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第4話 変質者?

あの不思議な女性から話しかけれられたあとオレは登下校に…、いや日常のすべてのシーンで人から見られているような、そんな気配を感じるようになった。


これは確信があるわけではなく、なんとなく直感的なものだ。体が女性のものになっているために敏感になっているかもしれない。女性は周囲の視線を集める可能性は男よりも高そうだし。


でも、それにしても不気味だ。ずっと、どんなところでも見られている感覚があるなんて、実際誰かにつけられているんじゃないか。そんな疑いが日毎に深まっていった。




オレはとても困った事体に直面していた。


期末テストの時期が近づいてきたのだ。今は7月の半ばごろ、オレが女になる事件が発生して2周間もすれば、もう期末のレポートやテストが始まる時期だ。


自分は大学で単位をおとすわけにはいかない事情がある。親にも申し訳ないし。そういう意味でオレはレポートで単位が取れる授業を入念に調べて受講していた。


どうして頑なにテストを避けているのかというと、ぼっちだからだ。


大学のテストは情報戦なのである。部活動やサークル、同じ学科の友人などと協力して過去問を集めないと、高い点数を取るのは難しいのだ。


だから、テストを避けているのだが、ではどうしてテストのない授業を調べられているのか気になる人もいるだろう。


その秘密は、大学の裏情報サイトがあるからだ。裏情報とは言ってもSNSでレポートだったとか、単位は取りやすかったとかまとめて発信している人を見つけたのである。


その情報を信頼し、これまで授業を選択してきた。これまでは外れなくすべてレポートだった。だから今選んでいる授業もすべてレポートのはず。


「えー。学期末の課題についてなのですが、今年は人数がちょっと多いので、試験形式にしようかと思います。」


おいおい、おいおいおい。この教授は言ってほしくないことを、その口からこぼした。そんな話聞いていないぞ。


「ちょっと、待ってください。この授業のシラバスにはレポートで単位を決定するとあったように思いますが。」


ナイスだ。学生側の一人が手を上げて教授2質問した。シラバスに書いてあることは容易には変更できまい。


「確かに、そうなのですがそれには前置きがあります。私はシラバスに基本的にはレポートで単位を決定すると書きました。現状、受講人数が多いので、今年はテストで決定します。これは以前も認められているので、何も問題はありません。」


くそっ。いい質問だったが教授には論破されてしまった。


この日来週の授業時間にテストがあることが決定した。よりにもよって結構難しい内容の講義だ。一応、毎回授業には出席していたし、内容も真面目に勉強しようとはした。それでも心配なのだ。これからどうしようかと頭を抱えた。




教授からテストを行うと宣言された翌日、オレは早速行動に移していた。大学の図書館の学習スペースで勉強を始めたのだ。


ただ、1周間の勉強では付け焼き刃にしかならないだろう。もうすがるような気持ちでその講義に関連する本をかき集め片っ端から読み始めた。


しばらく勉強を行ったあと、オレは周囲を見渡した。テスト前だからか少し人が多いが、あまり混雑している様子もない。この分だと、席に荷物を置いて離席しても問題ないだろう。


そう考えて、オレはお手洗いに行くために離席した。最初はすごく困惑していたが、2周間もすれば慣れたものだ。つつがなくすべての行動を終えると元いた席に戻ってきた。


そこである異変に気がついた。オレが読むために机においておいた本の隣に、印刷をした紙の束が置かれていたのだ。


誰がこんなものをおいたのだろうか。中身を確認すると、それはテストが行われることになった講義の過去問だった。


すーっと冷や汗が伝う。


オレがこれまで感じていた視線。それは勘違いではなかったかもしれない。ずっと自分を監視して状況を把握しているやつがいる。


そいつが、オレが席を離れたときに過去問を渡しに来たのではないか。そんな予想がたてれたからだ。


過去問の内容を確認すると3年前、7年前、11年前のものとそれぞれ用意されていた。オレをつけているやつは情報を収集する能力に長けているやつらしい。


怪しい曰く付きの過去問だったが、今の状況はなりふりかまっていはいられない。そういうわけで、ありがたくもらっていくことにした。




オレはその後、過去問をもとに勉強を進め、何とかテストを乗り切ることができた。結果は上々だったが、それ以上に心の中で渦巻く疑念が消えなかった。あの過去問を置いていったのは一体誰なのか。自分をずっと監視しているやつは、何を企んでいるのか。


