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第11話 ショッピング

退屈な授業を受ける平日が終わり、とうとう土日がやってきた。ここ最近の土日は珍しくずっと誰かと遊ぶ日々が続いていたので、なんの予定もないと手持ち無沙汰になった感じがしていた。


先週の土日なんか健と遊んでとても楽しかった。ゲームで盛り上がって、その後は一緒にごはんを食べ、今どんなことをしてるのか話し合ったりした。


面白い発見もあった。なんと彼の通っている大学とオレの通っている大学は一緒だったのだ。中学では同級生だったが高校では別々になったので、大学が一緒になるというのは本当に偶然で驚いたものだ。


話もはずんで時間が早く過ぎていくようだった。でも、別れる時間がやってきて。それが惜しいような気持ちは健も同じだったようで、次またどこかで話す約束をした。


楽しい思い出に浸っていると、今の時間が空虚に感じてしまう。今日はどこかに出かけたいなと思っていたところに玲奈からメッセージが来た。


「すこし遠出をして大きい街まで一緒に買い物しに行きませんか。」


これは渡りに船だ。


そうして今、玲奈と二人で買い物に来ていた。来たはいいものの今は緊張が高まってきている。オレの人生が突然変わったあの日から初めての買い物だからだ。


オレは、玲奈と一緒に歩きながら、何を買うかを考えようとしていたが、頭の中はまだ混乱していた。目の前に並ぶショーウィンドウの中の服やアクセサリーが、以前のオレには無縁だったものばかりに見える。こんなところで何を選べばいいのか、全くわからない。


今の状況を客観視してみる。一緒に買い物に出かける女子二人。これで向かう先は乏しい想像力でも服飾関係になることは一目瞭然だった。どうしてこんな簡単なことにも気づかなかったのか、オレは自分を呪った。


「悠真さん、何か気になるものがありますか?」


玲奈が優しく問いかける。


オレは慌てて答える。


「あ、いや、まだ特に…。玲奈は何か買いたいものとかあるの?」


玲奈は少し考え込むような顔をしてから、微笑んだ。


「私は、悠真さんに似合いそうなものを一緒に選びたいんです。それが今日の目的ですから。」


「え、オレに似合いそうな…?」


オレは思わず立ち止まった。心の中で動揺が広がる。女性に自分に似合う服を選びたいなんて言われる経験がなかったから、オレの頭の情報処理能力はパンクしかけの危険信号を発していた。


玲奈は立ち止まったオレの方を見つめ、少し戸惑いながらも真剣な表情で続けた。


「ええ、せっかくの週末ですから、新しい服とか思い切って買ってみませんか?これまでの付き合いでも服装って全部同じ感じだったので、服はあまり興味はないですよね。私、全力でサポートしますよ。」


玲奈のその言葉に、少し嬉しさを感じた。あの日になってからはもちろん、普通に男だったときでもなかなか足を踏み入れられなかったファッションの世界に誘ってくれる人がいるから。しかし、ここで彼女が応援してくれるのは「女性としての自分」であって、男のオレではない。彼女の気持ちを裏切っているように感じてしまい、オレは素直に喜べなかった。


「…うん、そうだな。」


ここでもオレははっきりしない返事を曖昧に返すことしかできなかった。


「わかりました。ではいきましょう。」


だが、彼女にとってそれは肯定と捉えられたようで生き生きと店の中へオレを連れて行った。


店の中に入ると、目に飛び込んできたのは色とりどりの服が整然と並べられた光景だった。明るい照明が、女性らしい華やかな雰囲気をさらに引き立てている。オレは無意識に足を止め、周りを見渡した。


「このあたりから見てみましょうか?」


玲奈は軽やかな足取りで服が並ぶラックに近づく。


オレは心臓が少し早くなっているのを感じながら、玲奈の後を追った。目の前に広がる服の数々に圧倒されつつも、玲奈の楽しそうな様子を見ていると、少し気が楽になる。


「悠真さん、これなんてどうですか?」


玲奈が一枚のワンピースを取り出し、オレに見せてきた。


それは淡いパステルカラーで、柔らかな素材が特徴のワンピースだった。正直、自分が着る姿が全く想像できない。だが、玲奈の目は期待に満ちていて、彼女をがっかりさせたくない気持ちが強くなった。


「うん、可愛い、のかな…。」


オレはなんとか言葉を選びながら答える。


「試着してみませんか?」


玲奈は少し悪戯っぽく笑って言った。


「一度やってみると、自分の知らない側面を発見できるかもしれませんよ。」


オレは戸惑いを感じながらも、玲奈の勧めに逆らう気力がなかった。


「…わかった。試してみる。」


玲奈の顔がパッと明るくなり、オレは小さな試着室へと足を運んだ。カーテンを閉め、自分がワンピースを手にしている事実に驚きつつも、ゆっくりと服を着替え始めた。


だが鏡に映った自分の姿は直視できなかった。それはこの顔に後ろ暗い気持ちを抱いているから。男の時と全く変わらない顔。それが女の子についているなんて見ていられない。


鏡を頑なに見ないようにしながらオレは着替えを進めた。


「どうですか?」


外から玲奈の声が聞こえた。


玲奈にこの姿を見せることを考えると女らしい服に見を包んだ自分に恥ずかしさがこみ上げる。しかし、玲奈の楽しみしている姿が想像できたため、オレは覚悟を決めてカーテンを開けた。


「似合ってますよ、悠真さん。」


玲奈は満面の笑みでオレを見つめていた。


「とても素敵です。」


その言葉に、オレは少しだけ笑みを返した。玲奈は今の自分のことを素敵だと言ってくれた。これは目まぐるしい変化で気疲れしていたオレにとって、オアシスのように心を癒やしてくれた。


少しだけ、女の自分を認めてもいいのかな。


気分が良くなったオレは財布のひもが緩み、持っている紙袋にはあの服が収まっていた。安い買い物ではないはずだが、その決断に躊躇はなかった。


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