お手伝い終了?
終業式
「桐島さん、昨日はごめんね、あの後大丈夫だった?」
「え、あぁ…うん、ちゃんと提出できたよ…」
「そっか、なら良かった。あれ?なんか元気ないみたいだけど、どうかした?」
「そ、そんなことないよ!?大丈夫、元気抜群絶好調―!ってね」
あははと乾いた笑いをして誤魔化した。
体育館に全校生徒が集まり校長先生の長いお話しが始まる。
そんな中一樺はチラリと杜門の様子を見る。
「(昨日、変なこと言っちゃったかなぁ…)」
終業式が終わり、皆クラスに戻って行く途中、再び杜門の方を見る。
「(今、目が合った…よね?)」
だが杜門は視線を逸らし、スッと何処かに消えて行ってしまう。
∞∞∞∞∞
教室に戻った生徒達は最後のホームルームをして解散となった。
放課後一人だけになった教室で昨日のことを考えていた。
「やっぱり、ちゃんと謝りに行った方がいいよね…。怒らせちゃったわけだし…。
でもなぁ~…昨日のは気まずかったよなぁ…。ん?なんだこれ…」
足元に落ちていた物を拾う。
廊下の方で誰かの足音が聞こえてくる。
「もしかして―――」
杜門が来ると思い背筋に緊張が走る。開いていた教室のドアの方を見つめる。
そこにはーーー…。
「あれ?桐島さん?まだ残ってたんだ」
「は、ハル君…だったのかぁ」
ホッとしたような、でもどこか少し残念そうに小さく息を吐く。
「何か忘れ物でもしたの?」
「落し物しちゃって…」
善は一樺の顔をチラリと見た、一樺の顔はどこか元気がないように見えた。
「…あ!それ俺のやつ!」
「落し物ってこれのことだったんだね、見つかって良かったね」
一樺が先程拾った物を善に渡す。
「ありがとう桐島さん!これほんっとに大事にしてたやつなんだ、助かったよ!
…あの、さ。この後、何か用事とか、ある?」
「え、特にはないけど…」
「じゃあさ、これからうちの弓道部見に来ない!?」
「弓道部…」
昨日の杜門とのやりとりのことを思い出してしまう。
「でも、お邪魔しちゃうのも悪いし…」
「大丈夫!少しでいいからさ、ね?」
「う、うん、わかった…」
∞∞∞∞∞
弓道部
何人かの部員達が弓道の練習をしていた。
「…(杜門先生は…居ないみたい)」
「桐島さん!こっちこっち」
善のあとを追う一樺に先輩方が近付いてくる。
「なんだ善、彼女でも連れてきたのか?」
「っ!ち、違いますよっ…」
「へぇ~、善が彼女を連れてくるなんてな」
「だから違いますって…!」
うりうり~と善を小突き先輩方にいじられる善。
「もう!そんなんじゃないですってばー!」
「善、せっかくだから、お前の弓道見せてやったらどうだ?」
「ええ!?い、今ですか!?」
「ほら、行って来いよ」
善は射位に入る、心を澄まし、弓を引く
…パーン!
「ど、どうだった…?」
「(…先生のとは違う…)…え、ああ、うん!普段と表情も全く違うし、
弓道してるハル君、カッコ良かったよ!」
「こいつ、けっこう筋がいいんだぜ。俺らも頑張らねぇーとな!」
「ちょっ、からかわないでくださいよ~!」
∞∞∞∞∞
「今日はありがとう。ごめんね、先輩達があんなこと言って…。
あの、もし良かったら…また!弓道部に来てもらえたら嬉しいなぁ~…なんて」
「今日は楽しかった。こちらこそ、ありがとう。また修学旅行の代表で学校に来る
こともあるからその時にまた弓道見せてね!それじゃあ、部活頑張ってね」
「うん!それじゃあまた」
∞∞∞∞∞
昨夜の職員室では、終業式前日の日一樺が杜門の居る弓道場へと足を運んだ日、
杜門と佐伯だけが残っていた。
弓道を終えスーツに着替え、再び教職員として職員室に戻ってくる。
甘いコーヒーを淹れている佐伯だけがまだ職員室内に残っていた。
「あ、おかえりなさーい。桐島に会いました?」
「…あぁ」
「なんだかとっても機嫌が悪そうですねぇ…何かありましたか?」
「……何故、あいつに言ったんです」
「え?…あぁ!杜門先生が弓道場で一人弓を引いていることですか?それとも、
杜門先生の弓道の腕前の話しですか?はたまた、杜門先生が昔は優秀で凄腕だったって話ですか?」
「全てですっ!!」
バンッ!とデスクを叩き勢いよく立ち上がる。
「…えぇ、全部、僕が話しました。桐島は杜門先生の弓道を観て楽しそうにしていませんでしたか?」
淹れたコーヒーを飲みながら平然とした態度の佐伯に苛立ち、ギリッと歯を食いしばる杜門。
「余計なことを…っ!」
「そうでしょうか?前に、杜門先生の弓道を拝見した時思ったんです。力強く…だけどどこか繊細な音でした…。そして、杜門先生の引く弓は怯えている、と」
「……」
「何かを恐れているような…」
「…わかったような口を…」
「すみません、出しゃばり過ぎましたね…。…先生の弓道を観て桐島は何を感じましたかね」
「何が言いたいんです?」
「…いえ、深い意味はありませんよ」
佐伯は持っていたカップに半分ぐらい残っていたコーヒーを一気に飲み干し。
「さてと!僕はそろそろ帰りますね。お先に、お疲れ様でした~」
一人残された杜門はドカッと椅子に座り頭を抱えた。
∞∞∞∞∞
夏休みに入り、しばらくして修学旅行の説明会がある日。
「結局先生に会って謝ることできなかったなぁ。なんかモヤモヤしてるのも嫌だし…
説明会始まる前にさっと謝ってこようかな、そうしよ」
校舎の中に入り、一樺は杜門が居るであろう情報室へ向かう。
「…ふぅ(大丈夫…きっとちゃんと話を聞いてくれる!)」
一呼吸置きドアをノックする、だが返事は聞こえない。
「いる、よね…?」
ドアに手をかけると、少し開いた。
そのまま覗くようにしてそっとドアを開ける。
「失礼します…」
相変わらずパソコンで作業をしている杜門がいる。
「何をしに来た」
パソコンを挟んでの会話。
こちらに目も向けずキーボードを打つ音は止まない。
「…この間の、ことで…私、不躾なことを言って先生を怒らせてしまって…すみませんでした!」
頭を下げる。
「…そのことならもういい」
「え?」
「私も少々強く言い過ぎた。すまないが忘れてくれ」
「(もう怒ってないってこと?)」
「そんなことよりもだ。桐島に言っておくことがある。今後、私の手伝いはもうしなくていい」
「え…」
キーボードの打つ音が止む。
杜門は立ち上がり目も合わせず一樺とすれ違いドアの方へと向かう。
「言っただろう、私が良いと言う暫くの間まで、と。忘れたのか?
