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第14話 二度目のデート

翌日、オレは玲奈とともに最近開店したスイーツ専門店に向かっていた。


でも、オレと玲奈の距離は遠い。


「昨日はどんな用事があったんですか。」


彼女の誘いを断ったことにまだ怒っているようだ。


「あなたにはあんまり友人がいないと思っていたんですが。」


少し前を歩きながらボソボソと呟いている。とても何かを話かけられる状況ではなかった。


オレはスイーツ専門店の詳細を考えることで気分を紛らわせようとした。普通のお店には置いていないようなスイーツばかりを作ることでちょっと話題になっているところだ。


この店は料理の腕もさることながら、店の雰囲気作りに力を入れている。わざわざ街の外れに構えており、内装は画像で見るとなにやら怪しげだった。店主のコメント曰く、非日常感が味覚を刺激し、よりスイーツを美味しく感じさせるということだった。


前評判はこんなところだ。一点だけ問題があるとすれば、雰囲気作りが本格的すぎることだろうか。このエリアは街中でも少し治安に不安があるところで、人通りはほとんどなかった。


彼女はそれを気にすることなくスタスタと前を歩いていく。


ある速度は結構早く、ついていくだけで必死だった。


店に近づくについれ街の雰囲気が変わり始める。妙な静けさに不安を感じ何も起こらないよう心の中で祈っていた。


しかし、その願いは叶わなかった。


「ちょっと、やめてください。」


「まあまあ、そう言わずに俺等とええことしようや。」


チャラチャラした服装の男3人組が玲奈の腕

を掴む。悪い予感はおうおうにして当たるものだと考えさせられた。


オレが玲奈を守らないといけない。そうでなければ男がすたる。そんな正義感に突き動かされ、オレは男たちに声を掛けて気を引いた。


「彼女はオレの連れなのでやめてもらっていいですか。」


男達はしばらくきょとんとしたのち、「なんだぁ、お前も女じゃねえか」と言い、同時に下賤な視線を向けてきた。


「どうせなら二人まとめてでもいいぜ、ぐへへへ。」


ヘラヘラと笑う男たちの振る舞いは本当に不快なものだった。


オレは内心で怒りを抑えながら、冷静に次の行動を考えた。玲奈の腕はまだ男の手に掴まれている。ここで無理にでも引き離すべきだろうか、それとも他に方法があるのか。


「玲奈、下がってろ。」


そう言いながら、オレは男たちに向かって一歩踏み出した。同時に彼女の腕を掴む男の手を押して強引に引き剥がした。


正直とてつもない恐怖がオレの体を支配している。今の体は以前とは違う。力で押し返すのは無理があるかもしれない。目の前の男達が大きな存在に思えた。それでも、玲奈を守るためには何かしなければならない。


「冗談はここまでにしておけよ。」


オレは低い声で言い放つ。しかし、威圧感のある声は出せなかった。男たちはオレの言葉に全く怯む様子はなかった。逆に一人がニヤリと笑って、「じゃあ、どうするつもりだ?」と挑発してくる。


その瞬間、オレは頭の中で必死に策を巡らせた。力では勝てなくても、他に方法があるはずだ。ふと思いついたのは、監視カメラがあるとハッタリをかますことだった。


「この場所にはカメラがあるぞ。お前らがこれ以上やるなら、すぐに警察に通報する」


男たちは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに笑い声をあげた。


「監視カメラだって? そんなもん、あるわけないだろう。この場所はオレらの方が詳しいんだ。カメラの場所くらい知ってるって。」


オレの作戦は見事に失敗した。


「ハッタリかましてきやがると勘にさわる女だな。」


それどころか状況はますます悪い方向に転がっていった。


男達はじわじわと近づくと、「言う事聞かないんだったら、力付くで従わせてやるよ」と耳元で呟いてきた。


もう後戻りはできない。そう確信した。


次の瞬間、呟いてきた男が殴りかかってきた。アドレナリンが脳内に満ちているのか、さっきまでの恐怖心は感じなくなっている。男のパンチが不思議と遅く見えた。


その遅いパンチをスレスレでかわす。何度か殴ってきても、オレを捉えることは一度もなかった。


「舐めやがって。女だからって手加減しねえぞ!」


自分の攻撃が当たらず、余裕をもって躱されていることに挑発されていると思った男は全力で蹴ってきた。


その足の勢いをそらしながら掴み取ると、オレは男の軸足に足を掛けて軽く投げて見せた。


床に転ばされた男は痛そうに背中をさすりながら、周りにいた男達に呼びかけた。


「全員でやっちまえ。」


3人が同時に襲いかかってくる。このときにもオレは、そしてオレの体は冷静に対処していた。


目の前の一人が右から拳を振り下ろしてくるのを確認すると、オレはそれを素早く避け逆に彼の胸元に肘を打ち込んだ。


「ぐっ。」


男がよろけた隙に肩を掴み背負って投げ飛ばす。その次の瞬間、後ろからもう一人が駆け寄ってくるのを確認すると、腰を低く下げ足を薙いだ。


足の根元から掬われた男は背中から地面に叩きつけられる。


最後の一人はオレがかなり動けることを知り、躊躇して動こうとしてこなかった。オレはその隙を見逃さず、顎に掌底を打ち込む。その打撃は男の意識を刈り取り、目の前には倒れた男たちが転がった。


