表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第163集(2024年01月)/テーマ 「歌」
2/26

01 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文:01』

【概要】

 新大陸エルフ文明〈廃都〉遺跡での事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒のブレイヤー博士に新たな勅命が下る一方で、新たな事件に巻き込まれる『エルフ文明の暗号文』(ヒスカラ王国の晩鐘 48/エルフ文明の暗号文 01)


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「シムーン機」

     01 歌


 ――とある操縦士視点――


 王国歴一〇三五年十二月二十九日、午前七時、雨。新大陸シルハ副王領副王府が置かれたにあるディーテ市、そこを一機の郵便機が飛び立った。操縦士である自分、バティスト・ロジェが乗る郵便機はもともと、旧大陸で行われた大戦に使用された爆撃機を武装解除して民間に払い下げたものだ。だが、副王府上空には、いまだに、敵航空機による攻撃から守る阻塞気球そさいききゅうが覆っていた。

 やがて同機は、ステージェ地中海に至った。ステージェ地中海は、セレンディブ、タプロバネ、シルハからなる三つの新大陸に囲まれている。――この地中海には、かつてエルフ文明があったようだが、すでに滅びている。その点で無駄な戦争をしなくても済むのはありがたい。


 その郵便機は、単発・単葉低翼・複座となっている。単発はプロペラ・エンジン一基を搭載しただけのもので、主翼仕様。他方、複座は、操縦席に二人以上乗れることを意味している。


郵便機は、シルハを発ち、地中海を夜間飛行横断して、セレンディブを経由、タプロバネに向かう予定だ。

 後部席にいる相棒の整備士ロブレが、伝声管で声をかけてきた。

「バティスト、いま、どのあたりだね?」

「そろそろセレンディブ大陸が見えてくるはずだ」

「しっかし、ひでえ雲海だな、暗闇でどこを飛んでいるのかさっぱり判りやしねえ」

雲と霧とで月が隠れてしまっていた。当時の飛行機に無線機がついていないということはよくあった。――ゆえに地図とコンパス、それから眼下の風景だけで現在地を判断したものだ。――郵便機は雲海から脱出するため高度を下げた。だが高度が下がり過ぎて機体は砂丘の一つに接触、固定式になった離着陸用の車輪が吹っ飛んだ。機体はそこから胴体着陸で滑走し止まった。幸い、搭乗員である我々二人は無事だったのだが、プロペラがヘシ曲がり、機体を修理することは不可能になっていた。

 ――だいたい、今回、試験的に運用を始めた新航空路線というものは、無理があった。

「こうなると判っていたら、リュックにもっと水と食料を詰めておくべきだった。なあ、バティスト」

「まったくだ」

 手持ちの飲料水と食料は、自慢の女房が準備してくれた、やたらと濃い珈琲一リットルとオレンジが一個のみ。俺達二名は、それだけを持って、とぼとぼと、砂漠を歩き出した。

 整備士ロブレは髭を生やした小柄な老人で、無駄にガタイのいい俺が一緒にいると、郵便航空社の仲間達は〈凸凹コンビ〉と言ったものだった。


 ――セレンディブ大陸・同名大砂漠――


 どこまでも連なる赤い砂丘群。灼熱と渇きで死ぬかと思う一方で、――この砂漠は、どこかに、こんこんと湧き出る地下水脈まで掘り込んだ井戸が隠れているはず。そんなハイなインスピレーションが襲いかかって来た。

 俺達は三日歩いた昼下がり、地獄のように照り付ける太陽を避けて、先住民が築いた祠で休んだ。二人で分け合い、少しずつ口にしていたポットの珈琲の味は、すっかり味が変わってしまい、オレンジも最後の一切れになる。俺達は、水分の蒸発を防ぐため身体を丸めた。

 老整備士ロブレが、

「バティスト、そろそろ俺は眠るよ」

「そうだね、俺も眠るかな」

 二人が目を閉じようとしたとき、蜃気楼が見えるあたりから、ジープのエンジン音がした。――俺は眠ってしまったらしく、記憶がない。――目が覚めると、岩塩鉱山の医務室にいた。外から若い女の歌が聞こえて来る。

