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014

「ぁあーあーつーいー!アイスも溶けちゃったし……今年は何度まで気温が上がるんだよ…」


ニュースでは毎度のこと最大気温が何たらかんたらと報じられている。


 蝉の鳴く声、風鈴の音、垂れ落ちる汗。風流である。


 が、俺にとってはそんな風流などいらん!エアコンのリモコンの電池を買い忘れたせいで暑苦しい灼熱地獄と化した部屋でダラダラするしかないのだ。


 だーれーかーたすけてくれーーー



「おーひさー。様子見にきたよおにーちゃん!」


「お、おう………だが、お前のお兄ちゃんは今それどころではないのだ。もう、アイスと一緒に溶けてしまいそうなんだよ……いっそ溶けてしまいたい。あーつーいー」


「あーまたぐちぐちと……ほらエアコンのリモコンの電池買ってきたよ。」



「お?!ありがとぅ〜だが、お兄ちゃんはもう動けないんだ、エアコンつけてくれないか…」


 正にスライムの如くだらける悠里。これではゲームでスライムに選ばれてしまうのも無理はない。


 実際アンケートで休日の過ごし方=だらける。と答えてしまったが為に、スライムやそれに似た魔物になったというプレイヤーは数多く存在する。


「んー、だらしないなぁ。あと、作り置きのご飯とか惣菜とか色々冷蔵庫に入れておくからね」


 そう言いながら冷蔵庫に妹の莉里(りり)が持ってきたご飯や惣菜の入ったパックを次々と詰め込んで行く。


「あぁ。いつも有難な。助かるよ」


「それは言わない約束。お兄ちゃんは私がいないとほんとダメダメなんだから」


 そう言われてしまうのも無理はない。


 だって、溜め込んだ洗濯物を洗濯するのも莉里。掃除をするのも莉里。ご飯とかを作ってくれるのも莉里。


 一人暮らしをしているのに関わらず家事の殆どを莉里が行っているという状況なのだ。


「あぁ、ほんとありがとな。」


 撫でて欲しいのか頭をこちらに突き出す莉里にしょうがないなぁ、とぽふぽふと撫でてやる。


「むふー。」


 わんちゃんみたいだな。見えない尻尾をふりふりしている様にしか見えない。


「あ、2日前からEMO始めたんだけど、そういえば莉里もやってたよな?」


「ん?そだよー。あー!!それだよそれ!!今日言おうと思ってたんだ!お兄ちゃんゲーム始めて何処をほっつき歩いてたのさ!」


 なんだかぷんぷんに怒ってる妹。何をそんなにキレてるのか全く分からん。


「いやー、EMOって難しいゲームだよなぁ。初心者にはきついぜあれは。」


「んー?え?EMOは始めてから2日3日はメインクエストに拘束されるから初心者も何もないと思うんだけど……」


「へ??翼にも言われたけどメインクエストって何?」


「え?」


 やばい。全く話が噛み合ってない。


 まずはメインクエストだよな。俺がプレイしている時はそんなの全く出てこなかったんだけど……


「メインクエストは全対象のプレイヤーに与えられるチュートリアルで、そこから始まるストーリーやらサブクエストやらの原点なんだよ??まさかやってないとかは…」


「あははー。始めて直ぐに死んじゃったから分かんないや」


 まさかの初めて直ぐに湖に落ちて死ぬとは思わなかったもので、それがメインクエスト受注に関係するとは思いもしなかったのだ。


「お、お兄ちゃん。わ、私よりも幸薄な匂いがしてるよ……おいたわしやお兄ちゃん」


「や、辞めてくれ。お前にまで慰められるとお兄ちゃん流石に泣いてしまいそうだ」


 メインクエストが何かは知らないが、もしかすると俺はとんでもなく枠を外れたプレイをしているのかもしれない。


「そりゃ通常プレイに差し支えないかも死んないけど、転生とか、第二ジョブ開眼とかはメインクエストを進めないと出来ないシステムなんだよ??」

「その、転生とか、第二ジョブって…」

「実質一生できないってなったら他のプレイヤーとの差が……」

「うっ……」

「そのうち黒瀬さんとかともプレイできなくなって……」

「うぅっ……」

「お兄ちゃん……」



 やばい。そんなに重要クエストを何故受けさせてくれなかったんだ!EMO、のGMめ!今度メッセージを送れる時は覚えとけよ!


「おいたわしや……まぁ、大丈夫だよ!多分だけど……元気出してお兄ちゃん!」


「うん……」


 なんか、慰められてばっかりだな……兄の威厳が全く無いぞ?もう少し努力した方がいいかも知れん。


「ぼっちになっても私がいるからね!お兄ちゃん!」


「そ、それが一番辛いよ。」


 まぁ、家族思いってことでいいのかな。


 おっと、そろそろゲーム始めようかな。いい頃合いだろう。


 大学のレポートはないのって?そんなもん知るか。後でやればよかろうなのだ!よし!準備おーけー!スイッチオンでスタート!!









「か、勝手に行っちゃったよ……もう。お兄ちゃんがなんのキャラになったかも聞いてないのにぃ……」


 と、莉里は莉里で愚痴っていた。


 そもそも妹が掃除やら洗濯やらの家事をしている時にゲームを始めるのはどうなのだろうか。


「むぅ、ゲーム内で会ったら脅かしてやるんだから」


全く気にしていなかった。


 長年兄妹やっているからこれが結城兄妹なのだろう。


「よし、ログインっと…」


少しずつ、少しずつ物語は始まっていくのだ。


 これは彼らの物語のほんの序章に過ぎない。









『ちゅちゅ!(今回はまだ続くのだ)』


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