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3-2.市場

市場 デイジー


 クリスは、嬉しそうに市場の中を進んでいきます。水を得た魚と言うよりは、水を得たイルカかしら。絵でしか見た事ないですが。

「あの果物は、ここの特産の一つだよ。」指して教えてくれました。

「一つ買ってくれないかな。」ヨーゼフに指示しました。

「承知いたしました。」

クリスは受け取った果物を半分にして、ヨーゼフに渡しました。ちなみにダルトンは、城に残って付いてきていません。

「お腹が一杯じゃなかったら食べて。」

「いえ、私がいただくわけには。」

「仕事だよ。感想を聞くからね。いつもと同じ味がする、でもかまわない。」

「では、いただきます。」

「さて、僕達も。」残りの半分を、さらに半分にして差し出されました。

「ここで食べるの?」私はたじろぎました。

「今、ここで感想を聞きたい。おいしい、でかまわないよ。」

クリスが、ほおばって見せました。「うん、この前食べた時、同様においしい。どう?」

思い切って、ほおばってみました。「何か、いままでにないような味がして、おいしい。」

「よかった。これ、都で買うと高いんだよ。ヨーゼフはどうかな?」

「はい、いつもどおり、おいしゅうございます。」

 クリスは店のおばさんに「この数年は、できがいいのかな?」

「はい。ここしばらく良くできております。」

「それは、良かった。」


 「クリス坊ちゃん!」離れたところから、声がかかりました。私達が振り向くと、大柄な商人が手を振りながら近づいてくるところでした。

「知り合いだ。大丈夫だよ。」クリスがヨーゼフに、小さい声で素早く伝えました。

「やっぱりクリス坊ちゃんだ。しばらく見ないうちに痩せたねぇ。そんなにめかしこんでどうした?」

痩せた?そういえばそうかも。毎日見ていると気が付かないです。

 「これは、ハーシーさん。お久しぶりです。」

私の方を向いて紹介してくれました。「こちらは、取引させていただいた事がある、ハーシー商会の主です。」

「初めてお目にかかります。ハーシーと申します。」礼をされました。

私は軽く会釈を返しました。

クリスは声を少し落としました。「名前を言えなくて、申し訳ありません。かなりいいトコのお嬢様に、市場を案内していましてね。」

「なる程。それでそんな恰好してるんだね。いつ来たんだい?今夜にでもウチへ寄ってくれよ。」

「昨日、来たばかりです。すみませんが、今回は寄れそうにありません。」

「そうか、残念だな。ヒマができたら、いつでも寄ってくれよ。」

 「はい。ところで、市場に何か出されているんですか?」

「いやぁ先日、商工会議員に選出されてね、市場の仕切りの手伝いをしとるんですわ。」頭をかきかき言われました。

「議員に?それはおめでとうございます。」私に向いて「領都でも、トップクラスの評価がないとなれないんですよ。」

「いゃあ、あはははは。」嬉しそうですね。

「父に伝えておきますよ。次、来たら良くしてやってください。すみませんが、これで失礼します。」お辞儀して、クリスは皆を連れて離れました。


 クリスは軽くため息をついて、

「市場をうろついたら知り合いに会うくらい、予想しておくべきだった。」

「僕は知られていない、とか言ってなかった?」私がクリスをからかいました。

「クリスハートとしては、知られてないよ。あれ?」

見ると作物が大山になっている店があります。盛りすぎですよね?

 クリスが店の人に声をかけました。

「ずいぶん山盛りになってるけど、できすぎちゃったの?」

「あぁ、今年は豊作でねぇ。それに北の国にも、あまり売れないんだよ。」

「北の国も豊作だったんだね?」

「そうなんだけど。それだけじゃないらしいんだよ。」

「どういう事?」

「涼しくても、よく実る苗ができたそうでね。それでいつもより豊作になったらしい。

こんなに余っちゃ困るよ。」

 「他には作ってないの?」

「作ってるけど、ウチのあたりは、これがほとんどでねぇ。村全体で困ってるよ。」

「そうなんだ。大変だね。これは何というの?」

「ゴロモだよ。」

振り返って「ヨーゼフ、これ二つ買って。あと、どこの村の人か聞いといて。」

「どうするの、クリス?」私が聞きました。

「これに関しては城に戻ってから。とりあえず、観光地を周ろう。」クリスが、にこやかに答えました。

 ヨーゼフの案内で観光地をいくつか周って、昼に城へ戻りました。


 「街の様子はどうだった?」昼食の席でバージルから聞かれました。

「店数が増えていたし、人も増えているようだった。賑わいを増しているね。」

そういう事を見ていたのですか?気が付かなかったわ。

「ヨーゼフ、買ってきたゴロモをここに。」ヨーゼフが作物をテーブルに置きました。

「この作物ができすぎて、困っている人がいてね。この事について知ってる?」

「それは、出荷が始まったばかりのものだね。まだ知らないな。」バージルが答えました。

 「ヨーゼフ、僕が聞いた事も含めて、店の人から聞いた事を報告して。」

ヨーゼフはクリスの聞いた事に加え、タキノ村という名と位置、規模、周辺の村の様子を報告しました。

「村の名以外の関連事項まで、よく聞いてくれた。すばらしい。」

「ありがとうございます。」ヨーゼフは礼をして下がりました。

「叔父様、優秀な人を付けてくださって、ありがとうございます。」

 マイルストン家の方々は、唖然としていました。横にいた私も、驚きの充実した内容でした。

昨日のセリフからは、遊びに行ったとしか思えないですよ?視察に行った、という事をいまさら気づかされました。


 「よく、気が付いたね。」バージルが言いました。

「たまたま、目についただけだよ。」

「調査して対策を考えないとね。」

「市場で偶然、知り合いの商工会議員に会ったから今夜、彼に会って話を聞いてみるよ。何かしているかもしれない。」

「私も連れて行って、紹介してもらえないかな。」

「いいけど、何で?」

「今後も商工会議員に、非公式に話を聞く機会を確保したい。」

「なるほど、良さそうだね。」クリスは叔父様を見て、頷かれるのを確認していました。

「ヨーゼフ、誰かをハーシー商会にやって、今夜クリス・グラハムが身分の高い人を連れて訪ねていいか、今夜がだめなら、いつが良いか話をつけて。」

「承知いたしました。」

「あと、このゴロモ一つを、話に行く際に持って行って。」

「はい。」

「向こうに合わせるんだね。」バージルが意外そうに言いました。

「あちらは僕をクリス・グラハムと思っているし、こちらが教わる側だからね。ゴリ押しはやめとこうよ。緊急という程でもないだろ?」

「君の意思のままに。」


 午後は引き続き、領都の観光に連れて行ってもらいました。

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