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自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第167集(2024年05月)/テーマ 「森林」
19/26

02 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 20』

〈梗概〉

大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇オムニバス。――ある日、森の中、死神に出会った♫


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「死神」

    20 森の三叉路


 ――マデラインの日記――


 町で買い物を終えた私・マデラインは、馬車を駆って家路に着いた。

 途中、街道は深いオークの森を突き抜けることになる。

 突然、馬車が横転した。

「何事?」

 横転する直前、御者席からマスケット銃を片手に、飛び降りた私が見たのは、黒いマントの人影だった。

 閃光が走る。

「問答無用ですか?」

 黒いマントが風に揺らぎ、中から骸骨をのぞかせる。

死神リッチ?」

 死神は、紋様の描かれた石板を手にしていた。

 ――たぶん、原住民が崇拝する土着の神なのだろう。

 この森では、こういう異界の者たちが漂っている。ゆえに、地元民が遠出するときは護身用のマスケット銃と銀弾を携帯している。

 私は死神に一発当ててやった。するとそれは木立の中に霧散していく。

 横転した馬車を一人で戻したいが私人では無理だ。アッシャー荘まで戻り、家人を呼ぶ必要がある。馬を頸木くびきから解放してやり、それに乗った。

 森を抜ける少し前、道に男が倒れているのに気づく。さっきの死神によるものか、深手を負っている。それは部族間抗争で全滅したと言われていた原住民モロバ族最後の一人だった。私は彼を馬の背に乗せて、家に戻ったのだが、ほどなく息を引き取った。

 男は、流暢ではなかったが英語を話すことができた。

「森の三叉路があっただろう。地面に向かって銀弾を撃て――」

 そう言って息を引きった。


 ――三叉路? 死神? 罠だ!――


 アッシャー荘の主である夫・ロデリックに事情を話すと、開口一番そう言った。

 別棟で診療所をしているシスター・ブリジッドに声をかけ、原住民の男を牧場の隅に葬ってやる。

 墓掘りが土を埋め戻す際、シスターが、福音に似た詠唱をすると棺から、シューと音を出して蒸気のようなものが噴き出した。

 葬儀に参列したのは夫と私、執事のアラン・ポオ、シスター。加えて夫の学生時代の学友・ベン・ミアさんの五人だ。

 執事のアラン・ポオが胸に片腕をやって一礼した。

「旦那様、仰せの方尖塔オベリスクを馬車の荷台に載せました」

 かくして我々は、森の三叉路へと向かい、原住民の遺言に従って地面に銃口を向けて、ベン・ミアさん銀弾丸を撃った。

 ところが、それで清められたかと思ったら逆に、骸骨スケルトンの群れが地面から湧き出てくるではないか!

 シスターが清めの祈りをしだす。アラン・ポオと私が前衛となって、骸骨の群れと格闘する中、ロベルトとベン・ミアさんの二人が三叉路の端に、方尖塔を打ち込んだ。

 骸骨が霧散していく。

 魔術師である夫・ロベルトに言わせると、

「もともとあの死神は土地神だった者だが、自分が守護する部族が滅びて崇めてくれるものがなくなって、原始妖精エレメント化して暴走した」

「旦那様、ではあの原住民の男は?」

「たぶん、眷属なのだろうね。マデラインを生贄にしようとしたが、相手が悪かったみたいだ」

「どういう意味ですの?」

「つまり、君がチャーミングだってことさ」

 そのときは褒められて嬉しかった私だが、後で考えてみると、小馬鹿にされていたような気がするのはなぜだろう。


 了


〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻に。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

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