疑いは深くなっていったが、日常は普段通り続いていく。


最後のレポートも早めに済ませ、教授のポストに投函したあと、事件は起こった。


何か、あそこが湿ったような感じがする。もしかして漏らしてしまったのだろうか。


オレは慌ててトイレに駆け込んだ。便器の蓋を上げ、恐る恐る下着を確認すると、そこには見たこともない鮮やかな赤色が広がっていた。


「な、なんだこれ……?」


パニックの波が押し寄せる。体が女になってしまってから、いろいろと不慣れなことが多かったが、こんなことは予想もしていなかった。まさか、これが「生理」というものなのか。オレは頭の中が真っ白になり、何をすればいいのか分からなくなった。


手探りでスマホを取り出し、検索バーに「生理 対処方法」と打ち込む。ネットに出てきた情報を読み漁り、なんとか冷静を保とうとした。だが、読めば読むほど、自分の無知さに打ちのめされる。生理用ナプキン、タンポン、何それ?どれを使えばいいのかも分からない。いや、それ以前にどこで手に入れるべきなのかも見当がつかなかった。


「どうしよう……。」


そんな時、ドアの向こうから女子の声が聞こえてきた。


「高坂さん、もしかして今とても困っていたりしますか?」


オレは躊躇しながらも、個室の外から呼びかけてくるその声に答えた。


「あぁ、はい。その、いいにくいんですが、とても困っています。」


すると個室の壁の上から手が伸びていて、その先には生理用品のナプキンが握られていた。


「助かった……。」


何とかナプキンを受け取ると、説明書きを見ながら不器用にナプキンを装着した。妙に違和感があったが、これでとりあえずは一安心だろう。


オレは一息ついて、自分の腰、ふともも、足まで流れるように見つめた。


これから先、もっと多くの「初めて」を経験することになるのだろう。それが、どれほど自分を変えていくのか、想像もつかなかったが、少なくとも今は、この新しい現実と向き合うしかなかった。


それよりも目下解決すべき課題ができた。


どこか聞き覚えのある声を発していた、扉の向こうにいる女の人。この扉を開ければすぐそこに立っているだろう。


もしかしたら自分よりも自分の状況に詳しいかもしれない。何か困っていたら助けてくれたのは彼女だったのだろうか。


過去問に、ナプキン。2度も窮地を助けられた彼は、その人に恐怖心と、それと同じくらいの興味を持ち始めていた。




しばらく、じっとしていたがうだうだしていても始まらない。彼は覚悟を決めると、個室の扉を開けた。


目の前に立っていたのは、あの不思議な女性だった。彼女はにっこりと微笑んでいて、その笑顔にはどこか安堵のようなものが感じられた。


「やっぱり困っていたみたいですね。少し様子が気になって、後を追ってしまいました。」


彼女は軽やかな口調で言った。


オレは驚きと共に言葉を失っていた。あのとき街中で話しかけてきた彼女が、こんな形で再び現れるとは思いもしなかった。


「貴女は…あの時の…?」


オレはようやく言葉を絞り出した。


「そうです。またお会いできて嬉しいです。」


彼女は微笑みを崩さずに応じた。


「でも、どうやらまだ混乱しているみたいですね。」


オレは無言で頷いた。この女性が何者なのか、そしてなぜ自分をここまで助けてくれるのか、まるで理解が追いつかない。


「私のことをもっと知りたいなら、ゆっくり話す時間を作りましょう。お茶でも飲みながら。」


彼女は優しく提案した。


「でも今は、まずは落ち着いて。この状況に慣れるのが先決ですから。」


オレはその言葉に従うように深呼吸をし、少し落ち着きを取り戻した。それから、彼女の提案に首を縦に振った。


「分かった。後で話そう。」


「それでいいと思います。」


彼女は頷き、親しげにオレの肩に手を置いた。


彼女と出会ったことで、オレの生活はますます奇妙な方向へと進んでいくことになるのだろう。だが、彼女の存在が少しだけ安心感を与えてくれる気もした。


この女性は一体何者なのか、そしてオレが巻き込まれたこの不思議な出来事の真相は何なのか。全てが明らかになる日はまだ遠いかもしれないが、その道筋が少しだけ見えてきたような気がした。


今は心の整理が必要だとういことで一週間後に街の中心部にあるモールで落ち合うことになった。オレの夏休みに始めて入った予定になった。


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