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第18話 発見

オレは冬休みの期間すべて、実家で過ごす予定をたてている。そんなに長くいる必要はないのだけれど、今は玲奈や健とは距離を取りたかったからだ。


家事をいつものように母に任せてだらだらと過ごすこともできる。でもオレはそんなふうにはいたくなかった。それでは父と全く同じではないか。だからできる限りのことは手伝うことにした。


昔ながらの木造の家ということもあり、部屋数は二人で暮らすにはとても多く、またそとには庭や植木まである。当然、母一人では手が回っていない。


庭の植木は自由に枝葉を伸ばしているし、全然使われていない部屋の中には、ホコリだらけで掃除できていないところが目立った。


一番若い力として植切狭を持ってはしごに登り、剪定を行う。バランス感覚が良くなっていたのか、作業中に不安は全く感じなかった。


しかし、この寒さは厳しいものがある。ゴワゴワした厚手の上着を来て作業をしているが、手袋と服の隙間から冷たい空気が入り込んできてつらい。吐いた息はすぐに白くなるし、今日は相当冷え込んでいるみたいだ。


午前中の時間をすべて使ってなんとか、作業を終わらせるともう昼ご飯の時間だった。


「ちょっと植木の剪定を済ませておいたよ。」


親に堂々と手伝いしたというのは少し恥ずかしいので、小声で蛋白に作業を終えたことを伝えた。


「あら、ありがとう。いつの間にか大きくなったね。手伝いも自分からしてくれるなんて。」


オレの想像以上に母は嬉しがった。家族にそんな反応をしてもらえるのは、悪い気はしない。午後は部屋の掃除をしよう。オレは気分をよくし、次は何をやろうか考え始めていた。




マスクにはたき、掃除機にバケツと雑巾を用意しオレは掃除をする準備万端を整えた。最もひどい部屋は家の奥の方にある寝室として考えられていた部屋だ。その部屋にはエアコンがないため、誰も使っていない。次にひどいのは3帖ほどの物置部屋と、2階の母の書斎だ。


どの部屋もすみを見れば蜘蛛の巣がはっていて、マスクなしではくしゃみが止まらないような環境だった。ここまで放置されているので、いつかはやらないと誰か病気になってしまうだろう。


オレは一息ついて、作業を始めることにした。最初に手を付けるのは寝室だったところだ。まずははたきをもって高いところに積もったほこりを落としていく。白い綿みたいに部屋中にほこりが舞い上がった。これは相当たまっている。開始5分で作業をやり始めたことを後悔していた。


あらかた上の作業を終えると、掃除機でさっとほこりを吸い込み、水にぬらした雑巾で壁と床を拭いていく。暖房がないので部屋はとても寒く水も冷たいので手は真っ赤になっている。そんなつらさもあったが、拭き終えるころには前と見違えるほどきれいになったので、達成感や爽快感があった。


一番ひどいところの作業には2時間くらいかかっていたので、予想していたよりも早く作業が終わりそうなことにオレはほっとした。


物置部屋には使わない椅子や布団、こたつなどが無造作に並べられていた。狭い部屋に無理やり押し込んであるので床が見えないくらいの荷物がある。最初は荷物を崩さないようにして高いところに降り積もるほこりを払い、次に荷物を運び出す。


布団に交じって空気で膨らむマットレスなど、いつどこで買ったのかわからないようなものが放りこまれていた。母は買い物をするときに衝動買いをよくするタイプだったので、使わないけど使えるものを捨てられずたまっていったんだろうと思われた。


勝手に捨てるのは忍びなかったので、床を掃除した後はすべてきれいに戻しておいた。


最後は2階の書斎だ。ここは母が集めている本があり、インターネットの回線が引かれている。パソコンでしかインターネットを使わない母がよく利用する部屋であるためか、ほかの部屋よりもきれいだった。


でもそれは相対的に比べた場合であり、ずっと過ごしたいといえるほど快適な空間ではなかった。並べられた本の上にもたくさんほこりが積もっている。最後の仕上げと隅々をきれいにした。


