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第7話 イライラ

大学の夏休みが終わった。セミの声が頭にガンガン響き、太陽が容赦なく照りつける通学路を進む。下宿先から教室までそんな距離はないはずなのに、体はへとへとになってしまう。


彼はもともと真面目で大学の授業に出席するのは苦ではないほうだった。それよりも彼を悩ませていることは、隣にいる玲奈のことだった。急でなければ一緒にいて構わない、そんな言質を取ってからの彼女の行動力は凄まじく、気づけば通学する時間には彼の家の前にいるようになっていた。


「本当に暑いですね。」


挨拶がてら彼女は天気に関する話題を振ってきた。ニコニコとしている様子はいつもと変わらない。


「……。」


うだるような暑さだからだろうか、彼女の発言に反応を返したくない気分だった。最近こんな気分になることが多い。何気ない会話でも少々イラッと来てしまうことが起こるようになった。


「授業の準備は全部できていますか?」


「……。」


彼女はオレが反応しなくても、めげずに違う話題を掘り起こそうとしている。友達として非常にいい人だなと人ごとのように思う。それがとてもありがたいことなのに、節々が癪に障って受け入れられない。


結局その日はそれぞれの教室に分かれるまで、一言も彼女に言葉を返さなかった。


授業が終わった。


登校時の自分の態度を振り返って自己嫌悪に陥る。緩徐はあんなに優しいのに、オレはなんてことをしてしまったんだろうか。


夕方になっても太陽はまだ高く、暑さは和らぐ気配を見せなかった。オレは教室から出て、すぐに玲奈のことを考えた。彼女はきっと、今日のオレの態度に傷ついただろう。いつも一緒にいるのが当たり前になっていた彼女に、あの冷たい態度はひどすぎた。


「どうしてあんな風にしてしまったんだろうか?」


主人公は自問自答しながら、大学のキャンパスを歩き出す。頭の中には玲奈の笑顔が浮かんで離れない。彼女はいつも、どんな時でもオレに優しく接してくれていた。それなのに、なぜか最近、彼女のその優しさが苛立ちに変わってしまう。何が原因なのか、主人公にはわからなかった。


「自分が変わったからなのか……。」


どれだけ自分の中で自問自答しても、満足のいく答えは浮かびそうになかった。


何も考えずに歩いているともうすぐに下宿先に到着してしまった。帰宅してすぐいつもの習慣で、風呂にお湯をはって、お風呂の準備をすませた。


湯船に浸かりながら、今日の1日を振り返る。最初に玲奈にあったときは、イライラしてひどく邪険に扱ってしまった。その後の授業も教授の歯擦音が気になり、まともに聞いていられなかった。


今までだったらこんな些細なことでいちいちイライラしてはいなかったのに。振り返ると自分がいかに下らないことで腹をたてているのかがわかり、そんな自分にまたイライラする。


全身が湯船に浸かりリラックスできているはずなのに、心は全く休まっていなかった。


このまま長く入っている気にも゙ならず湯船から上がる。そんなとき彼女は下腹部にある違和感を感じる。何かがでろりとたれてくるような嫌な感覚。


とっさにタオルをまくって直接覗いてみると、太ももには赤い筋が一筋たれていた。


3回目の生理。以前の経験から、彼女はもうそれが来ることを理解していたし、その準備もしていた。しかし、その周期は把握できておらず、急に始まってしまったことで心と体が重く沈む。


「またか…。」


と思いながら、彼女はすぐにバスルームの棚から生理用ナプキンを取り出した。慣れてきたとはいえ、この一連の作業にはまだ少しだけ気後れが残る。最初の頃は、自分の体が自分のものではないような違和感と戸惑いに苛まれていたが、今ではそれもだいぶ薄れた。とはいえ、完全に慣れたわけではない。彼女はタオルで体を拭きながら、思わず小さくため息をつく。


彼女は鏡に映る自分を見つめた。以前とは違う、女性の体がそこに映っている。まだ自分の体だと実感がわかない部分もあったが、それでも少しずつ受け入れ始めている自分に気づく。


「こういうものなんだ…。」


ナプキンを装着し、下着を履き直す。その一連の動作も以前よりスムーズだ。慣れとは恐ろしいものだ。これが自分の日常の一部になりつつあるという現実に、複雑な感情が沸き上がる。


バスルームから出ると、少し気分が重くなっていることに気づく。生理痛の兆しだろうか? 頭がぼんやりと痛み始め、肩がだるい。彼女はリビングにあるソファに身を沈め、テレビをつけたが、何を見ても心に響かない。


「そういえば、玲奈のこと…。」


朝のことを思い出し、再び自己嫌悪に陥る。生理前はイライラや感情の起伏が激しくなるということをふと思い出した。今朝の彼女に対する態度はひどかった。彼女はただ友達として親切にしてくれているだけなのに、つい感情的になってしまったのだ。その原因はこれだったのか。歯止めの効かない感情の動きは、彼にますます重くのしかかった。


「玲奈に謝らないと…。」


そう考えるも、重い体と心がそれを阻む。ソファでしばらくぼんやりしていると、腹部に鈍い痛みが広がる。3回目の生理とはいえ、やはりそれに伴う不快感はどうしようもなく、完全に慣れるにはまだ時間がかかりそうだった。


生理が来るたびに、彼は自分が女性であることを再確認させられる。そして今回、その影響は体だけでなく心にまで作用することを身をもって体験した。そのことをどう受け止めるべきか、彼はまだ答えを見つけられずにいた。


彼は体を横たえ、重くなったまぶたを閉じた。頭の中で玲奈の笑顔がちらつく。しかし、次第にそれは薄れていき、やがて消えていく。


「明日こそは…。」


心の奥底からわずかに漏れた言葉は、彼自身の耳にも届かない。混乱した心と痛みが、これからの彼をさらに揺さぶっていくのだろうと感じつつも、彼は眠りの中へと沈んでいった。



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