第一章 出会い 1-1.ダンスパーティーにて
完結していますので、順次公開します。
ダンスパーティーにて デイジー
ホールの壁際に立つ私の前を、着飾った貴族の子女がダンスを楽しんでいます。参加者の多くが社交デビュー目前、私と似たような年頃です。友人は皆、パートナーといますし、知らない人の話の輪に積極的に入って行く気にはなれません。
容姿に難のある私には声もかかりません。いえ、難があるは言い過ぎでしょうか。気になるのは、そばかすだけで身長、体重は平均並み、金髪よりも茶がかかった髪、茶色の目。ようするに平凡な容姿にそばかすがあるという・・・。気にしすぎだとは自分でもわかっているのですが・・・。
と、体の大きい男性があたりを見渡しているのに気が付きました。180cm程ある兄達よりもさらに背が高そう。ずいぶん太っているような・・・。体重は100kgを"軽く"超えているでしょう。この国の、特に若い貴族には太っている人は嫌われるのですが・・・。
丸顔に金髪、碧目と観察していると、目が合ってしまったので、慌ててそらしました。しばらくして、目線を戻すと。その男性が、のしのしと擬音を伴いそうな感じで、近づいてくるところでした。私を目指してきているようです。左右を確認してみるも、特に何があるわけでもありませんでした。
とやっているうちに、男性が私の前で立ち止まり「あの、どなたかをお待ちですか?」と意外と柔らかい声で話かけられました。
「い、いいえ。特にそういうわけでは・・・。」引き気味に答えました。
「では、僕と踊っていただけませんか?」ずずずという音を伴いそうな感じで、手を差し出されました。
「は?私ですか?」瞬時何を言われたのか、わかりませんでした。
男性は体を少し戻して「はい。よろしければ。」と答えました。
・・・そういえば、ちゃんとした夜会服を着ています。にこやかで温和な感じ。どちらのご子息かしら?いえ、そんな事より。「でも私、器量がよくないでしょう?」
ご子息は、きょとんとした感じで「いえ、かわいいですよ?」
「は?私がかわいい?こんな顔で?」この人は、何を言っているのでしょう??
ご子息は軽く首をひねって「そばかすは、あなたのチャームポイントでしょう?」
ずしゅ。見えない何かが、胸を突き抜けました。そばかすがチャームポイント?私がかわいい?
目を見開き停止していると、ご子息は何か、はっと気が付いたようです。
「す、すみません!ご無礼をお許しください。」がばっと頭をさげられました。
あ、私が傷ついたと思われましたか。それよりも・・「私がかわいい、というのは本当ですか?」
「もちろん本当です。社交辞令なしで。」真剣な表情と声に誠意を感じました。
「では、一曲お願いします。」お辞儀をしました。
「はい、よろこんで。」ご子息はにっこりと、手を差し出されました。あ、いい笑顔ですね。
向き合ってみると体格差が思った以上にありましたが、踊りだしてみると意外にもすんなりといきました。ご子息は常に、にこやかな顔をされています。だんだんと楽しくなってきて、余裕ができてきました
「踊りづらくはありませんか?」穏やかに聞かれました。
「いいえ、楽しく踊れています。」
「それはよかった。なかなか踊っていただける方がいなくて困っていたのです。可愛いあなたに踊っていただけて良かった。」
「まぁ。」顔を伏せてしまい、ステップが乱れました。
その後も先程のやりとりが思いだされてきて、結局、3回もご子息の足を踏んでしまいました。
一曲、踊った後ご子息に「申し訳ありません。練習して出直してきます。」と頭をさげられてしまいました。体格差も一因と言いたいですけど、かわいいと言われた事に気をとられた私がいけないのです。
「い、いえ。」でもここは女性の特権で?ご子息のせい、にさせていただきました。
「これで、失礼させていただきます。」きちんとした礼をされました。
「あの、お名前を。」
「僕の名前は・・・。」急にだまりこまれました。
ご子息は何か、決心されたようです。「僕はクリス・グラハムです。」
グラハム家??知りません。
クリス・グラハム様は、私の考えに気付いたようでした。
「訳あって、まだ家の名を継いでいないのです。よろしければ、お名前をいただけますか?」
所作が正しいです。あたりまえですが。
「ブライス伯爵の次女、デイジーです。」こちらもお辞儀。
「ありがとうございます、デイジー嬢。では、失礼します。」
クリス・グラハム様は、のしのしと擬音を伴いそうな感じで、去っていかれました。
贈り物 デイジー
私は「かわいい。」と言われた事が、忘れられずにいました。ここ最近は、家族にも言われた事がありません。
