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自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第163集(2024年01月)/テーマ 「歌」
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03 紅之蘭 著『ローマ執政官マリウス』

〈梗概〉

ハンニバル戦争の後、たるみ切ったローマ軍を建て直したのは、破天荒なマリウス執政官だった。


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「ローマ執政官マリウス」

 古代ローマの地方都市アルピヌム市(現アルピーノ)郊外、ケレアタエ村だ。

 悪童一党が豚を、袋小路の岩場に追い込んで尻の肉をナイフで切り取り、切り取り終えると湿布を貼って放ってやる。悪童どもは、悲鳴を上げながら豚が走り去るのを見て嘲笑し、見えなくなったところで、焚火で肉をあぶって食らう。

 ガキ大将のマリウスは、騎士階級だったが同階級の子供とは遊ばず、もっぱら最下層階級の子供達と遊んだ。

 子分の一人が、

「マリウス兄貴、俺、大人になったら兵隊になって、手柄を立てて、辺境に土地を手に入れたい」

 肉を食らいながら横で聞いていた悪友の一人が、

「馬鹿だな、マリウス兄貴なら戦場に行けるけど、おまえや俺は兵士になれねえんだ。まずは、ローマの市民権をとらなきゃ駄目なんだ」

「なら、ローマ市民になる」

「口で言うほど簡単じゃねえ」

 マリウスは、黙って肉に食らいついた。

 騎士の子・マリウスは、他の上級国民子弟が当然のように学ぶ、ギリシャの古典といった教養に興味を示さなかった。

 家庭教師をひっぱたいて寄せ付けない、粗野な息子を見かねた両親が叱責すると、少年は、

「文字を読み書きする程度、計算ができる程度あれば十分だ」

 青年になったマリウスは兵士となって、アルプス山脈を越えてローマに襲い掛かって来たカルタゴのハンニバル将軍との戦争〈ハンニバル戦争〉に従軍。めきめきと頭角を現し、マリウスは、ローマ共和国屈指の貴族ユリウス家一門から妻を娶り、足場を固める。――ユリウス家からは、後の英雄カエサルや、カエサルの甥で養子となり初代ローマ皇帝オクタビアヌスを輩出している。

 戦後は、最高司令官である執政官の座に就く。

 時が流れた。


                    *


 ローマ共和国本土(現イタリア)のローマ人は一・五メートル前後だ。対する北辺ゲルマニア(現ドイツ)の蛮族ゲルマン人は二メートル前後の長身で、そこよりやや南に寄ったガリア(現フランス)のガリア人は、ゲルマン人ほどではないがやはり長身だ。恐らくは一・七、八メートルくらいはあったのだろう。体格差は歴然としている。ゲルマン人やガリア人が侵攻してくると、迎撃に出たローマ兵はパニックに陥った。


 ――巨人か!――


 ローマが、かのポエニ戦争で、カルタゴを滅ぼし、地中海の覇権を奪い取った。ローマ軍は有事になって初めて市民層から徴兵するものだから、初動のコスパが悪く、長期戦の前半は連戦連敗で、後半に巻き返すといったことを繰り返す。ローマの奥深くまで侵入してくる巨体の蛮族・ゲルマン人に対しても同じことになる。――そんなとき、ローマに敵対したヌミディア王国を破った総司令官マリウスが、首都ローマに帰って来た。


 古代ローマにおいて、方面軍最高司令官・総督が敵王を捕らえると、首都に移送して牢屋に放り込み、凱旋式に合わせて処刑する。

 紀元前一〇四年、マリウス執政官は、捕虜にしたアフリカ・ヌミディア(現アルジェリア)のユグルタ王を素っ裸にして、両耳の耳飾りを引きちぎり、牢屋に放り込んでいたのを引きずり出して処刑し、ローマ臣民を熱狂させ、凱旋式典に彩を添えた。


「ローマの初動の悪さは有事の度に、上・中級国民ばかりをかき集める徴兵制の問題にある。下級国民も兵士に加える募兵制を採用し、平時にも軍団をキープできる常備軍を設立しなくてはならない。職業軍人からなる常備軍でなければ、あの蛮族巨人ゲルマンを撃退できない」

 マリウス執政官は、元老院議員の前で、ローマ広場(フォロ=ロマーノ)の聴衆の前で、熱弁を奮い説得。ついに念願の軍制改革を断行する。結果、これまでバラバラだった各軍団の組織と構成が一元化される。


 最小単位の分隊八名を集めて百人隊八十名、六個百人隊で歩兵大隊四百八十名、十個歩兵大隊で一個歩兵軍団四千八百名を編成する。――百人隊は基礎となる方陣をなし、大隊・軍団は、状況に合わせて百人隊の陣形を変えてゆく。


                    *


 二年後の紀元前一〇二年、ゲルマン人のアンブロネス族とチュートン族が、ガリア南部にあるローマ共和国属州に侵攻した、迎撃に出たローマ共和国のマリウス執政官は、八個軍団四万人を率いてロレーヌ川まで進軍すると、アクアエ・セクスティアエのなだらかな丘陵部に、野営地となる陣城を築き、ゲルマン人連合軍を待つ。


 やがて、ゲルマン人連合軍が陣城にたどり着いた。

 ゲルマン人十二万の軍勢は、横列陣形を五段に構えて大方陣を組み、丘の上の陣城に対峙する。


 ゲルマン人の恐ろしさを伝え聞いているローマ兵達はビビりまくっていた。

 三倍もの数がいるゲルマン人は、鳴り物を鳴らし、雄叫びを上げて、堅固な陣城に籠るローマ人を挑発したが、老練な執政官は挑発に乗って出撃して来ようとはしない。――そうしてローマ人たちは、ゲルマン人の威嚇に馴れていった。


 ――機は熟した――


 ゲルマン人十二万の軍勢は、三方を囲んだ丘陵部の窪地にいる。

 ローマ軍陣城からは、左右の丘陵部後方を迂回して、それぞれ二個軍団が回り込み、緩斜面を一気に駆け下って、敵の脇腹を突く。両翼の動きに呼応して、残る陣城の本隊四個軍団も駆け下って、三方から攻め立てた。


 十二万からなるゲルマン人達の大方陣には致命的な弱点があった。大方陣にあって直接戦えるのは、敵と接触した縁辺のみで、中央部で待機している大半の兵士は遊兵になってしまう。結果として、ローマ軍とゲルマン連合軍との兵力差が逆転することになる。こうして、ゲルマン連合軍は大敗を喫し潰走した。


 ローマ軍は凱歌を上げた。


 戦いが終わると、辺境で蛮族を追い払った兵士達には、不平が出ないように土地を分配する。マリウスが兵士に抜擢した最下層民出自の兵士達は大いに満足である。


 だが、このやり方には大きな弊害がある。マリウス執政官に学んだローマの将軍達は、戦の駆け引きや土地分配を上手くやった。そうして、国家よりも将軍達に忠誠を誓う軍閥が形成されてゆく。――やがて、マリウスの妻方甥であるカエサルが台頭すると軍閥を形成し、ローマ共和国の実権を握り、カエサルの養子・オクタビアヌスは、ローマの共和制を廃止し、帝政に改めるようになるのだから。


                              了

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