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第29話 愛の告白

買い物から帰ってきて食事を済ませる。メイクをした状態での食事というのは初めてだったのでなんだか緊張した。


食事を終え、悠真は静かにため息をついた。口紅がグラスに少しだけ残っているのを見て、思わず苦笑する。


「メイクして食べるのってこんな感じなんだな……。」


鏡越しに自分の顔を確認する。アイメイクはなんとか無事だが、リップは少し薄れていた。違和感に耐えながらも、今日一日がどうにか過ぎたことにホッとした。


その時、玲奈が静かに声をかけてきた。


「食事でメイクが落ちてないか気になりますか?」


「いや、そんなことはないんだけど。」とオレはとっさに軽く首を振った。


「そうですか。意外と落ちないものなんですよ。」


「そうなんだ、わかった。」と、気恥ずかしさを隠しつつ答える。玲奈は軽く微笑み、何も言わずに立ち上がり、食器を重ね始めた。


「あ、オレも手伝うよ」


「いいえ、ここは私に任せてください。悠真さんは少し休んでいてもいいんですよ。ちょっと運ぶ人がやりやすくなるように重ねてるだけですから。」


玲奈の言葉に甘え、オレは窓際にある椅子に腰掛けた。夜空はすっかり暗くなっている。窓からはこの温泉街の入り組んだ建物からこぼれ出る光が見えていた。幻想的な光景だった。


「随分たそがれていますね。」


ぼーっとしていると玲奈が後ろから囁いてきた。思わず「ひゃっ!」と声がでる。


「ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。」


「いや、別に驚いたわけじゃない…。」


オレは慌てて姿勢を正す。玲奈が背後にいることに気づかず、少し動揺してしまった。


「本当ですか?」


玲奈はクスッと笑い、オレの横に座る。


「でも、確かに静かな夜ですね。こういう場所だと、何も考えずにぼーっとできるのがいいところです。」


「…まあ、確かに。」


オレはそう言いながら、窓の外に再び視線を戻した。静かな街の灯りが、妙に落ち着かせてくれる。


「それにしても、悠真さんがメイクを気にするようになるなんて、ちょっと意外でした。」


玲奈はからかうような口調で言う。


「そりゃあ、せっかく可愛くしてもらったのに崩れるなんて嫌だからさ。」


オレは少しムッとして言い返すが、玲奈の言うことも一理ある。メイクを気にしてしまう自分が、どこか滑稽に感じたのも事実だ。


「でも、ちゃんと似合っていますよ。今日一日を見ていて思いましたけど、言われなければとてもきれいな女性に見えました。」


玲奈の言葉にオレは少し戸惑った。


「…そうかな、オレはまだ慣れてないところもあるけど。」


玲奈は優しく微笑み、「大丈夫ですよ。あなたはどんな姿でいても可愛くてきれいです。でも、あなたに可愛くてきれいというのは言っていいものなのでしょうか。」と、静かに言った。その言葉に、オレは嬉しい反面、彼女にオレの秘密を打ち明けていないことに後ろめたさを感じた。


彼女はこちらに来るときに部屋の電気を消していたので、まどから入ってくる光だけで薄暗く彼女は照らされていた。もしかしたら、いまがそれを打ち明けるチャンスなんじゃないか。そう考えてオレは覚悟を決めた。


「実は話があるんだけど。」


玲奈は少し驚いた様子で、しかし冷静に「話ですか?」と応じる。彼女の瞳がこちらを見つめてくる。オレは一度深呼吸し、言葉を選びながら続けた。


「私、いや、オレは、本当は…男だったんだ。」


一瞬、沈黙が部屋を包んだ。玲奈の表情から微妙な変化が読み取れるが、驚愕や拒絶といったものではない。彼女はただ静かに、オレの言葉を待っているようだった。


「今の私の体、女の体になってるけど、元々は違ったんだ。何があったのか、どうしてこうなったのか、それは説明できるけれども話しても信じてもらえないと思う。でも、これは事実なんだ。」


自分でも説明が雑だとは思ったが、それでも伝えなければならないと思っていた。玲奈はその間、静かにオレを見つめていた。そして、ふっと息をつき、柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。


「なるほど。それが本当なら、大変でしたね。」


彼女の反応にオレは驚く。もっと驚かれるか、あるいは信じてもらえないかと予想していたからだ。


「信じるのか?」


「もちろんです。悠真さんが嘘をつくような人ではないと知っていますから。それに…今までの振る舞いや言動から、何かが違うとは思っていました。でも、こんな大きな秘密を抱えていたとは。」


玲奈は穏やかに言いながら、少しだけ眉を寄せた。


「…辛かったでしょう?」


その言葉に、オレはぐっと胸が詰まるような感覚を覚えた。ずっと胸の内に秘めていた事実を、初めて打ち明けたのだ。玲奈に対しては、性同一性障害だと嘘をついていたが、そのつっかえが取れてスッキリしているのがわかる。


