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第28話 お買い物

この温泉街はファッションの街としても有名らしく、2日目は買い物をすることになった。


昨日の夜はあまり眠れなかった。同じ部屋に布団を並べて玲奈と二人で寝ている。そんな状況にとてもドキドキして…。


あっという間に朝日が登っていた。


昨日の彼女の姿が忘れられない。オレに買い物に行こうと提案したときにこんな質問をしてきたのだ。




「悠真さんは、子どものときから男物とかしか着てないんですか。」


「あっ、ああ…。」


本当はついこの前まで本当に男だったのだが、下手に心が男だと伝えたことで変に気を使わせてしまっている。オレはこの真実をいつ彼女に伝えられるだろうか。


「じゃあ、似合う服の選び方とかには詳しくないということですね。」


「確かに、これまで自分で服を選ぶときは男物とかユニセックスばっかりだったかも…。」


本当は男物しか買ったことはないが、オレは少し嘘をついて誤魔化した。


「そうなんですね。」


彼女は少し残念そうな顔になる。しかし、しばらく考えたあとぱっと明るくなりオレにこんな提案をしてきた。


「それだったら、私が女の子の楽しみ方を一から教えてあげますよ。」


「えっ。」


「私が選んであげますから、一緒に楽しみませんか?」


玲奈の目が輝いていた。オレが何か言い返す前に、彼女はすでに次の予定を決めているような勢いだった。


「いや、別にオレは…そんなにこだわりとかないし…。」


弱々しく反論したものの、玲奈の勢いには勝てそうにない。


「それはもったいないです。せっかく女の子の体なんですから、もっと楽しむべきです。」


彼女は微笑んで、そのメリットを強調した。オレを抱き寄せてちょっと耳打ちする。


「想像してみてください。本物の女の子の体で、女の子の楽しみを知る。それは普通の男にはできないことだと思いませんか。」


その言葉に、この状況にオレの心臓はうるさく暴れる。考えてみたらそんなのはオレの人生でしか味わえないことだ。男としてこんなチャンスを逃すべきではないのではないか。そんな心の声がした。


「じゃあ、明日は早めに出発しましょう。色々な店を回りたいですから。」


玲奈はすでに計画を立てている様子だった。


「ああ…わかった。」


オレは結局、逆らえないまま答えた。


そして翌朝、眠れないまま迎えた朝日が、まぶしく部屋に差し込んでいた。玲奈は隣でぐっすり眠っている。彼女の寝顔を見ると、少し安心する自分がいた。


「…オレ、本当にこのままでいいのか?」


つぶやいたが、返事はなかった。




このままさっき言った状況に続くわけだ。


やがて、玲奈がゆっくりと目を覚まし、微笑んだ。


「おはようございます、悠真さん。今日も楽しい一日になりそうですね。」


玲奈のその言葉に、オレは微笑むしかなかった。


「ああ、そうだな。」


オレたちは朝食を軽く済ませ、温泉街の中心にあるショッピング通りへ向かうことになった。石畳が敷かれた道沿いには、洋服店やアクセサリーショップ、小物屋が並んでいる。観光客が楽しそうに歩く中で、玲奈は自信満々に歩き、オレは少し遅れてその後ろをついて行く。


「まずはこのお店に入りましょうか。」


玲奈は、ひと際目立つオシャレなブティックを指差した。


「ここか…。いや、ちょっと派手じゃないか?」


オレは店のウィンドウに並べられた華やかなワンピースやスカートを見て、少し後ずさりした。


「そんなことないですよ、悠真さん。自分に合う服を見つけるのが大切なんです。」


玲奈はオレの腕を引っ張り、強引に店の中へと連れて行った。


店内には、色とりどりの服がずらりと並んでいる。オレは落ち着かない気持ちで辺りを見回すが、玲奈はすぐに行動に移っていた。手に取った服を次々と選び、オレの体にあてがっては「これなんかどうですか?」と楽しそうに言ってくる。


「うーん、ちょっと露出が多いんじゃないか…?」


オレが手にしたノースリーブのワンピースを見てそう言うと、玲奈は軽く笑った。


「大丈夫です。悠真さん、もっと自信を持ってください。きっと似合いますよ。」


玲奈の言葉に、オレは少し照れながらも、彼女の選んだ服を試着室に持ち込んだ。狭い試着室で鏡に映る自分の姿を見ると、以前の男としての自分とはまったく違う光景が広がっていた。


