表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第28冊/2024年上半期(第163-168集)  作者: 自作小説倶楽部
第166集(2024年04月)/テーマ 「掃除」
15/26

02 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 19』

〈梗概〉

 大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇オムニバス。――今回はロデリックとマデラインの子供と、友人達の冒険談です(⌒∇⌒)

    19 掃除


 ――アーサーの日記――


 義父に連れられて僕・アーサーは、アッシャー荘を訪ねた。

 お屋敷にはいくつかの建物がある。

 本館にはアッシャー家の人々が住み、別館には診療所を開いているシスター・ブリジットと、その養女ノエルが住んでいる。

 アッシャー家にはハレルヤという子息がいた。さらにノエルを誘い、僕ら三人は屋敷内外を駆けまわって遊んだものだった。

 今回義父のベン・ミアは、

「私はロデリックと、商談をしにボストンに出かける。だからアーサーは十日ほど、この家に御厄介になってくれ」

 ロデリック様はハレルヤの父君で、アッシャー家の当主だ。

 両親が流行り病で亡くなったため、遠縁の親戚の子である僕を引き取って、養子にした義父とロデリック様は、学生時代の学友で、ビジネスパートナーだ。

 二人は、アランポオが御者を務める馬車に乗り、護衛のカウボーイを従えてボストンに向かった。


「ねえ、アーサー兄い、物置小屋を探検しようよ」

 屋敷にはさらに物置小屋があった。

 執事やメイドには、危ないから近寄らないようにと注意されていたのだが、ハレルヤとノエルが見てみたいと言うので、気が進まなかったがつきあったのだ。

「あれっ、鍵が開いている。ロデリック様が鍵をかけ忘れたのかなあ?」

 倉庫の大扉は見開き式で、大扉の片側には、勝手口がついてある。たまたま鍵が駆け忘れていたので、僕ら三人は中へ入った。

 倉庫の中は、案外と奇麗に掃除がされていたので、埃っぽくない。

「おい、ハレルヤ、ノエル、ケースに手を触るなよ」

 壁際にはガラスが張られた陳列棚があり、中には、骨董品が納められている。

 陳列棚の中に、一振りの木剣が置いてあり、目を引いた。

「なんだ、これ?」僕は思わずつぶやいた。

 両辺に溝を穿ち、そこにフレイク状にした黒曜石をはめている。

 僕にはその木剣から、黒い霧のようなものが、発しているように見えた。


 このとき外からハンドベルの音が聞こえた。

 薔薇の垣根に囲まれた芝地に、ぽつんと東屋あずまやが立っていて、午後四時になると、お茶時間になるのだ。

 きっと、ハレルヤの母君であるマデライン様と、ノエルの義理の母君であるシスター・ブリジット様が先に来て、お喋りを楽しんでいらっしゃるのだろう。


 扉を振り返った僕だが、ガラスケースが、ばりん、と割れる音がしたので、正面に首を向き直す。――どうやらノエルが棒でガラスを割ったようだ。さらに彼女は、ガラスケースの中にあった木剣を手にすると、

「あの方を起こして差し上げるの。だから首をちょうだい――」

 声色がノエルと違う。大人のものだった。

 異変はまだあった。彼女の足元にハレルヤが血を流して倒れていたのだ。

 あのキュートなノエルが悪魔のような形相で、木剣を持ち、僕のところへにじり寄って来た。

 ノエルが木剣を上段に構え、そこから打ち込んできた。

 そのとき咄嗟に僕は木剣を払ったわけだが、無意識のうちに手を、狼化させていた。――、義父の話しだと母方の血筋は人狼らしい。僕自身は煩わしく思っていたのだが、このときばかりは感謝した。

 無意識のうちに、身体が動いて後ろに跳び退く。

 そんなこんなしていると、ハレルヤとノエルの母親達が異変に気付き、駆けつけて来た。


 シスター・ブリジットが、

「マデライン様、あの木剣は?」

「あれはマクアフティル、夫が魔法商から買ったアステカ帝国時代の遺物よ。木剣とはいっても、刃物にした黒曜石を列にしてはめ込まんでいるから、金属製の剣なみに人の首を斬り落とすことが出来るって話しだわ」

「どうやら、あの木剣に首を斬られた人たちの怨念が宿っているようね」

 シスター・ブリジットが、福音を唱え始めた。

 義母の詠唱を聴いたノエルが耳を塞いでたじろぐ。

 その隙に、マデライン様が、間合いを詰めて、渾身の回し蹴りを決めようとした。

 ところが、ノエルも敏捷に反応して、紙一重でかわす。

 武闘派であるママ友ペア二人がかりでも、木剣を持った幼女一人に、押され気味だったのだ。

 事態を収拾したのは、意外にも、ハレルヤだった。

 血だらけの彼は、起き上がる際、聞いたこともないような魔法呪文を詠唱していた。

 するとノエルは金縛りとなり、ママ友二人が近寄って、木剣を取り上げた。


「シスター・ブリジット、危ない木剣だわ。重石おもしをつけて湖に沈めてしまいましょう」

 シスターは激しく同意していた。

 早速、重石を鎖で固定した木剣を携えた二人は、岸辺のボートを湖に出して漕ぎ出して行った。


 ――数日後、ロデリック様と義父が、執事のアラン・ポオが御者を務める馬車に乗って、ボストンから帰って来た。

 マデライン様から話しを聞いたロデリック様は、エントランスホールに膝をついて嘆いておられた。

 よほど骨董的な価値があり、お高かったのだろう。


               了 

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻に。夫・ロデリックとの間に息子ハレルヤをもうける。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。

シスター・ブリジット:修道女にして医師。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。アッシャー荘の別館で診療所をしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