009
それはとある城の中。
歪に捻じ曲がった暗闇が満ちた世界。
それは正に、悪の提唱。
ゲーム内ランキング2位保持者にして、
ユニーククエスト≪悪なる提唱 悪魔篇≫
発言者リリ。
悪魔神リリスを保有するサーバートップランカーである。
因みに悪魔神リリスはサーバー内で一体しかいない、古龍と同じく超超超レアな悪霊である。
「ふふふ………遂に、遂にこの時がキタ」
ぬいぐるみを手に抱いたツインテールの少女。
絵に描いたような美少女がこのゲーム内のユニーククエスト進行者、推定2位のリリである。
「おめでと。リリ。今日なんだっけ?」
「そう!そうナノ!まさか、こんな時間になるなんて考えもしなかったんだけどネ」
何やら喜び勇んでいる様だ。何が"今日"なのだろう。もう少し覗いてみよう。
「人生で遊びの二文字はない様な人だから、あり得ないと思っていたんだけど、今日、遂にっ………」
何をそんなに喜ぶことがあるのだろうか。
次の言葉で答えが出た。
「お兄ちゃんがこのゲームをプレイしてるなんて!!早く会いに行かないとネ!」
「くれぐれも暴走しすぎない様お願いしますね。リリは幸薄なくせして暴走癖みたいなものがありますから」
「む……そんなのないもん。あるとしたらリリスにも問題あるもん!」
なんだか、子供っぽい言動が目立つ少女である。
ちょっと抜けていやしないだろうか。
「え?例えばどんなところです?」
「えとえと……ほら、私は魔物なんて倒せないのに無理矢理戦わせようとしたり」
それは例えば、スライムと戦う時にデザインが可愛くて倒せなかったり、ゴブリンと戦う時は逆にデザインが気持ち悪くて近づけすらしなかったりと散々だった。
「いやいや、魔王が魔物一匹倒せなくてどうしますか。」
そう。彼女は何気に魔王なのだ。ちゃんと部下も城も持っているし、統治している領地もあって、迎え撃つべき勇者も時々やってくる。
「勝手に他のプレイヤーに話しかけて仲を取り持とうとしたり」
「それは、こちらの陣営に組み込まれたいと言って下さった方を………あぁ、リリははコミュ障ですからね。そこの所は配慮しなくてはなりませんか」
「む、む!私コミュ障じゃないもん。ちょっと友達付き合いが悪くてゲームばっかやってるだけだもん」
「そう言う所を言ってるのですよ。はぁ……この役目誰か変わってくれませんかね」
「聞いてる??ねぇ!本当に違うんだからね!!」
それは、とある街の事。
スライムが次の街を目指している頃、スライムの居場所を聞き付けた忍者?の様な暗黒騎士が静かに揺蕩う。
「ふふ、ツバサに聞いたけど、来たのね」
見えているはずがない。
煙突にぶら下がり、遥か遠く、距離にして百キロは離れている一点のみをずっと見ていた。
現在そこにいるのは、確かにスライム、ツバサ、ピオの一行だった。
そのことから見ても只者ではないことが分かる。
「けど、本当にラッキーだったわ。たまたま見た掲示板に変なスライムを見つけたってなかったらそれが、ユウだなんて分かる訳なかったもの。それに……ふふふ」
それに、大冒険してるユウの事だ。何があってもおかしくない。
Pkされて止めるなんてことになったら彼女?にとってショックで立ち直れないかもしれないのだ。
「私があの中に入れるのは何時ごろかしら。それまでは無粋な輩を排除する事に専念しましょうか。ふふふふふふふ」
怖い。怖すぎる。周囲の人が見たら卒倒するであろう光景を残して時間は過ぎていく。
それは、とある道の事。
「いや、とある道っていうか、第二の街へ通ずる道だけど…」
そう呟いたのは、ユウである。だが、途中で区切ったのは訳があった。それは………
遠く!地平線に見えるモンスターの群れ、スタンピートでも起こしてるんじゃないかというくらいの大群を率いて、とある少女がこちらへめがけてやってきたのだ。
「は?おいおい、MPKじゃないだろうな?」
モンスタープレイヤーキラー。通称MPK。モンスターのタゲをとりまくって道中にいる人に押し付けPKする行為だ。
このゲームはMPK、PK、何方も共に可能である為偶に迷惑な人がいるのだ。
「ダァああすけテェええええ!くだーさーぁい!」
「だすけてになってるし。まぁ、数100体くらいなら練習にちょうど良いかな。
≪ファーストバレット≫」
ツバサのAk-47が火を噴いた。1発の銃弾が強すぎるからかワンショットで5キル以上を稼ぐこともあった。
うぅ、俺も倒してみたい……けど、我慢我慢。
敵は全てゴブリン。鑑定で見ても、ゴブリン、ゴブリンファイター、ゴブリンソルジャー、ゴブリンナイト、ゴブリンシャーマン、ゴブリンメイジ、ゴブリンヒーラーとゴブリン尽くしだった。
「≪セカンドバレット≫」
今度は威力が上がった単体攻撃。雑魚敵がほぼ倒された後ではもう数の暴力は通用しなかった。
ゴブリンもツバサが脅威だと分かっているからかツバサの方に詰め寄る。そして、詰め寄ったゴブリンはヘッドショットで殺されていく。
「≪サードバレット≫」
ザードバレットでは3発を一度に出す攻撃?みたいだ。よくわからないけど強そう。
「≪サークルバレット≫」
最後は翼を中心とした円形に銃弾をばら撒き掃射した。
「ツバサつよー」
完全に俺がお荷物になっていた。ツバサが強すぎるんだもの仕方ないよね!
