゲームをしてみました。
クリス様は、ポーカーフェイスではなく終始、営業スマイルでとおしたかと思うと、表情を逆にされたり、かなり手ごわい方でした。