1-3.輿入れ
輿入れ デイジー
私は婚約を前提に、キングストン家で暮らす事になりました。
前回同様、玄関で、あいかわらず存在の大きなクリス様と挨拶をした後、サロンで伯爵夫人と挨拶しました。
「お加減はいかがですか。」
「先日は失礼いたしました。今日は調子が良いので、大丈夫です。」
「それは、よろしかったですわ。」
と、クリス様が姿勢を正しました。
「あなたからいただいた言葉が、忘れられません。どうか、僕と婚約してください。」
深々と頭をさげられました。
えええ!承諾したから、私は今ここにいるのでしょう!?
伯爵夫人から、小首をかしげる事で説明を求められました。しぐさがかわいいです。美人って得ですね。仕方ありません。
「ニキビが、私のチャームポイントでかわいい、という言葉が忘れられません。あなたをお慕いしております。」
恥ずかしい言葉を、二度言わさないでください!これで返事でいいですよね!?真っ赤になって、下を向いてしまいました。
「まぁ。」伯爵夫人が手で口を押えました。とことん、しぐさがかわいいです。
「僕の事は、クリスとお呼びください。」
「はい、ありがとうございます。クリス様。私の事はデイジーと。」
「正式に婚約していないのに、名前だけというのは・・・。」伯爵夫人の方へ、顔を向かれました。
「こちらに来ていただいたのですから、よろしいと思いますよ。」伯爵夫人が、おっしゃられました。
「では、お互い程々に、なれなれしくいきましょう。」クリス様は苦笑いしていました。
「ご自分の家のように気楽に過ごして、困った事があれば何でもご相談ください。」
「あの、早速なのですが、服をあまり持ってきていなくて、ご用意いただけているでしょうか。」
クリス様達は驚かれました。「それは荷物が間に合わない、という事ですか?」
「いえ、もう二度と取りに戻らないつもりで、贈られた物等どうしても手放したくない物だけ持ち出し、衣類も含め必要な物は全て、キングストン家で用意してもらうと。」
「僕と同じ・・・。」クリス様が呟きました。
「は?」
「いえ。」答えた後、執事に「ロバート、用意できているかな?」
「いいえ、クリス様。その連絡は、いただいておりませんので、ご用意できておりません。」
「連絡を受けてない?」私に顔を向けました。
「あ、あのてっきりご承知の事と・・・。申し訳ありません。」私は頭をさげました。
「いえ、あなたのせいじゃないでしょう。」
「いいえ、我が家の不備ですから。」
「とにかく、普段着を何着か用意しないと。採寸は今日できるだろうけど・・・。」
ぶつぶつとつぶやいてから、尋ねられました。「既製品でも、かまわないですか?」
「構いません。この服も既製品ですし元々、姉のお下がりか既製品がほとんどでしたので。」
「今からででも買いに出た方が良いか?でも、何を買うかが解らないと・・・。」
クリス様のぶつぶつが続きます。
「クリスハート様。」先程の執事から声がかかりました。
「なんだ?」
「私におまかせください。昼食までに今日お買いあげいただきたい物の一覧を、作成いたします。それを元に午後お買い物に出られては。」
クリス様は、ふっと息を吐いて。
「そうか、僕がオタオタしちゃいけなかったね。ロバートに任せる。」
「承知いたしました。」
「デイジーは部屋のほうへどうぞ。落ち着かないようなら庭を見るとか図書室等、自由に使ってください。」
「はい、ありがとうございます。」
・クリスの決心 クリス
僕はデイジーを送り出した。
テーブルに戻りながら、お母様に尋ねる。「貴族の婚約は、何も持たせないものなのですか。」語気が荒くなってしまう。
「私は、そのような話は聞いた事がないですよ。」
「さっき、僕と同じと言ってしまいましたが、僕の場合は伯爵が平民の服を着るわけにはいかないし、事前に採寸し、持っている衣類を全て見て、色形の好みを把握してもらえました。僕とは違う。」
養育係のダルトンが口を挟んできた。
「ほとんどお姉様からのお下がりか、既製品とおっしゃっていたので、こちらに合わないと考えられたのでは?」
「それにしたって、事前に連絡するだろう。」
「それは何か、行き違いがあったのでしょう。」
「ぜひ、そうであって欲しいものだな!」吐き捨ててしまった。
デイジーが粗雑に扱われているのも確かそうだし、キングストン家も下に見られている。いや、下に見られているのは僕か。確かに今の僕は伯爵を名乗れないハンパ者だ。
・・・今はとにかく、日々のカリキュラムを確実にこなしていくしかない。手に力が入った。
ふと、ダルトンが凝視しているのが目に入った。
「なんだ?」
「クリス様がお怒りになるのを、初めて拝見しました。」
「私も。」お母様も驚かれている様子だ。
ふっと笑って「そりゃ僕だって憤慨もするし、怒りもしますよ。」
そうしない為にも。「僕は今はまだ伯爵にもなれませんが、後を継ぐからには伯爵家と伯爵領をもりたてていきます。」お母様がうなずかれた。
とりあえず、するべき事は何だ?ふと、気づいた。
「あの、そういえば急に、午後から買い物デートになってしまったのですが、貴族の男性はどうふるまうものでしょうか。」
「まぁ、おほほほほ。」笑われてしまった。
恥ずかしくて頭を掻いてしまう。ホント僕は、まだまだだ。