二度も言わせるな」
「ちょっ、待って下さい!急にっ―――!」
杜門を追うように廊下に出る一樺。
杜門は情報室の鍵を閉めスタスタと職員室へ向かう。
「先生!!」
「……」
一樺の呼びかけに杜門は振り返らず去って行った。
「そんな…」
一樺は無言で去って行く杜門の背を立ち尽くして見つめることしかできなかった。
∞∞∞∞∞
説明会のある教室へトボトボと向かい教室の中へと入ると、善がすでに座っていた。
「桐島さん、こっちこっち」
「久しぶりだね、元気にしてた?」
「ぅ、うん、まぁね。ハル君は調子どう?」
「いい感じだよ、部活も順調だし」
ガラッ
説明会の時間になり杜門が教室に入ってくる。
「皆集まっているな、それでは修学旅行の説明会を始める」
杜門による説明が始まる中、一樺は先程杜門に言われたことが気になって仕方がなかった。
「(納得いかない…急に手伝いはしなくていいなんて、そんなこと言われても…嬉しいけどさ、やっと解放されるし…でも…なんか…腑に落ちない、あ~!もう、めんどくさっ!絶対にこの間の件が理由であんなこと急に言ったんだ!“そのことならもういい”とか言ったくせに完全にそのこと引きずってるじゃん!)」
「……説明は以上だ。何か質問があるやつはいるか?」
「はい!」
「…桐島」
「人の話しを聞いてくれない人が居たらどうしたらいいでしょうか」
「話しを聞くまで話し続ければ良かろう。…他には居るか?」
一樺の質問に対して呆れながらも質問に答える。
「はい!」
「……桐島」
「それでも向き合ってくれない場合は」
「それぐらい出来ないようならクラスの代表が務まらないな。…あとはないな、以上で―――」
「はい!」
「いい加減にしろ。以上で説明会を終わりにする」
一樺の声を遮り半端強制的に説明会を終わらせ早々に教室をあとにする杜門。
「(ぐぬぬ…)」
「桐島さん…?」
「ごめん、用事あるから先に行くね、またね!」
「ま、またね…」
席を立ちあがり教室を出て急いで杜門の後を追う。
「先生!杜門先生!」
早足で廊下を歩きながら呼び掛けるが、無視をして振り向こうともしてくれない。
「(くっ!だったら…)あっ!痛い!いたーーい!!足捻っちゃったー!!足が痛いよ~!」
躓いたフリをして廊下でしゃがみ込み大きな声で言う。
目線を上にしてチラリと杜門の様子を見るが、それでも振り向かずスタスタと歩く杜門。
「(完全に無視かい!)こうなったら…!」
猛ダッシュで杜門に駆け寄りガシッと腕を掴む。
「!」
杜門は驚き思わず立ち止まり振り向く。
「はぁはぁ…、やっと、こっちを見てっ、くれましたね…」
「しつこいな」
「えぇ、自分で問題を解決しに来ましたっ…話しを聞くまで…話し続ければいいって、
教えて、くれたじゃないですか」
「…」
呼吸を整え、一樺は思っていることを吐き出すようにして話し始める。
「…私、納得できません。どうして急に手伝いはしなくていいなんて言ったんです。この間の事が引っかかってるんじゃないんですか?先生は弓道が好きだから今も携わってるんですよね?私が失礼なこと言ったのは悪いと思っています。
でも、あの時先生が弓道をしている姿は、本当にカッコ良かったんです!
その気持ちに嘘はありません!」
「…お前もか…」
「え?」
「…とにかく!お前には関係のないことだ。手伝いを継続させるかどうかは私が決めることだ。わかったな」
背を向けその場から立ち去ろうとする杜門に一樺は食らい付くように答える。
「いいえ!わかりません!」
「はぁ…聞き分けのないやつだな」
「だったら、先生がちゃんと話してくれるまで…向き合ってくれるまで、それまで私は手伝いを続けます!これからは、続ける続けないは私の好きにします!なので、今後も継続します!!それじゃ失礼します」
「おい、待て!桐島!」
話しを聞かず一樺は駆け出して去って行く。
「桐島!!」