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坂道を駆け抜けたら……?

作者: エクサ

久々に小説書きましたー

「坂道を駆け抜けたら気持ちいいんだよ!」

 高校の昼休みの教室の机でスマホをいじっていた俺に、制服の女子生徒は嬉々として自分に言った。

 彼女は俺の幼馴染みで、同時に陸上部で常に成績上位。

 長い黒い髪をポニーテールに結わえ、目鼻が整った顔立ちで陸上部のエースと相まって、校内ではアイドルさながらの人気だった。

 そんな彼女の言うことがよく分からなかった。陸上部特有のものだろうか。

「どうしてそんなこと言うんだ?」

 すると幼馴染みはズバリと言って俺に指差す。

「いつも運動していないでしょ? だから身体を動かした方が良いのよ!」

 どや顔で言う彼女。

 俺は確かに運動なんか皆無の生活を送っている。

 なんだか幼馴染みのことは無視できない。

 しかし、坂道を駆けていくことがなぜ気持ち良いのかが理解できない。

「どうしてさ。なんで坂道を駆け抜けたら気持ちいいんだい?」

「うーん……そうだねぇ」

 幼馴染みは顎の下に拳を当てて思案顔になる。シンキングする度にポニーテールがゆらっと揺れていた。その姿が、綺麗だったので自分は少しドキッとした。

 そして彼女は思い付いたらしく笑みを浮かべながらこう答える。

「限界を出して走るとね、それまで辛ぁいと思う気持ちが、ばぁーって晴れるんだよ!」

 両手を上げて上下に動かす彼女の目はキラキラしていた。彼女の言葉は本当かどうかは分からないけど、あの目は俺に坂道を駆け抜けることを実行に移させるには、実に効果的だった。

「分かった。やってみるよ」

「うん! 是非やってみて。楽しいから」

 満面の笑みを浮かべる幼馴染みに、俺はいつも通学中に見ている坂を思い出した。

 あそこの坂でチャレンジしてみるか。


 放課後。

 夕日に照らされて赤く染まる学校帰り。挑戦しようとしている坂道に自分はその入り口に立っていた。

 見たところ斜面のキツそうな坂になっていて、そこから見える空がやけに広く見える。ビー玉を転がせばたちまち下まで猛烈なスピードで転がり落ちることだろう。

 上るならともかく、走るとなると大変そうだ。

 キツそうだな……今日は帰って明日にするか。

 少し弱気になり、諦めが芽生えたとき、俺は幼馴染みの言葉を思い出す。

『坂道を駆け抜けたら気持ちいいんだよ!』

 やってみるか。

 もしかしたら幼馴染みの事だとチョロいのか、俺。

 微妙な気持ちを抱いてしまった。

 とりあえず軽く準備運動を、特にアキレス腱をよく伸ばす。この部分をしっかりと伸ばしておかないと切れてしまって日常生活に支障をきたす。

 よし、これで良いだろう。

 準備運動を終えた俺は坂道へと、――だだだだ! と駆けていく。

「うっ……!」

 しかし足に急激なテンションが掛かり、重さと共に疲労感がじわじわと脚に襲われる。

 やけに坂道が長く感じられた。

 こういうことなら体力を付けとくんだった……

 だが、意識を繋ぎ止めていたのは、幼馴染みの顔。

 それだけで、頑張れた。

 足を動かせた。

 それからぜぇぜぇと、息を切らしながらもどうにか坂道を走りきることができた。もうへとへとだった。

 んはーっ! と息を吐いてから振り返ると、

「…………!」


 そこには夕日に照らされる街の姿があった。


 普段見ている景色は夕日の明かりに照らされて、茜色と漆黒のコントラストに彩られ、ビルや家屋のガラス窓が光を反射してキラキラとしている。

 まるで一枚の絵画のようで美しかった。

 それがとても綺麗で、彼女の言葉を思い出す。


『限界を出して走るとね、それまで辛ぁいと思う気持ちが、ばぁーって晴れるんだよ』

『坂道を駆け抜けたら気持ちいいんだよ!』


 そうか。

 確かにそうかもしれない。

 俺は今、すごく疲れているはずなのに、一歩も歩けないほどに体力を使ったはずなのに……

 えもいわれぬ気持ちよさに驚いていた。

 それは目的を達成したという『充実感』なのだろう。きっと。

 明日彼女にお礼を言おう。

 気持ちの良い疲労感を感じながら沈み行く夕日を見ながら、そう思ったのだった。           

                       終

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