表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第168集(2024年06月)/テーマ 「夏至」
23/26

02 柳橋美湖 『アッシャー冒険商会 21』

〈梗概〉

 大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇オムニバス。――ロデリック氏の守護神の件。


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「女神」

~みんな大好きミュシャ風♫



    21 夏至


 ――アラン・ポオの日記――


 街道で馬を並べるロデリック様が私に仰いました。

「アッシャー荘のあるマサチューセッツ植民地奥地の山岳地帯には、部族間抗争で今は滅びてしまった原住民の遺跡がいくつか点在する。そういう遺跡の一つにコモリオムがある」

「して旦那様、コモリオムとはどのような遺跡ですかな?」

「百聞は一見にしかず」

 ――エイボンの書。

「アラン、エイボンというのはだね、古代の魔法使いで、異世界〈ハイバーボリア〉からやって来んだ。この人の著作は一大魔導書で、キリスト教がローマ帝国国教となると、禁書に認定された。そしてこの本には、彼が我々の世界にやって来たときに使用した、ゲートが記されている」

「長年の御研究で、ついにコモリウムの場所を突き止められたのですね?」

「そういうことだよ。見たまえ、アラン――」

 ロデリック様は、新旧両大陸にご領地をお持ちのアッシャー男爵家のお世継ぎです。魔法貴族であらせられる御父君の男爵様は、旧大陸では昨今、革命やら戦争やらがあって物騒なため、男爵様は思い切って、ロデリック様を新大陸のご領地へおやりになったのです。

 長身細身・金髪。見た目は学生のように若々しいのですが、奥様とご子息がいらっしゃいます。

 ひらりと馬を降りたロデリック様は、鞍に積んだ鞄から古書を取り出すと、パラパラとめくり、付箋の付いた頁で止めました。模様のような挿絵があります。

「一見すると幾何学文様のようだが、これは地図だ」

 旦那様が指をさしたのは、深い森のただ中にある禿げ山の頂でした。

 途中の木に馬を繋ぎ、二人で登って行くこと小一時間で頂きにたどり着きました。そこには風化した花崗岩の石柱が二本立っておりました。


 ――夏至・六時六分六十秒。石柱の合間から射し込む陽光が指し示す場所に、魔法陣を描き、術式詠唱すべし。


 つまりは翌日の明け方です。一度我々は馬のところまで戻って野宿し、早朝になって再度、その場所を訪れたのでした。

 石の狭間から陽光が、地面を線状に伸びて行きます。旦那様は、それが止まったところビスを打ち込みました。

 魔法陣は、まず、ビスを地面に打ち込んで円を描き、内部に幾何学文様を加え、さらに古代文字を書き込んでいったものです。

 旦那様は、魔法陣が完成したところで、エイボンの書にある術式を詠唱し始めました。


 ――そして異世界へのゲートが開かれた――


 ……のはずでした。

 ところが、ゲートが現れるはずの場所には、それではなく、けだるそうな表情を浮かべた、美女が横たわっていたのです。

「ロデリックと申します。――あなた様は?」

「私はツァトグゥア。滅びし異世界の女神じゃ」

「ザトゥー? では、異世界|〈ハイバーボリア〉はもうないと?」

「ツァトグゥアじゃ。まあよい、そなたらの世界の人間には発音はできぬようじゃし――。繰り返し言うが、ハイバーボリアは滅びた」

「滅びの要因は邪神によるものでしょうか?」


 女神様はあくびをなさりながら、気のない感じで、

「ハバーボリアに小惑星が落ちて、地表が火だるまになった。幸い、魔法使いザイラックが地球を発見していたので、その係累、エイボンとその弟子サイロンらが、転移していったわい」

「そうでしたか、残念です。――お休みのところを失礼いたしました」

 旦那様がそうおっしゃると、女神様は少し慌てて、

「召喚させられて、はいさようならでは、女神の顔に泥を塗るようなものじゃ」

「それは大変申し訳ございません。ではどのように?」

「汝の守護神となってやろうぞ」

 ロデリック様が正直に、

 ――守護神、間に合っています。

 と言わんばかりだったので、私は袖を引っ張る。――危ない危ない、異世界の上位神を召喚したうえに、すげなく返す不敬を冒し、祟られるなんてご免だ。


 こうして善神・邪神定かでない女神様をアッシャー荘へお連れし、お祀りすることがになった。

 坊ちゃまとご一緒、にエントランスルームで出迎えたマデライン奥様は、女神・ザトゥー様と視線が合うなり、激しく嫉妬なさったのですが、かの方のお怒りは、当家の危機にもつながりかねないので、私からも念入りにフォローを入れた次第です。


 女神様は碧眼金髪で、美しも尖った耳が特徴的でした。

 エイボンの書の注釈に小さく女神ザトゥーの二つ名は、〝怠惰の女神〟とありました。

「苦しゅうない、アッシャー夫妻よ。脚を揉め、それが終わったら、グラスにワインなど注げ」

 ソファーで寝そべりながら女神様はけだるそうに、そうお命じになられました。


 了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻に。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