 看護師長が、

「貴男方は運がいい。たまたま、レディー・シナモンとブレイヤー博士が、調査のために遺跡を通りかかったんだ」


 レディー・シナモンとブレイヤー博士は、女王勅命で旧大陸本国から派遣された考古学者達だった。彼女達が、飛行場のある地方都市へ戻る際、ジープに乗せてもらい、そこから副王府に帰還した。


 副王府の空港には、俺とロブレ翁の女房が迎えに来ていて、飛行船タラップを降りると、女房どもが俺達に抱き着いて来た。ロブレの女房は、たぶん昔、美人だったのだろうが、自慢ではないが、俺の女房は今もバリバリの美女である。

 社交界の花で、名だたる名士達にちやほやされたお高い〈女王様〉だったが、苦労して仕留めた。ところが結婚したら一転して、ベッタリひっついてくる。――いわゆるツンデレだった。

「勝手な人。何よ、どれだけ心配したと思っているの。いい気なものね!」

 抱き着いた後、思い切り頬をひっぱたかれる。それからは口づけの嵐……。

 離れた所にいる命の恩人の女性二人に目をやると、首を引っ込めて笑っていた。


               *


 ――ここからは私、ブレイヤー博士の視点――


 軍と王立アカデミーが共同で立ち上げた、合同研究班に所属する私、ドロシー・ブレイヤー少尉は、レディー・シナモン少佐の副官である。もともとは二人とも、本国首都にある大学考古学教室で机を並べていた。私が博士号取得のため大学院に進んだのに対し、シナモンは修士号取得直後、士官学校に転学して、軍務につき、新大陸における古代エルフ文明研究解明に身を投じるようになった。

 ステージェ地中海を囲む三つの新大陸〈ステージェ新大陸群〉に点在する、古代エルフ文明の調査に向かった。――古代エルフ文明には、旧大陸における我々サピエンス族人類を驚かせるロストエナジーがある。

 私は、女王陛下の勅命により調査を命じられたレディー・シナモン少佐の指名があり少尉に任官。彼女とともに現地入りをした。


               *


 シルハ大陸にある同名副王府は、仄かに薄紅がかった灰色の小宇宙だった。

 凱旋門に臨んだ英雄広場からは、放射状に街路が延び、前衛的アバンギャルドな街並みとなっている。商店街でひと際目をひくのはジャルデイ百貨店で、ショッピングに訪れるシナモンと私は、玄関ファザードの壁で釘付けとなり、警備員にしかめっ面をされたものだった。

 壁を遠目に見ると、扇形の紋様があるのが判る。ただのシミではない、化石化した超大型の巻貝の遺骸なのだ。ついこないだまでアカデミーは、古生代生物であると定義づけていたが、近年になってそれが、滅亡した古代エルフ文明の残滓、オーパーツであると位置づけたのだ。


 いつものようにシナモンと私が化石の壁に釘付けになり、写真撮影したり、スケッチしたりしていると、後ろから、

「やあ、わがホルムズ家の長きにわたる盟友・レオノイズ家の令嬢シナモン。こんなところで奇遇ではないか――」

 悪寒を感じつつ振り向くと社交界向けドレスで着飾ったレディー・グラシア警視が、取り巻きの燕尾服紳士四人を引き連れて、立っていた。――〈死都〉遺跡の殺人事件のとき関わった貴族出自のキャリア女性。私が、初めて会ったとき、ホルムズ伯爵家出自であるこの人は、レオノイズ伯爵家出自のシナモンに対し、両家は宿敵同士だと言っていた。それが、事件を解決し手柄を譲られて以降、シナモンは〈盟友〉であると触れ回っているらしい。


 ――事件があった。容疑者は五人。レディー・シナモン、力を貸して欲しい――


 王国歴一〇四〇年一月三十日、金曜日、事件は発生した。


               ノート20240131

【登場人物】

01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