第10話 ゲームセンター
タバコ臭いにおいが鼻につく。この場所にやってくるのは何年ぶりだろうか。
オレは健に誘われて、少し駅から離れたところにあるゲームセンターに足を運んでいた。
この前バイト中に健とあったあと、ゲームセンターで近況を報告し合ったり、遊ぼうという誘いのメッセージがフェースブックに来ていたからだ。
オレは全く迷うことなくすぐさまYesと返信していた。
少し早くつきすぎてしまったようだ。今は朝の9時を少し回ったところ。開店直後のゲームセンターは人気がなく物悲しい雰囲気になっていた。
何で時間を潰そうかと思案した結果、お菓子がたくさん撮れそうな回転した床にアームを伸ばすゲームが選ばれた。
「あー、くそっ、取れない。」
長考に長考を重ね、狙いすました一振りは見事に空振りに終わった。自信があっただけに声が漏れる。
「ちょっと、考えすぎだろ。」
ッ!!
後ろから突然話かけられたことでオレの体はびくっとはねた。
全力で振り返るとそこには健がいた。
「なんだ健か。脅かすなよ。」
知らない誰かではなかったことに安堵する。だが、考えるとこの年にもなって全力でクレーンゲームに一喜一憂しているところを見られたことで、顔中が熱くなった。
「って、いつから見てたんだよ。こっちは早く着いて待ってたのに。」
「んー、何かぶらぶらと歩きだしてゲームを選んでたときからかな。」
何食わぬ顔でこいつは衝撃の発言をしやがった。
「結構、早くから来てたんかよ。だったら声かけてくれよ。」
オレは恥ずかしいところを見られたような気がして早口で健を責めた。
「すまん、すまん。お前って考えていることが読み取りやすいからさ、つい面白くなって見ちゃってたわ。」
自分がおもちゃにされていたみたいで、恥ずかしさだけでなく怒りまで湧いてきた。なんだかこいつの思い通りになるのはムカつくな。
「お前な…。」
だがそれに続く言葉は出てこなかった。このどうしようもない気分を転換するため、ゲームに100円を入れる。
「多分、次は取れるから一回やらせてくれ。」
そしてもう一度クレーンゲームに集中しようとした。
その間、何故か彼はクレーンゲームではなくずっと操作するオレのことを見つめていた。その視線が気になって手元が狂ってしまった。無駄にクレーンが空を切り、お菓子を逃してしまう。
「おい、あんまりジロジロ見るなよ。緊張するじゃん。」
オレは何も取れなかった責任を健のせいにすることで、声をかけてくれなかった怒りを沈めた。
「おー、すまんすまん、でもさ、そこを狙うのはちょっと厳しいんじゃないか?」
そんなオレの心情には興味がないのか、健はオレの横に立って、別の場所を指差した。
「ここ、もう少し右にずらしてみろよ。」
オレは健のアドバイスに少し反発したくなったが、確かにその位置の方が掴みやすそうだった。しぶしぶながら、オレはクレーンを指示された場所に移動させ、再びボタンを押した。
「うわ、取れた!」
信じられないくらいスムーズにお菓子がクレーンに引っかかり、見事にキャッチされた。オレは嬉しさに思わず笑顔がこぼれたが、すぐにそれを隠すようにして彼の方を睨んだ。
「…ちょっとは感謝しろよな、オレが教えたんだからさ。」
彼は満足げに微笑みながら言った。オレはその言葉にせっかく沈めた怒りがまた浮き上がりそうなったが、そういえば昔もこんなことがあったなと振り返り懐かしくなっていた。
こいつは昔からあまり変わっていないな。そう思えることがオレを安心させた。
「次はオレが挑戦する番だな。」
健はそう言って、別のクレーンゲームの前に立つと、軽く肩を回して準備運動をするふりをしてみせた。
「うまいんだったら、一番むずかしいのでも取れるよな。」
オレは挑発的に笑いながら、彼を煽った。
今、オレの腕には腰ぐらいの高さがあるぬいぐるみが収まっている。
自分が挑発したとはいえ、まさかこんな取るのが難しそうな大物を、数回だけで取るとは思わなかった。
「おいおい、マジかよ。これ、どうやって持って帰るんだよ?」
オレは腕に収まった巨大なぬいぐるみを見下ろしながら、少し呆れたように健に問いかけた。彼は得意げな顔をして、ぬいぐるみを指で軽くつつきながら笑った。
「ま、取れたんだから持って帰るしかないだろ?せっかくオレが取ってやったんだし、感謝してちゃんと飾っとけよ。」
「いや、飾るって…どこにだよ。これ、うちの部屋にはデカすぎるぞ。」
オレは困惑しながらも、ふと部屋の隅にある唯一の空きスペースを思い浮かべた。ぬいぐるみを置けば、部屋がさらに狭くなるのは間違いないが、それでも健が取ってくれたものを無下にするのも気が引けた。
「ま、考えとくよ。どうせお前はこういうのあんまり好きじゃないだろうし。」
健はにやりと笑い、肩をすくめた。
「よくわかってるじゃん。さて、次はどのゲームに挑戦するかだな。」
彼が周囲を見渡しながら次のターゲットを探している間、オレは少しずつぬいぐるみを腕に慣れさせるようにして抱き直した。重さに慣れると、なんだか意外と悪くない気がしてきた。
「じゃあ、次はあのシューティングゲームでもどうだ?」
彼が指さしたのは、少しレトロな見た目のシューティングゲームの筐体だった。昔から二人でよく対戦したもので、負けた方がジュースを奢るのが恒例だった。
「いいだろう。負けたら、いつものようにジュースな。」
オレは笑みを浮かべながら答え、二人でゲームの筐体に向かった。
画面に映る敵を次々と倒しながら、自然と二人の競争心が湧き上がってくる。画面の中では白熱した戦いが繰り広げられ、現実世界でも二人の掛け合いが続いた。
「やっぱりお前、下手になったんじゃないか?」
「うるさい!まだ逆転のチャンスはある!」
ぬいぐるみを傍らに置いて、オレは健とのやり取りを楽しみながら、ゲームに集中した。時間が経つにつれて、かつての友情が再び温かく蘇ってくるのを感じた。
結果は、オレの勝ちだった。健は少し悔しそうな顔をしながらも、笑顔を見せてジュースを買いに行った。オレはぬいぐるみをもう一度抱え直しながら、彼が戻ってくるのを待った。