「正直、混乱したし、どうしていいのかわからなかった。でも、今は少しずつ慣れてきてる。」


玲奈はしばらくオレを見つめていた。


「じゃあ、私と悠真さんが初めてあったとき、トイレで困っていたのは…、もしかして経験がなかったからですか。」


オレは静かに頷いた。


その様子を見て彼女は静かに立ち上がり、こちらに一歩近づいてきた。そして、そっとオレの肩に手を置き、優しく語りかけた。


「大丈夫ですよ。どんな悠真さんでも、私には変わらず大切な人ですから。むしろそれは私と悠真さんの縁をつなげてくれたのかもしれません。」


玲奈のその言葉に、オレは思わず目を潤ませた。止めようとしているが溢れてくるものは止められない。


「本当に、最初は本当に辛かった。」


もともと男だったと打ち明けているのに、涙を流しているが恥ずかしい。彼女はよしよしとずっと背中をさすってくれた。


「でも気づいたことがあるんだ。オレはこの体を楽しんでいるところがあるって。」


「楽しんでいる、ですか?」


玲奈は少し驚いたように聞き返したが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「それは、良いことじゃないですか?」


オレは玲奈の反応に一瞬戸惑ったが、正直な気持ちを隠すつもりはなかった。


「最初は、ただ怖かった。何が起きたのかわからなくて、自分の体も信じられなくて…。でも、少しずつ慣れてきて、気づいたんだ。服を選ぶのも、メイクするのも、楽しいって。」


そう言いながら、自然と顔が熱くなるのを感じた。まさか、玲奈にこんなことまで話すとは思っていなかった。だけど、打ち明けることで心が軽くなる気がした。


「だから、メイクが崩れるのが嫌だって思うのも、そんなに変なことじゃないのかもしれない。もしかしたら、今のオレは、前よりずっと自由になれてるんじゃないかって思う。」


玲奈は少しだけ驚きながらも、目を細めて静かに頷いた。


「そうですね。それは素敵な発見だと思います。人は、どんな状況でも、心から楽しむことができれば、それが幸せへの道になるんじゃないでしょうか。」


玲奈の言葉にオレは少し笑った。


「玲奈は、やっぱりすごいよ。オレがこんなにぐちゃぐちゃな話をしても、いつも理解してくれる。」


「私にとっては、悠真さんがどんな姿であっても大切な人ですから。それに、あなたが少しでも前向きに自分を受け入れているのなら、私はそれを応援したいです。」


玲奈の言葉に、オレの胸が温かくなる。打ち明けたことで、二人の距離がさらに近づいた気がした。そして、玲奈の優しさに、改めて感謝の気持ちが溢れた。


「ありがとう、玲奈。お前がいてくれて、本当に良かった。」


玲奈は軽く微笑みながら、「こちらこそ。これからも、ずっと一緒にいられるといいですね。」と言って、そっと手を握ってくれた。


ずっと一緒にいたいと言いたいのは自分の方だったのに彼女に先を越されてしまった。なんだかおかしくなって、オレははにかんで言い返す。


「ずっと一緒にいたいって言いたいのはこっちだよ。少しは男らしいとこも見せさせてよ。」


オレの様子を見て彼女はふふっと笑った。不意にヒョロヒョロとなにかが空を登っていって大きな音をたてて弾けた。


「まあ、きれいな花火ですね。」


「うん、すごく綺麗だ。季節は全然夏じゃないのにな。」


「それもいいじゃないですか。」


断言しよう、オレの心はことのとき産まれてきてから一番満たされていた。これからは彼女と一緒に暮らして、一緒に泣いて、彼女のためにいきてゆきたい。オレが求めるものがはっきりしたんだ。


オレは花火に見惚れる彼女を、玲奈を抱きしめた。


「玲奈、オレはお前を愛している。これからも一緒に過ごしてあなたのそばにいたい。」


彼女がどんな顔をしているのか、オレにはわからない。しかし、彼女の体が熱を帯びているのが伝わってくる。鼓動が高鳴っているのが伝わってくる。


「ええ、わかりました。私からもお願いさせてください。これから一緒にいてくださいと。」


オレは言葉の変わりに、彼女を抱きしめる力を強くした。花火はいつの間にか終わっていた。しかし、オレ達にとってはそんなことは関係なかった。世界のすべてが輝いて見えた。いまなら心置きなく言えるだろう、オレに関わってきたすべてのものに、ありがとうと。


こちらの小説はこれにて完結という形にしたいと思います。もしここまで作品を読んでいただけたなら、本当にありがとうございます。


小説を投稿しようとしているのに、一度も物語を完結させることができないという状態を脱することができて、自分はとても満足しています。


この小説を書くきっかけになったのは、ISSUEよりはじめよという本を読んだことです。この本は仕事をするときには、まず白黒つけるべきイシューとはなにかから考えろという本でした。


それをどうにか創作に活かしたいと自分は思いました。そこでひらめいたのは、自分が書きたいシーンだけ書くということです。


EROよりはじめよということです。もとより、このサイトに小説を投稿しようとしたきっかけは、自分の好みが固まっていけばいくほど、自分に刺さるコンテンツがないので、自分で作るしかないと思ったことでした。


自分の欲望をさらけ出している分とても恥ずかしいですが、書きたいことだけ書いて最期まで書き切ることができました。清々しい気分です。


読みにくい文章だったら申し訳ありません。なかなか良い文章の形というのは思い浮かばないとわかりました。世の中の作家はすごいですね。


TSというジャンルの一作品として、このサイトに形を残せたことを嬉しく思います。みなさん、ありがとうございました!

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