第二章 理解 2-1.生い立ち
生い立ち デイジー
お茶に庭へ出てみると、クリス様だけがテーブルについていました。
テーブルの前に、岩が置いてあるような印象がぬぐえません。頭を振って、失礼な思いを捨て去りました。
「この家に少しは、なじみましたか?」
「はい。」
クリス様は姿勢を正しました。「僕の生い立ちをお話したくて、オードリー様には席をはずしていただきました。」
あら?"お母様"ではなくて?クリス様は私の疑問に気づかれたようです。
「僕は第一婦人の子で、オードリー様は元第二婦人なのです。」
え、本当の親子じゃ無い!?
クリス様は頷いて「血の繋がりはありません。」
そのフレーズどこかで・・・。
クリス様がとうとうと、語りだしました。
前伯爵と第一婦人、母さんとは政略結婚だったそうです。
僕が2歳の時に母さんの実家が潰れてしまい、政略結婚の意味が無くなりました。
その時、第二婦人オードリー様のお腹には子供がいて、僕達はグラハム商店の主に払い下げられました。母さんはグラハム商店の女主人、僕は長男のクリス・グラハムとなったのです。
第一婦人となったオードリー様は、出産前に具合いを悪くされ、子供は無事に生まれませんでした。ご病気は治られたものの体が弱くなられ、その後、身ごもられませんでした。
半年前、前伯爵が急逝し僕が戻る事になりました。
「ですから伯爵家を継いでいない僕は、クリス・グラハムだと名乗ったのです。」
クリス様は一度下を見て顔を戻しました。
「一度庶民に落ちた者と一緒にいるのは、嫌ではありませんか?」
私は少しの間考えました。
「私は、クリス・グラハム様を好きになったんです。クリス様は、クリスハート・キングストン伯爵になるのでしょう?」
「はい。」
「では、かまいません。」
「ありがとう。」クリス様は深々と頭を下げました。
「クリス・グラハムと名のったのは、間違いでした。養父に、迷惑をかけてしまうところでした。」
おや、何があったのでしょう。
「ブライス家の門前でメッセージを破られ、贈り物を叩きつけられる事まで想定しました。」
身元不明でもウチの門番は、そこまでしないと思いたいけど。知らない他家で、そんな事が起きないとまでは言えないですね。
「オードリー様に、伯爵家を継ぐ事を引き受けた時点で、僕はクリスハート・キングストン次期伯爵だったのです。」クリス様は一息つかれました。
「嫌になったら直ぐに、お断り下さいね。」
「今のところ、お断りする気はありません。」
「良かった。」とてもほっとされたようでした。
「あなたに嫌われたくないから、この話をするのは怖かったんです。あなたに、もう一度好きと言って貰えて嬉しいです。」とにっこり。
!!この方は、私を恥ずかしい目に合わせるのが、好きなのでは?お茶の味がわからないわ!
私はここで「クリス様"はぁと"」と、二人だけの世界に突入できるような性格ではありません!
お茶を一杯飲む事で、なんとか立ち直しました。
「この話を今、私にする必要はなかったのでは?」
「そのうち分かる事だから、早い方が良いと考えました。」
なるほど、うなずきました。
「オードリー様を"お母様"と呼ぶのはどうしてですか?」
「僕はオードリー様の養子として、ここへ戻りました。お願いしたら、許してくださったので、甘えさせていただいています。」
「養子なのですか。でも、オードリー様は"クリス様"とお呼びになるのね。」
「はい。僕が2歳の時のままが良いようです。」苦笑されました。
「実母様は、いまはどうされて?」
「元気に、グラハム商店の女主人をしてますよ。」にこっと笑顔で答えられました。
ベッドの上で、今日聞いた話を思い返しました。
クリス様は今、義理のお母様と暮らしていて、グラハム商店には養父様と実母様、弟君がいらっしゃる。養父様が、クリス・グラハム様の使者として私の所へ来たという事は、断絶されていないのね。
確かに、たいへんな訳ありだわ。政略結婚だったら断わっていたかも、でも私はクリス様が好きだからここに来たのだし、その気持ちは変わっていません。
「僕は2歳の時に商店に預けられました。半年前に先代が急逝され、伯爵家へ戻りました。」この説明で満足する事にしました。