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第三章 領地にて 3-1.領地

領地 デイジー


 私はクリスの領都訪問に、同行する事になりました。

 この国では、領主は王都の最終防衛を担う為に、一年の大半を王都で過ごします。領地にいる事が少ないので、多くの方が領地に代行を置いています。ちなみに、ブライズ家では兄が代行をしています。

 対策会議は馬車の中でと言われ、クリスからの事前説明は、ほとんどありませんでした。しかたないので、地理、産業等の資料は、しっかり読んでおく事にしました。

 クリスのご先祖は、領都キングストンから領土を広げられ、主産業は農業。クリスが得意そうです。

 キングストンの領都は、王都から公爵領を抜けた先にあって、早馬で4日。近所ではないけど、さほど遠くはない距離です。海はなく他国と接していないので、軍事に力は入れていません。


 馬車が出ると早速、聞きだしました。

「クリスは、行った事があるのですよね?」なんか、はっきりしなかったのです。

「商人としてなら何回も。宿から取引先まで一人で行けるよ。」

次期伯爵としては、初めてという事ですね。

 「父上が領主代行を、お願いしている子爵がいてね。子爵夫人が父上の妹なんだ。」

「つまり、叔父様ですか。」

「そう。2歳までに何回も、会っているそうだよ。覚えてないけどね。」

お父様も覚えてないそうですから、無理もないですね。

 「僕が、商人になったいきさつも知っている。本来なら次期伯爵になった時点で、領都に行くべきなんだろうけど、貴族の立ち振る舞いも、領地経営もぜんぜんできないんで、今まで待ってもらっていたんだ。」

心象悪そう・・・。

 クリスは私の不安を見てとったようです、「今回は非公式で叔父の一家に会うだけ、他の貴族とかには会わない。気楽にいて欲しい。叔父上は、なかなか豪快な人らしくてね。そんなわけで、ごまかしとか、過度に飾り立てる事もしないから。」

これ、対策会議ですよね?

「だから、デイジーも普段どおり、自然にふるまって。今のこの話もしちゃっていいから。」

「はい。」自分の声のトーンが落ちてます。大丈夫なのでしょうか。


 「キングストンは少々特殊な所でね。領主に絶対の権力が無いんだ。」

「え?」

「元々、三人でまとめた領地でね。王国に併合される際にリーダー格のウチが伯爵となって、他が子爵になった。だから二つの子爵家は伯爵家への発言力が強い。又、ウチと合わせた三家は配下の男爵家に対しての発言力が強い。内政干渉ができる程だよ。」

「それはすごいですね。」

「だから、僕が伯爵になった後に、領地内の富を集めて好き勝手するなんて、できないから。今だけいい子ぶっても無駄なんだ。」

「そうなのですね。」まぁ、クリスが富を独占する様子は想像できませんが。


 「この話を、馬車の中まで伸ばしたのは何で?」聞いてみました。

「する事がなくてヒマじゃない。とりたてて何をしようという訳でもなし。」

そういう理由なの?

 その後は従兄妹がいるという事や、領都の主な観光地、以前どういう品を取引したか、どういうおいしい物があるか等を、話してくれました。


 領都は王都よりこじんまりとしていますが、活気のあるところでした。子爵宅は立派な城塞でした。

 「ようこそおいでくださいました。ダグラス・マイルストン子爵です。」

がっちり、どっしり、戦士で通用しそうな精悍な方です。

ふくよかな夫人のオリビア様、いかにもすてきな王子様、姫様といった感じの長男バージル様、長女ニコル様にもご挨拶いただきました。

 「叔父上、あえて初めましてと、挨拶させていただきます。クリスハートです。クリスと呼んでください。こちらは、婚約を予定しているブライス伯爵の次女、デイジー嬢。」

「デイジーです。よろしくお願いいたします。」皆さまに向けてお辞儀しました。


 「クリスとは、2歳に会ったきりだったが、大きくなったなぁ。」と子爵。

「そうですね。見違えましたね。」と夫人。

「おかげさまで、かなり大きくなりました。」とクリス。

たぶん、同一人物とは思えない位なのではないでしょうか。

 「2歳の僕はどんなでしたか。」

「お兄様そっくりでしたよ。」子爵夫人から返事がありました。実母様もそう言われていましたね。

 「私もあえて、初めましてクリスハート様。」バージル様が手を差し出されました。

ちなみにバージル様はクリスより3歳上、ニコル嬢は私より一つ下です。

「初めまして。友達になってくれないかな。同世代の友達が少なくてね。ニコルも。」

「僕達は従兄じゃないか。」バージル様が応じました。クリスの事は事前に詳しく聞いていたのでしょう。二人共、クリスを蔑む様子はありません。

クリス、バージル、ニコル、私と互いに気安く呼び合うことにしました。


 「こちらに滞在の間は、クリスにはヨーゼフを付ける。ここでの事は全てヨーゼフに。」

子爵から執事を紹介されました。私にもメイドを付けていただけました。

「スケジュールはおまかせしましたが、明日はどのように。」とクリス。

「領都をご案内いたします。クリス様はお詳しいようですが、デイジー様は初めてという事でしたので。」ヨーゼフから説明がありました。

「では、市場へも行きたいな。僕自身が買い物しちゃだめだよね?」

ヨーゼフはピクッとして「どのような物を、ご所望でしょうか。」

「店先の物を、気まぐれに買ってみたいだけだよ。僕はまだ、知られていないしね。」

「ご要望いただければ、私が品物を買いあげます。」

そうですよね。伯爵が自ら、品物を手に取って支払いをするなんて、だめでしょう。

「では、そのように頼む。」クリスはダメ元だったらしく、ひきさがりました。


部屋 クリス


 部屋は、城主の部屋へ案内された。前伯爵=父上も使用していたそうだ。

てっきり、叔父上が城主の部屋を使用していると思った。

 家具の一部は父上が使用されていた時の物らしいが、改装してほとんど新品に入れ替わっているそうだ。いずれにしろ、父上自身を覚えていないので、灌漑はない。

 デイジーは客間へ案内された。くつろげると良いのだが。

 今日はとてもフレンドリーに歓待されて、とてもほっとした。心から親しくしてもらえているのかもしれないけど、この先、領主代行を続けられるかどうかは、僕の胸三寸だからなのかもしれない。

 あちらも僕が良い子を演じているかもと、思っているかもしれない。お互いを良く知るのはこれからだ。


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