「おい、マジかよ…。」思わず声が漏れる。


玲奈が選んでくれた淡いピンクのワンピースは、オレの体にしっくりと馴染んでいた。肩が露出しているデザインだったが、思ったよりも上品な印象だった。


「どうですか?」


外から玲奈の声が聞こえる。


「…まあ、悪くないかも。」


そう答えながら、オレはまだこの体に慣れない自分と鏡越しに向き合っていた。


カーテンを開けると、玲奈は満足げに頷いた。


「やっぱり似合いますね、悠真さん。そのまま街を歩いてみましょう!」


「え、ちょ、ちょっと待てって!」


オレは慌てて止めようとしたが、玲奈はすでにオレを店の外へと連れ出そうとしていた。


オレの心臓は相変わらずドキドキしていたが、玲奈の笑顔を見ると、もう抗う気力は残っていなかった。「はぁ…、わかったよ。」そう言って、オレは彼女に従うことにした。


温泉街を淡いピンクのワンピースで歩く自分を想像し、オレはますます複雑な気持ちになっていたが、玲奈と一緒にいられる安心感が、その不安を少しだけ和らげてくれていた。


次の目的地はどうやらコスメショップだった。男のときは縁もゆかりも無い場所だ。当然入るのは憚られる。


でも、玲奈は強情だった。


「次はここです。」


玲奈はコスメショップのドアを押しながら、にこっと微笑んだ。まるで、オレが抵抗する隙なんてないとでも言いたげに。


「ちょ、ちょっと待てよ。さすがにコスメは…必要ないだろ?」


オレは動揺しながらも、何とか踏みとどまろうとする。しかし、玲奈の手はオレの手をしっかりと引いていた。


「悠真さん、今の自分の姿を鏡で見ましたか?」


玲奈はいたずらっぽく微笑みながら、オレをぐっと引き寄せる。


「ワンピースは似合ってますけど、メイクをすればもっと…完璧になりますよ。」


「完璧…って、オレには必要ないって言ってるだろ!」


オレは必死に反論するが、玲奈は全く聞く耳を持たない。


「せっかく女の子の体になったんですから、少しは楽しんでみましょうよ。これも経験です。」


玲奈は手際よく化粧品の棚を見て回り、すでにいくつかの商品を手に取っている。リップグロスやアイシャドウ…オレが男だったときには絶対に手に取らなかったものばかりだ。


「うわ、こんなにあるのか…。」


コスメの世界は想像以上に複雑で、何をどう使えばいいのかさっぱり分からない。オレは目の前に並んだ無数のアイテムを見つめ、圧倒されていた。


「まずはナチュラルな感じでいいと思いますよ。ここに座ってください。」


玲奈はオレをメイク台の前に座らせ、準備を整え始めた。


「ちょ、ちょっと待てって…!」


オレは抵抗しようとしたが、玲奈の動きは早かった。


「リラックスして、私に任せてください。きっと気に入りますよ。」


玲奈は優しく微笑みながら、オレの顔に手を伸ばした。


そして、ほんの数分後、玲奈は手を止め、満足そうに言った。


「はい、できました。鏡を見てください。」


オレは恐る恐る鏡を覗き込む。そこに映っていたのは、かつての自分ではない。ほんの少しのメイクなのに、顔全体が柔らかくなり、女性らしさが一層際立っていた。


「これ…オレか?」


思わず自分に問いかける。見慣れない自分の姿に違和感を覚えながらも、どこか新鮮な気持ちが湧き上がってきた。


「とっても綺麗ですよ、悠真さん。」


玲奈は満足そうに微笑んでいる。


鏡を見て女の子になってしまったことを実感する。そして、おそらくこれはもう戻ることはないと感覚的にわかる。それならば…、むしろ…。女の子としての人生を全力で楽しんでもいいのではないか。ふっきれてもいいのではないか。目の前の女の子はまだ自分じゃないみたいで、かわいいけど不思議な様子だった。


「どうですか?気に入りましたか?」


玲奈は満面の笑みを浮かべながらオレに問いかける。その笑顔は、まるで成功を確信しているかのようだった。


「うーん…、まあ、悪くはないというか、めちゃくちゃいいというか…。まだ慣れないっていうか…。」


オレは正直に言葉を選びながら答えた。鏡の中の自分は、確かに綺麗でかわいらしい。だが、それが自分だと受け入れるには時間が必要そうだった。


「それは自然なことです。でも、少しずつ慣れていけばいいんですよ。大事なのは、自分を好きになることですから。」


玲奈はそう言いながら、オレの肩に軽く手を置いた。その優しい手のぬくもりに、オレは少しだけほっとする自分がいた。


「さあ、次の場所に行きましょう。今日はまだまだ楽しむことがたくさんありますよ。」


玲奈の声に押され、オレは立ち上がった。鏡に映る自分をもう一度確認し、心の中で少しだけ覚悟を決める。


「そうだな。せっかくだし、今日くらいは楽しんでみるか。」


そうつぶやくと、玲奈は嬉しそうにうなずいた。そして、彼女と並んで歩き出すと、外の街の空気が一層鮮やかに感じられた。温泉街の石畳の道を、まるで別人になったかのように、オレは玲奈とともに歩き続けた。


女の子としての一生を、これから本当に楽しむことができるのだろうか。そんな不安が心の片隅に残るものの、玲奈の隣にいると、その不安も少しずつ薄れていくような気がした。



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