「まだ力付くで従わせようとするなら次は手を抜かない。」


オレは冷たく言い放つと、男たちは青ざめて逃げ出した。気絶した一人を二人が担ぎ上げて逃げる様はなんだか滑稽だった。


静けさにが戻った。


冷静になって後ろを振り返る。そこには顔を真っ赤にした玲奈がいた。


「私を守ってくれてありがとうございます。」


彼女は普段から多くを語らないが、その様子から嬉しさが込み上げているのがわかった。


彼女を守れて嬉しい。オレの心はそんな気持ちで満たされていた。


落ち着いたオレ達は当初の予定通りスイーツ専門店に向かう。そこは評判以上に雰囲気のおかしなところだった。


オレと玲奈は再び歩き出したが、先ほどの一件が影響してか、彼女との間に微妙な沈黙が続いていた。店の入口が見えてきたが、その独特な雰囲気が二人の気持ちをさらに複雑にさせているように思えた。


「ここですね…」玲奈が言葉を発したが、どこか不安げな表情だった。内装を見て少し怯えたのかもしれない。


オレも同じ気持ちだったが、強がって笑顔を見せる。「スイーツが美味しいって話だから、きっと楽しめると思う。」


玲奈は小さく頷き、店のドアを開けた。中に入ると、店内は外観から想像できないほどに奇妙で幻想的だった。薄暗い照明が柔らかくスイーツを照らし、店内には低い音楽が流れている。まるで別世界に迷い込んだかのようだった。


店の奥に入ると店員が笑顔で迎えてくれたが、その笑顔もどこか謎めいていた。その店員に案内された席につく。


「いらっしゃいませ。お二人様ですか。ご注文はどうされますか?」


玲奈はメニューを見て迷うことなく「おすすめのスイーツセットを二つお願いします」と静かに答えた。


「かしこまりました。少々お待ちください。」店員が奥へと消えていった。


しばらくして運ばれてきたスイーツは、見た目も味もこれまでに味わったことのないほど繊細で美しいものだった。オレも玲奈も、一口食べるたびにその美味しさに驚き、自然と会話も弾み始めた。


「これ、本当に美味しいですね。こんな場所でこんな素敵な体験ができるなんて予想以上です…」玲奈の表情が和らいでいくのがわかった。


オレは彼女の言葉に頷きながら、ようやくこの奇妙な空間が心地よく感じられるようになってきた。「本当だな。ここに来てよかった。」


オレと玲奈は一口一口味わいながらスイーツを口に運ぶ。どうもこうした甘いものには目がなくなっていることを最近自覚した。


「さっきはありがとうございました。」


味覚からの信号に幸せを感じているさなか、彼女はそう切り出してきた。


「悠真さんって、お強いんですね。」


「えへへ、まあね、高校の時は格闘技やってたから。」


こんな回答をしたときにズキリと頭が痛む。オレは格闘技なんかしたことないはずなのに、どうしてそんな言葉が出てきたのか不安になる。


考えてみればさっきのもそうだ。自然に体が動いて大きな男たちをバタバタと倒したけれど、男だったオレにそんな力なんてなかった。せいぜい力比べで張り合えるかなといったところで技なんてとても掛けられないはずだ。


でも、オレはまるでそれが自然であるかのように簡単に決めて見せた。自分の認識と自分の感覚と自分の記憶が噛み合わない。起こるはずのない齟齬で、精神はすり減る。


「悠真さん。悠真さん。大丈夫ですか。」


玲奈から呼びかけられていることにハッと気づく。深い思考をしていたせいで彼女のことを忘れてしまっていた。


「ごめんごめん。なんでもないよ。」


心は悲鳴を上げていたが、オレは玲奈に助けを求めることもできず、なんでもないように振る舞った。


玲奈はオレをじっと見つめている。その目には不安と心配が入り混じっていたが、それでも彼女は何も言わず、ただ黙ってオレを見守っているようだった。オレはその視線に気づき、少しだけ笑顔を見せた。


「大丈夫、気にしないで。さっきの話を続けようよ。玲奈に怪我がなくてよかったね。」


玲奈は一瞬驚いたように見えたが、すぐに微笑み返した。


「そうですね。本当にありがとうございます。もし何かあっても悠真さんといっしょに入れば守ってくれそうですね。」


「絶対とは言えないかもしれないけど、できるかぎり尽力するよ。」


玲奈の表情は最初に店に入ったときよりもかなり安心した感じになっていた。


二人とも目の前の皿の上には何も残っていなかった。


「食べる手が最後まで止まらなかったよ。」


オレはそんな感想を口にした。


「私もです。人生での一二を争う美味しいスイーツ店でした。」


玲奈もそれに共感してくれる。オレ一人ではこんなところに来ることもなかっただろうし、このきっかけを作ってくれた玲奈には感謝している。


会計を済ませて、店を出た。外は晴れており来るときの怪しい雰囲気は幾分ましになっていた。


人通りの多いところまで玲奈と一緒に送り届けたあと、オレと玲奈は別れた。


「誘ったときはまた付き合ってほしいです。」


別れ際にはそんなことを言われたので、オレは「もちろんそうするよ」と笑顔で返した。


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