ぴかぴかと光輝く部屋の様子を見てオレは気分を良くした。やっぱりきれいなほうが気分がよくなる。母の役に立てたことできたのではないかという実感でオレはうれしくなった。


本棚を掃除している時なんか、もう無茶苦茶に本が倒れているところがあったので、最後の本を斜めに倒して他はすべてきれいに並ぶようにしておいた。時間があれば本立てを買う必要があるなと思った。


整頓された本棚を見回していると、1990~1994みたいに4年間ごとに年号が書かれた大きな日記帳があることが気になった。母はまめなことに毎日日記をつけていたらしい。試しに2018~2024分の日記を手に取る。そこには、この日は誰々が遊びに来たとか、何を買いに行くとか言ったメモとか、その日思ったこととか、感想なんかが日ごとに書かれていた。


そこで、あることにオレは興味がわいた。オレは自分が生まれた2002年のあたりが含まれている日記を手に取った。あえて最後のページから日記をめくる。


2006年12月31日


「おとうちゃんと悠真と3人で紅白歌合戦を見た。悠真は興味がなさそうだったけど、演出はすごかった。」


最後にはそんな感じで書かれていた。もうはっきりと覚えてはいないけど、家でテレビを見ることは多かったから、家族と過ごす昔のことに思いをはせた。


ペラペラとめくっていくとオレが初めて歩いたとか、初めて立ったとか、初めてしゃべったとかいろいろ記録されていて面白かった。こんな日記を眺めていると母がどれだけ自分を大切にしてくれていたのかが伝わってきた。


けれど、もっとさかのぼっていくと、字は少し雑になり、悲しいだの、乗り越えなくちゃいけないだの、そんな記述が多くなっていった。何か大きな出来事が母に起こっていたのかもしれない。ページを進めるたびオレの確信は強まっていった。


今オレは何かの秘密に触れようとしている。オレの誕生日付近に起きた母を憔悴させた何かがあった。それはオレにかかわることなんじゃないか。だってそんな話は一度も母から聞いたことがなかったから。これだけ長い間心に影を落とすような出来事をオレに話していないのは理由があるからなんじゃないか。


ページをめくる指が重く感じられた。この先を見るには覚悟を決めなければならない。オレはそう感じた。


ついに2002年に入った。毎日毎日悲しい悲しいとだけ書かれている。母がその何かを受け入れるために日記日記に思いを書きなぐっていたのだろうか。この部分からは読むのが大変なほどぐちゃぐちゃな文字だった。


オレの誕生日は9月25日だ。12月、11月、10月とめくっていくが日記が書かれている日はまばらになった。書かれていたとしても、もう文字とは読み取れないほどの線だけだ。オレの誕生日が近づくにしたがって、日記の内容はひどくなっていた。


そして運命の9月25日が入っている見開きを開く。そこに書いてあることにオレは目を疑った。












「悠真が生まれたけど、双子の弟の千尋は助からなかった。」


この記述を見たときは鳥肌が立ち、全身をぞわっと寒気が通り過ぎていった。


「双子の弟ってなんだ。オレは全然知らないんだけど。」


びっくりしすぎて思わず口に出してしまう。母があれだけ精神的に参っていたのは、双子の一人を流産で亡くしていたからだったのか。その影響の長さと大きさにオレは納得がいった。


子供が何人できるかは病院とか行ったら把握できるだろうし、当然そのための準備もたくさんしていたはずだ。服を買ったりとか食器をそろえたりとか。そしていよいよ出産というところで一人を亡くす。これはとても悲しいことだろう。


オレは兄妹がいないと思っていたけれど、実はいたのか。そんな大きな事実を今まで知らなかったことにオレは衝撃を受けた。


日記の内容にもろに動揺してしまい、その日は何も手につかなくなった。ぼおっとしていると、あっという間に時間は過ぎていき、気が付けばもう眠る時間だった。


双子の弟。


布団に入っても、そのことで頭がいっぱいで寝る気にならない。このままでは、生活に支障をきたしかねないので、明日は双子のことについて調べよう思った。しかし、睡眠という欲求はこんな時にも起こるようで、気づかないうちにオレの意識はなくなっていた。


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