「今はこれで良いけど、このゴブリン達吸ったらちょっとは戦える様になってくれよ?俺もユウを守りながら闘うのはきついし」
「あ、そうだよね。よいしょっと」
と、四方八方に転がったゴブリンの死体を吸い込んでいく。
『プレイヤーユウがゴブリンを吸収しました。
スキル吸収がゴブリンファイター、ゴブリンソルジャー、ゴブリンナイト、ゴブリンシャーマン、ゴブリンメイジ、ゴブリンヒーラーを吸収しました。
100体以上の吸収なので、R以下を肥やしとして吸収いたしました。
スキル吸収のレベルが2に上がりました。
ゴブリンファイターから拳術(Lv.1)を吸収しました。
ゴブリンソルジャーから剣術(Lv.1)を取得しました。
ゴブリンナイトから剣術(Lv.1)を取得したので、剣術のレベルがLv.2に上がりました。
ゴブリンシャーマンから火魔法(Lv.1)を取得しました。
ゴブリンメイジから火魔法(Lv.1)を取得したので、火魔法のレベルがLv.2に上がりました。
ゴブリンヒーラーから回復魔法(Lv.1)を取得しました。
ドロップ
⚠︎R以下を自動的に肥やしとしています。
ゴブリンファイター R Atk+145
ゴブリンナイト SR Atk+211
ゴブリンシャーマン R INT+123
ゴブリンメイジ R INT+145
ゴブリンヒーラー SR INT+215』
あれ?ちょっと強くなったかも!
「なぁ、案外スライムも強いんじゃないかと思い始めてる俺がいるんだが……」
「いや、ツバサと合流する前は死にまくってたんだからね?ほんとだよ?」
通算102回もの死は実に効いた。今日は涙で枕を濡らすかもしれない。
「スライムは大器晩成型じゃからの。初めから強キャラとはいかんのじゃ」
「へぇー、物知りなんだねピオ」
「当たり前じゃ。儂はこれでも2000年は生きとるからの」
随分とご長寿な物だ。ファンタジーだからこそかな?
「あ、ありがとうございました!助かりました。ええと……」
「あぁ、俺はツバサ。こっちのスライムがユウで、こっちの赤髪の人が古龍のピオ」
「よろしくねー。」
「儂は別によろしくしないけどな」
つっけんどんな態度だなぁ。ただ、突き放した態度の割には大分打ち解けてきた様にも思えるから不思議だ。
「私は常代若菜です。このゲームってどうやったら終われるんですか?」
あ、ガチの初心者だ。そして、情弱なのかネットリテラシーも欠いている。俺以上の初心者かもしれない。
「あの、ゲームじゃ本名とか出さないほうが良いですよ。誰かに教えてもらわなかったですか?」
「えーっと、そうなんですか?ごめんなさい。そういうのに疎くて……このゲームを始めたのだって勉強の息抜き程度にしか考えて無かったし……うぅ……」
なんかこの子見てると実家で飼ってるペットの亀を思い出すなぁ。のそのそしてる感じが正にそうだ。まだ生きてるかなあの亀。
「ログアウトはメニュー表示して、プロフィールの下の扉のボタンを押せばログアウトできますよ。」
「あ、本当だ。ありがとうございます!またどこかでお会いしたら、ちゃんとしたお礼させてくださいね…」
「気にしなくて良いですよ。そのくらい。それよりお疲れ様でした。今度からはリテラシーとかちゃんと勉強してきた方が良いですよ身を守るためにも」
「はい。では、私はこの辺で」
「乙ー」「おつかれー」「乙じゃの」とそれぞれに挨拶して常代さんとは別れた。
なんだか不思議な人だったなぁ。会話は全部ツバサに任せてたけどね。
「それじゃもう良い頃合いだし俺達も落ちるか…」
「そうだね。もう2時だし。いつもなら完全に寝てる時間帯だ。」
よく眠気もなしにここまでゲームをプレイできたものだ。それだけゲームが楽しいのかもしれない。
「じゃ、乙ー」
「おつおつー」
これでピオと俺だけになってしまった。そろそろ俺も眠いし寝ようかな。明日は講義がないから自由にゲームをプレイできるし。
「じゃ、ピオちゃんも。おつ」
「うむ。乙じゃ」
「ちゅ」
「……………」プイッ
「ちゅちゅ!!」
「……………」プイッ
「ちゅちゅちゅ!」
「言わんからな!ねず公にだけは乙とはいわんからなぁああ!!」
信じれます?ここまできて1日しか時間経過してないんですよ?どんだけ濃い時間を過ごしているんでしょうか彼らは………