1-5.お茶は誰と
お茶は誰と デイジー
「お嬢様、そろそろお目覚めください。」メイドから声をかけられました。
「え?」あたりを見て、自分がキングストン家にいる事を思いだしました。
疲れていたのか、いつもより長く寝ていました。
ここ数日間は特に何もせず、キングストン家に慣れるように言われました。
「クリス様は、もう起き出されているのかしら。」気になります。
「クリス様は、朝の鍛錬をされています。」
「えぇ!鍛錬されていたの!?」そうは見えないです!
「失礼。」ここのメイドから怒られそうな発言でした。
「半年前から始められ、体重が落ち始めたところと、お伺いしております。」
そうですか、少しはましになられていたのね。
午前中にクリス様と共に、ダルトンが邸内を案内してくれました。
クリス様が「どこに何の部屋があるのは知っているけれど、素材、装飾等の建築に関してはさっぱりわからないのです。」と明かしてくれました。私は絵画等芸術品に関心があると言うと、芸術、音楽等は嗜むくらいで詳しくないとのことでした。だから、今回は詳細な説明はしないでもらいました。別途、お願いしましょう。
昨日、申し入れいただいたので、伯爵夫人を部屋へ訪ね、たくさんの物をゆずっていただきました。どれもカワイイ感じのするものでした。二人ではしゃぎぎみに選び、直しの手配等、昼食を挟んで午後までかかってしまいました。
部屋でいただいた物を眺めていると。
「お嬢様。お茶はどちらでいただかれますか?」メイドから声がかかりました。
「クリス様は、どうされるのかしら。」
「最近は奥様と庭を散策された後、ご一緒されています。」
「いつもお母様とご一緒されているの?」兄も姉も、そんな事していないですよ。
もちろん私も。クリス様ってマザコンだったり?
「はい。以前は、お加減伺いに奥様の部屋へ毎日お訪ねでした。最近は奥様が毎日、庭を散策されるようになられましたので。」
そうだ、伯爵夫人は病弱でしたね。
「親孝行なのね。」
「クリス様は、お母様のことを大変、気遣っておいでです。」
「私もご一緒したいわ。」
「承知いたしました。」
庭に出てみると、テーブルでクリス様と伯爵夫人が待っていました。伯爵夫人が岩を前に座っているように見えます。
クリス様から話かけられました。
「デイジー、習い事はどうでしょう。僕は剣術の他に、週に一回づつお茶とダンスを受けています。僕とは別に、回数も多く受けても良いし、他の習い事をしても良いですよ。」
「ありがとうございます。クリス様と一緒にお茶とダンスを受けたいです。それぞれ初回でご評価いただき、回数を増やす判断をしたいと思います。」
ダンスは間違いなく踊れる事を、クリス様にお見せしないと!
そのような私の決心を知るはずもないクリス様は平然と。「分かりました、そのように手配します。ダルトン、頼んだよ。」
「承知いたしました。」クリス様付きの執事が返事をしました。
「僕は講師が来ない日も武術は執事から、お茶はお母様からご指導を受けているので、家の者に頼んでもかまいませんから。」
「はい。ありがとうございます。」お茶はご指導付きでしたか。
クリス様は、昨日の午後の買い物の様子をお母様に話しました。私の服のセンスが良いとか、私がかわいいとか沢山褒めていただきました。
伯爵夫人は終始、微笑んで聞かれていましたが、のろけ話で良かったのでしょうか。
私はかかなり恥ずかしかったです。止めるべきだったかしら。
日々の鍛錬 デイジー
翌朝、ランニングを終えたクリス様に、タオルと飲み物を渡す私がいました。
クリス様は運動しやすい恰好をしているので、体形が良くわかります。痩せられ始めたのよね?
「おはよう、テイジー。わざわざこの為に早起きを?」
「今日はたまたま様子を見に来ただけですが、ご要望とあれば毎日でも。」
クリス様は慌てて「いやいや、そんな事はしないで。ダルトンがいれば済む事なんだから。」
「そうですか。」何かつまらない感じがします。
「気が向いた時に、又来てください。」軽く苦笑いされました。
私はお言葉に甘えて、たまに様子を見に行く事にしました。朝早いのは苦手なのです。
「日々鍛錬と勉強ばかり、されているのですか。」
「いえいえ、そんな息のつまるような生活はしてないですよ。」クリス様が手を振って答えました。
「疲れてそうだと気分転換をさせてくれたり、自分で街中へ出かけたりもしますよ。
最近は、お茶の先生に紹介してもらって、たまにお茶やパーティに出かけます。デイジーはどうなんですか。」
「私は今は、ここに慣れるのに手いっぱいな感じです。もう少ししたら、ここに移った事をお友達にお知らせしようと思っています。」
「そうですね。服が揃うのも、もう少しかかりそうだから、それからですね。」
「はい。」
夕方には剣の稽古をされているというので、見に行ってみました。
すると、ナイフを投げる練習をされていました。的にうまく当てています。
「これも半年前から始めたのですか?」
「ナイフはここに来る前からです。弟とよく、おやつを半分かけて競っていました。」
そういえば、グラハム商会に弟君がいるのでしたね。
「どちらがうまかったのですか?」
「そりゃ、僕の方が勝つ事が多かったですよ。僕はおやつ一口だけですませたけど、あっちは容赦なかったな。」
「それは大変でしたね。」笑いながら言いました。クリス様はよく笑わせてくれます。
後日、服を受け取りに出かけました。
クリス様も採寸し直して服を新調しました。かなり痩せられたそうで、今までの服の直しでは、おいつかなくなったそうです。もう数回目だとか。そんなに痩せていたのですね。
翌週は、伯爵夫人から演奏会のお誘いを受けました。もちろんクリス様も。クリス様のエスコートは完璧で、楽しく過ごす事ができました。
「素晴らしい演奏会に誘っていただき、ありがとうございました。」伯爵夫人にお礼を言いました。
「いいえ、クリス様とデートの約束をしていましたので。」
「クリス様とデートですか?」
「はい。デイジー様との後、"そのうちお母様とも"と言っていただけましたので。お忘れかもしれませんが。」
「すみません。忘れていました。」とクリス様がうなだれました。
「いいんですのよ。これで果たせましたから。」
クリス様が伯爵夫人と出かけたのは、これが初めてなのだそうです。だいぶ元気になられたと喜んでいました。
この家に来てから気が付いたのですが、この親子、何かよそよそしいのです。オードリー様は自分の子を"様"付けで呼んでいるし、クリス様の「お母様」も堅苦しさを感じます。長年、離れて暮らしていたからなのでしょうから、あえて指摘はしませんが。
ここまで第一章です。
拙い文章ですが、この後もよろしくお願いいたします。