03 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義』
身長一七〇センチ、みどりなす黒髪に黒い瞳、キラッとピチピチ、才色兼備な科学者。人類至高の叡知結晶、それが紅教授である。
紅教授が勤務する黄戸島村立大学の錬金術研究所には、今や骨董品と化した魔道具、そして試行錯誤の果てに失敗した魔道人形が山積されていた。魔道人形とは、自律的行動型人形のことだ。
博士の半生は、魔道人形の起動術式研究や実験に費やされて来た。この人の試行錯誤の結果、ごく稀に生命が吹き込まれたものもあったが、だいたいはガラクタだった。魔道人形は基本、個性や感情というものはない。
キュートな女子高生的な外見を持ちながら、ハイスペックな私は、女子高生型フランケンシュタインシリーズの大傑作で、「縫目フラ子」を拝名している。――学会からは全然相手にしてもらえない――孤独な、かまってちゃん、紅教授の「忠実な」助手だ。
講堂。
「縫目ちゃーん、今日も縫い目がキュートだよ」「ブレザーの裾をあと十センチ上げて」「始めからスカート履かなくていい、できれば下着も――」
「舐めとんのか、縫目ビーム!」
わぎゃ~。
「では学生諸君、実習だ。実験器具の準備はOKか?――古代の神話には、ゴーレムやピグマリオンといった自律的に動く人型魔道具が登場する。今日はそれを作り出す」優雅に咳払いをした紅教授は続ける。「ゴーレムの名の由来はユダヤ教の伝承にある泥人形で、生命とは言い難い、心がない召使という意味がある。――早速、術式で泥人形を造りたまえ。仕上げに魔法陣を埋め込めば完成だ」
基本、ゴーレムには心がないのだが、フランケンシュタイン型は傑作器だった。一連の試作器シリーズの中に、私・縫目フラ子もいる。
私以前のゴーレムは思考回路がない。とある錬金術師はゴーレムの着火方法を教えると、所かまわず、延々と着火をしだして、終いには町一つを焼いてしまった例がある。取り扱いには要注意だ。
紅教授がシャンシャンと手を叩く。
「では、学生諸君の実習作を拝見しよう。まずは、出席番号七番・ロリコン君の作品からだ」
ゴーレムの内蔵した魔法陣が自律動力機関だとすると、起動させる鍵に相当するのが起動術式だ。ゴーレムは起動すると急速に巨大化する特性がある。
ロリコン君の作品は制服姿の女子小学生を模したものだった。――平べったい胸部が急速に巨大化、アンバランス化した重心によって転倒してしまう。ロリコン君は下敷きになってお亡くなりになった。――君は錬金術の寄与に、ちょっとだけ貢献した。きっと本望なことだろう(合掌)。
了