第十七・五話 紫との会談
紫「――そんなに固くならないでいいわよ。あなたを取って食べたりしないから。」
麦「……」
――そう言われても、何も知らない場所でくつろげる気がしないんだよなあ…
それが麦が抱いた率直な感想だった。
麦は今、良心という名の拉致をされていた。
紫にどこかの部屋に飛ばされて、座らされて、今に至る。
ついでにお話をすると言っていたが、多分こっちが本命だろう。
?「――紫様、お茶を持って参りました。」
紫「ありがとね、藍。」
お茶を持って来たのは狐の尻尾を後ろから九本生やし、一昔前の中国でよく着られていそうな服を着た人。
名前は藍だろう。
藍「時に紫様。そこの人間は誰でございましょうか?」
紫「…ほら、挨拶して?」
麦「え…?」
永遠亭に行く前に名前を言ったのに…
麦「…私は稲見麦と言います。よろしくお願いします。」
藍「……」
麦は名乗ったが、藍は無反応だった。
紫「藍も挨拶して頂戴。」
藍「…八雲 藍と言う。…よろしく」
それだけ言うと、藍はまた黙り込んでしまった。
紫「…さて、自己紹介も済んだし――話をしましょうか。」
紫は机を挟んだ向かい側からこちらを見た。
麦「何の話ですか…?」
紫「あら、そんなに深刻そうな顔をしなくてもいいのよ。私はただあなたのことを知りたいだけ。」
麦「……」
本当にそうなんだろうか…
紫のことを疑っていると、その紫本人から質問が来た。
紫「…どう?最近の暮らしは。楽しい?」
麦「……」
紫「…あら、無反応なんてつれないわねえ。」
藍「おい、紫様が話しかけているのに無視とはどういう了見――」
藍がここぞとばかりに怖い顔になるが――
紫「藍、あなたは口出しをしないで。麦が怖がっているでしょう?」
紫は微笑みを携えて、藍の言葉を遮った。
藍「…承知致しました。」
藍は渋々といった感じで声を出し、頭を下げる。
紫「…質問を変えましょうか。――あなたは、外の世界から来たわね?」
麦「――!」
麦は、目を見開いた。
――何故そのことを知っているのか。
誰にも教えていないのに。
麦の頭は混乱した。
その反応を見た紫は、意外、という顔で――
紫「あら、冗談で言ったつもりだったんだけど…本当に外から来たとは…」
と言った。
――まずい。
麦である俺の最大の秘密がばれた。
もしかしたら「余所者は出ていけ」的な感じで幻想郷から追い出されたり、存在を消されてしまうかも…
そう思った麦は、これから起こる出来事に身構えたが――
紫「――でも、そんなことはどうでもいいのよ。あなたは幻想郷にいるのだから、好きに生きるといいわ。」
麦「…え?」
紫から帰ってきた言葉は予想外のもので、麦は肩透かしをくらった。
紫「それよりも、あなたの住んでいた所はどんな所だったの?詳しく教えて頂戴。」
麦「……」
それどころか、自分がいた所を詳しく聞こうとする始末。
麦は、胸の奥に詰まっていたものがとれた。
麦「…いや、そんなにいい所じゃありませんでしたよ。」
紫「そう?外の暮らしも捨てたものじゃないと思うけど。」
麦「いやいや、外では――」
麦は紫と話している内に、自分のことや外のことをよく喋った。
今思えば、これは紫の罠で、麦はその罠に引っかかっていたのかもしれない。
――だが、そんなことは考えたくなかった。
こんなにも友好的に接してくれる人に、悪意があるとは到底思えないからだ。
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少女会談中…
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紫「――楽しかったわ。また呼ぶわね。」
麦「いきなり呼ぶのは止めてくださいよ。」
紫「ちゃんとそこら辺はわきまえているわ。――さ、そろそろ帰りなさい。」
紫がスキマを広げる。
麦「はい。…さようなら。」
そう言い、麦はスキマの中に入った。
不思議と、名残惜しい感情が心の中にあった。
こんにちは。たると林檎です。
いや~こういうお話は書いていてほっこりします。
いつかほっこり系の小説も出すかもしれないなあ…
それはさておき、次は《依神姉妹と命蓮寺》という章に行きます。
次のお話よろしくお願いします!




