1-4.食事のち外出
食事のち外出 デイジー
食事は部屋でもかまわないと言われましたが、全てクリス様と一緒を希望しました。
ダイニングへ行ってみると、主人の席は空白で、クリス様は長男席に座っていました。
私はゲストではなく婚約者扱いでした。
料理が各自に分けて運ばれ、主にクリス様に対して料理の名前と共に、簡単にどういう素材をどう調理されたかが説明されました。
驚いたので聞いてしまいました。「こちらでは、いつもこんな感じなのですか?」
「はい。僕があまりに気にするので、説明が付くようになってしまいました。他の所ではやってくれるな、と釘をさされています。」クリス様が恥ずかし気に答えた。
「私も驚いたのよ。」伯爵夫人が笑われていました。
「気になるようでしたら、やめさせます。」クリス様が慌ててて言いました。
「いえ、おもしろそうなので、お願いします。」
クリス様はにっこりしました。「そうですか。よかった。」
さすが、グルメですね。
「この家には健康は食事から、と食材や調理方を考える専任の者がいて、メニューをシェフと相談して決めているんですよ。」
「そこまでされているのですか!それはクリス様が雇われたのですか?」
クリス様は苦笑して「いいえ、お父様がお母様の為に雇われたそうです。」
あぁ、御病弱でしたね。
「お母様には活力をつける為、僕には痩せる為のメニューが考えられています。
今出されたものも、ぱっと見は同じですが、味付けとか盛り付けが各自異なっています。」
「え!そこまで!?」
「はい。肌に良いメニューも、あるそうですよ。」
「えぇ!本当ですか!?」
「今回の食事から取り入れられています。効果は早くて数週間先らしいので、あまり期待せずに確認してください。」
「はい。」
「活力のつくメニューなら、すぐに効果がでる事を確認済なんですけどね。」
いや、それは私には必要ないです。
料理の説明をうけると、より味わって食べるようになりました。よりおいしく感じている気がします。
クリス様は倍くらい食べるのかと思ったら、野菜が盛り沢山な以外は、私の兄達と変わらなそうでした。足りるのかしら。
デザートをいただいていると、
「お買い物の一覧でございます。」ロバートが紙をクリス様に渡しました。
「ありがとう。どの店で何を買うのかが、まとまっている。さすがだね。」
「お褒めいただき、ありがとうございます。」
「これは誰か、チェックしてくれるのかな?」
「私がお預かりします。」ダルトンが答えました。
「よろしく頼む。」クリス様が一覧を渡しました。
クリス様は、会った時と同じ普段着で外出しました。着替えのない私に合わせてくれ
たのでしょう。エスコートも間違いありませんでした。
店に入った時点では、いいトコのお嬢様に護衛が付いてきた、と思われたのではないでしょうか。二人の会話で、そうでない事がわかった時には意外そうな顔をされていました。
休憩に立ち寄ったカフェで再度、クリス様のスイーツ知識が披露されました。周りの注目を集めてしまったので、注意させていただきました。
クリスの懊悩 クリス
僕は朝のランニングを始めた。貴族の屋敷は敷地内で武術の鍛錬や、馬を走らせる広さがある。自分の家という実感がいまいちない。
もくもくと走っていると、とりとめもなく思いが沸いてくる。
昨日はロバートに注意され、お母様に笑われ、ダルトンにはあきれられてしまった。
突然の事態には、まだ貴族の感覚で対処できない。
いや、そんな事より、デイジーと同じ家で暮らし始めた事の方が重用だ。僕が貴族令嬢と婚約するとは思ってなかった!考えればわかる事だけど。
伯爵らしくなる事に一生懸命で、その他は後にまわしにしていた。だから、伯爵になるまでのカリキュラムが、かなり変更された。
婚約者が同居すると聞いた時、「それって同棲って事?」とダルトンに確認した。
同棲というと、一日に何度もキスしたりとか・・・。わぁ!した事ないよ!!
走るペースが一時的に上がった。どすどすどす。
期待むなしく?貴族だと同棲という程のものではなく、少し親しくなるくらいと説明された。
その内容は幼馴染の女の子とのほうが、よっぽどなれなれしくしていた、と思えるようなものだった。じゃあ、何のために来るんだと聞いたら、この屋敷の女主人になる準備を始めるためなんだって。残念なような、ほっとしたような・・・。取引している商店のお嬢様が泊りに来たようなもの、と思う事にした。
正式な婚約前だし、それなら他人行儀のままの方が良いのでは、と思ったけど、デイジーとお母様の意見は違った。
相手が伯爵令嬢だから、「デイジー様」と言って膝をついたりしないかと、不安に思ってしまう。そんな事したら、デイジーに呆れられてしまうだろう。
いや、大丈夫だ、気をしっかり持て。僕は彼女の夫となるんだから。わぁ!夫だって!
どすどすどす。又も走るペースが上がってしまった。
ついこの間まで恋人なんてできるのかな、と思っていたのに!来年には正式に婚約して、15歳のうちに結婚してしまうんだろうか。どすどすどすどす。
雑念のせいか、いつもより疲れた。
「お疲れ様です。」ダルトンからタオルと飲み物を差し出された。
「ありがとう。」彼は僕の養育だけでなく、身の回りの世話もしている。
個人のする事にまで面倒を見られる事に、やっと慣れてきた。
「水浴びをされますか。」
「あぁ、汗だくだ。」
「承知いたしました。」
館へ向けて歩き出した。ホント、メイドじゃなくてよかった。ダルトンの前でも全部は脱がないけど。
ここへ来た初日に、服を庶民から貴族のものに全て変えた。下着を脱ぐのにためらっていると。
養育係と名乗ったダルトンに言われた。「使用人の前で裸になった事がおありと、思いましたが。」
「そりゃあるけど。」水遊びしたりとか、野営の時とか。
「見知った人達とだから。」
「すみません。配慮が足りませんでした。」後ろを向いてくれた。
希望すれば着替えだけでなく、入浴の際に全身を洗ったり、拭いたりもしてくれるそうだけど、もちろん断った。
夕方、剣の練習後のマッサージも、下着姿でしてもらっている。裸にタオルだけというのは落ち着かない。
部屋で水を浴びる。各寝室に風呂があって、朝に夕に水浴びができるなんて!商店にいた頃は多くて風呂は日に一回、家族で交互に入っていた。荷物運び等で汗をかいたら、水に浸したタオルで店の皆でワイワイと上半身を拭いていた。
こういう贅沢に最初は抵抗があったけど、毎日のようにやっていると慣れてしまった。
貴族って、こんなものなんだろうかと思う。
袖を通す等は手伝ってもらいながら着替えた