クリス・グラハム様が、気になります。外見が良くないのに。
この国、パーク王国では貴族の子息は、何がしかの武術を身につける事が慣習となっています。形骸化されていますが、王都の最終防衛を担う決まりになっているのです。だから、貴族は年の大半を王都で過ごします。
クリス・グラハム様は、丸顔なのはともかく、あの体つきでは、何か武術を身に着けられているとは思えません。皆から敬遠されても、しかたないでしょう。
でも、声の感じは柔らかでした。もっと図太いかと思いました。
体が大きいからか、見た時は無作法な印象でしたが、礼儀作法はしっかりしていました。
そうでなければ、あの場にはいられないのですが。
ダンスは、私が間違ったのにあやまってくれました。あ、結局気にしてます。
いいです、もう。私の中ではクリス様とお呼びします。グラハムは家の名じゃないそうですし。全て偽名かもしれませんが・・・。
執事が声をかけてきました。「お嬢様。門前にクリス・グラハム様からの、お届け物を持った商人が来ております。」
「なんですって!?」
「クリス・グラハム様という名に、心当たりはないと申したところ、先日ダンスを踊っていただいた者、とお伝えすれば思い出していただけるのでは、と言うのですが、いかがいたしましょう。」
「確かに覚えがあります。サロンでその者と会います。」
執事はうなずきました。「承知いたしました。」
サロンへ案内されて来たのは、クリス様程ではないけど、ずんぐりした、いかにも商人という感じの中年男性でした。
「グラハム商会の主、ジョージ・グラハムでございます。」営業スマイルと共に挨拶されました。
「グラハム商会・・・。クリス・グラハム様とはどういうご関係かしら?」
「それは、クリス様の身上に関る事なので、私からは申し上げられません。」
「そうですか。」なんかがっかり。でも、名で呼ぶなんて親しいのね。
「ですが、私とクリス様に、血のつながりは無い、という事は申し上げられます。」
営業スマイルが曇っています。ワケありだって言っていましたね。ここはあきらめましょう。
「それで、クリス様から、何かいただけるのかしら?」私も便乗して、名で呼んでしまう事にしました。二人共グラハムですし。
商人は営業スマイルを取り戻しました。「はい、手紙と化粧品を、お持ちいたしました。」
「化粧品?」
「さようでございます。まずは手紙を。」
侍女づてに手紙を受け取りました。もしかしてラブレター?ドキドキして開けてみました。
"先日は大変、失礼いたしました。お詫びの品を、贈らせていただきます。
お肌に合わないようでしたら、無理して使用せず、捨てていただけますよう。
追伸
化粧品とは関係なく、帽子や日傘等で、目元への日を避けると良いそうです。"
謝罪文にがっくり。気を取り直して。「では、贈り物を。」
「はい、こちらの化粧品は、薬草が練りこまれておりまして、ニキビ、そばかすを薄くする効果があります。」
「えぇ!そのような物がホントにあるの!?」ここではそれらは、お金をかけて治すほどではないと、言われています。
「ただ、効果は人それぞれでして、必ず消えるという物ではありません。期待しすぎず、マシになるかもくらいの感覚でお使いください。」
効かないかもという事じゃないですか。使って大丈夫なのでしょうか。
と、見透かされたようにさらに説明されました。「近所の町娘が使っておりまして、確かに薄くなったと先日、買い足していきました。」
すごい!「それはぜひ、試してみたいわ。」
「まずは手の甲に塗って、何ともない事をご確認いただき、次にお顔に少量つけて再度ご確認ください。」
すぐに試してみたいけど、侍女が許してくれませんでした。侍女が試している間に聞いてみました。
「グラハム商会の人にお願いすれば、クリス様に言付けとか、贈り物ができるのかしら。」
「はい、クリス様の事は私か、息子のジョンにお申しつけください。」
「では、礼状をお願いするわ。」化粧品を試しつつ、簡単な礼状をしたためて渡しました。
「化粧品は問題ないようですね。他の化粧品同様、毎日軽く塗り広げる程度で結構です。効果がで始めるのに数週間はかかります。」
ジョージ・グラハムが礼をして出て行きました。
数日間、化粧品がどれくらい効くか、ドキドキして過ごしました。それと共に、クリス様への気持ちがますます強まっていきました。
もしかして、私ってチョロかったのでしょうか?
この世界には、まだ鉄砲はありません。
この国に学校はありません。各家庭で教師を雇います。
クリスは美化するなら、イケメンとかカワイイと、人気の"力士"のような感じでしょうか。