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自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第164集(2024年02月)/テーマ 「血」
9/26

04 らてぃあ 著 『疑惑の手紙』

<概要>

「俺」と問題のある父親を持つ友人の話


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「恋人」

 うつくしい思い出はまだ貴男の中にあるのでしょうか。

 そばにいられなくても貴男の血のつながった娘さえいてくれれば幸せだとおもい生きてきました。しかし私の命はついに死病に侵され春を見ることなく つきることになりそうです。心残りは娘のことです。

 いとしい娘はまだ子供です。かつての私のように世間の嘘と欺瞞に流されて惨めな一生を送るのかと思うといてもたってもおられず誓いを破りました。

 ご迷惑は重々承知しています。私自身は地獄に落ちようとも娘の幸せを祈ります。

 面目を潰すことになるかもしれませんが、貴男の親切さと賢さを頼ります。

 娘の支えになってあげてください。父親としてではなく親切な友人としてお怒りはもっともです。

 ただ病の床で親切だった貴男のことを思い出してばかりいます。

 すきだと言ってくれた時にどうして私は貴男の手を取れなかったのでしょう。

 けいはくな想像はやめましょう。

 テレビドラマのようなハッピーエンドは私には望めません。

 横のものを縦にするような聡明な貴男なら私の意図に気付いてくれると信じています。


「で、この手紙は親父さんに見せたのか?」

 俺は友人の携帯に保存された画像の手紙を読み終えると持ち主を振り返った。友人は大学の講義室の机に同化してしまいそうなほど突っ伏して落ち込んでいる。休講のため空いた広い講義室には暇な学生がつかの間の惰眠をむさぼっていたりおしゃべりを楽しんだりしている。和やかな風景なのに友人の周囲だけは極寒の吹雪の夜のように暗い。

「うん、女の子が家を訪ねて来て僕の腹違いの妹だって言って手紙を見せられた。どういうことだって、親父のメルアドに女の子から聞いた母親の名前と知りあった経緯を書いて送ったら、手紙を撮影して送れって返事が来たから携帯で撮影したんだ」

「で、親父さんの返事は?」

「『娘の世話をよろしく』」

「・・・」

 何と声を掛けたらいいかと迷っているうちに友人はわなわなと震え出した。

「いい加減でいい年して海外を放浪するような親父だけど、女関係はきれいだとお信じていたのに、俺の電話もメールもまるっと無視して言い訳すらしないなんて、見損なった。今度こそ親子の縁を切ってやる」

「落ち着け、残念だかお前が騒ぐほど親父さんは面白がるぞ」

「しかし、隠し子なんて洒落にならないよ。例え知らなかったとしても浮気したんだから。そりゃあ、手紙の主は美人だったけど」

「写真を見せてもらったの?」

「うん。女の子の小さい頃から最近まで、親父は悪いけど、女の子、妹には罪はないし。まだ中学生だし、良い子だし」

 どうやら昨日、随分「妹」と仲良くなってしまったらしい。

 一瞬、黙って居たほうがいいかもしれないと思ったが、この様子では毎日愚痴に付き合わされるとわかっていたので俺は真実を告げることにした。

「この手紙、おかしいと思わないか? 改行は無茶苦茶、変なところで平仮名を使う」

「漢字が苦手だったんじゃないかな」

「それは違う。「欺瞞」を漢字で書いているだろ。それに最後に付け足された文章にヒントがある」

「面倒臭がりって意味だっけ?」

「それは『縦のものを横にもしない』だよ。それに『横のものを縦にする』ならは聡明とは言わない。外国語を日本語に翻訳することだ。敢えてそう書いて「文章を縦に読め」と言ったのさ」

友人に携帯の画面を差し出す。

「うそおついてご、」

 嘘をついてごめん娘を助けて、

「何でこんな面倒ことを」

「つまり、母親は娘に父親について何も教えなかった。教えて娘が実の父親に会いに行くことを絶対に阻止したかった。そのためにはどうすればいいか? 別の無害な人間を父親に仕立てることだよ。こっそり調べてみるといい。かなり問題のある人物だろう」


 後日、友人の調査により女の子の実の父親が判明した。DVどころか一方的な暴力で事件を起こして服役中だった。多数の悪い仲間もいたため件の女性は娘を連れて長い間逃亡生活をしていたらしい。友人も「妹」を守ることを固く誓いその父親の存在を抹消することに決めた。その後、複数の大学仲間によって友人と「妹」が楽しそうに買い物する姿が目撃され、ロリコン疑惑が浮上している。俺はそれを友人に告げるべきか迷っている。


               了

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