第十一話 使命
フ「――あはははは!それそれー!」
そう言って、彼女――フランは彼女の後ろから豪雨のように弾幕を放つ。
笑い方や表情にはあどけなさが残っているが、やることに可愛げはない。
――これはキツイな…
麦は内心、弱音を吐いた。
途中フランが四人に増えたり、弾幕に囲われたり、フランの周りをグルグル回らされたりもしたが、あれはまだ避けやすかった。
しかし、これは違う。
今までは立ちながら弾幕を放てたが、今は床と平行に浮かなければ弾幕を避けることすら難しい。
――何で弾幕が手からしか出せないんだ!
そう、麦は魔理沙やフランのように"手"以外から弾幕を放つ手段がないのだ。
それこそ、魔理沙の『恋符「マスタースパーク」』を複製した『複符「マスタースパーク」』を撃てば勝つのは簡単だが、撃とうとしたときに――
――あ、『マスタースパーク』撃つの禁止ね。それやったらすぐ終わっちゃうもん。
と、封じ込まれてしまった。
そして、麦はそれと同時に疑問を抱いた。
何故、麦がマスタースパークを撃てることを知っているのか、である。
現状、麦がマスタースパークを撃てることを知っているのは霊夢と魔理沙のみである。
フランとは少し前に会ったばかりだし、初対面のときから今までにこのことを話してはいない。
そんなことをぐるぐる考えていたが、その間に弾幕が何度も麦の体を掠めたため、考えるのを止めることにした。
麦「――これは行けそうか…?」
もう六つ目のスペルカードを使用してからまあまあの時間が経過している。
なら、そろそろスペルブレイクをしてもいいのではないか…?
すると麦の予想が的中し、六つ目のスペルカードを突破することが出来た。
フ「あはははは!楽しいね!」
麦「そ、そうだね…」
フ「まだまだ行くよ!『禁弾「カタディオプトリック」』!!」
麦「嘘でしょ!?」
フランはまだ元気そうである。
フランは麦の疲弊した顔なんかいざ知らず、どんどんと弾幕を放っている。
これは耐久力の高い方が勝つな…
と思った麦であった。
◇◆◇◆◇◆◇
レ「――大丈夫なの?あの子にフランと遊ばせて。」
フランと麦の弾幕ごっこを横目に、レミリアは霊夢に問いかける。
霊「今、下手に助けてフランに暴れられる方が面倒だわ。それに――」
レ「それに?」
霊「それに、勘がこう言っているのよ。――これを邪魔しない方がいいってね。」
最後の言葉はただの勘だが――今まで裏切られたことは一度もない。
レ「ふ〜ん…巫女の勘ってやつね。」
レミリアは納得したようだ。
大広間を見ると、眼前では激しい弾幕の嵐が麦を襲っている。
だが、彼女なりに弾幕を避け、撃ち返しているようだ。
霊「この娘なら…」
―――……。
霊夢はそこで喋るのをやめた。
彼女はまだ弟子見習いなのだ。
霊「…ま、どちらにせよまだ私が出る幕じゃないわ。」
レ「…あの子、面白いじゃないの。」
霊「そう?あの子はただの人間だけど?」
レ「あの子は近い将来、大きいことを成し得そうね。」
霊「…そうかしら。」
レミリアと軽口を叩きつつも、麦の行動をずっと目で追っていた霊夢であった。
◇◆◇◆◇◆◇
フ「あはは!もうこれで最後なのが残念だなあ!」
――これで…最後…?
麦「やっと終わる…」
もう麦はヘトヘトである。
フ「――『QED「495年の波紋」』――」
フランの雰囲気はガラリと変わり、落ち着いた雰囲気となった。
こちらとしては波紋のように広がった弾幕を避ければいいのだが、いかんせんずっと弾幕ごっこをしていたので、麦には動く気力があまりなかった。
最低限の動きで避けていた――そのときだった。
麦の目と鼻の先で波紋が起こったのだ。
―――!?
避けようとはしたが、どうしても距離が近すぎて避けられない。
――ああ、このまま死ぬのか…
そんな言葉が頭をよぎった直後だった。
――ここで諦めるのか!
まだ君に出来ることも、やるべきこともたくさんあるだろう!?
ならば立て、立つんだ、麦!
――自分の使命を果たすために!
麦「う、うおおおぉぉぉおおお!」
麦は最後の余力を振り絞り、叫んだ。
それが通じたのかはわからないが――
眼の前に自分の生成した弾幕が現れたのだ。
そのおかげで、麦は自分の体を守ることができた。
――何だ、この感覚は…
自分の能力の使い方がわかる!
麦は、自分の能力について、ここで初めて理解した。
これまでは理解が及ばず、両手で複製元となるものを分解出来る代わりに、手のひらでしか複製が出来なくなっていた。
が、今は"右手で破壊し、左手で複製をする"という成約の元、自分の見える範囲すべてに複製したものを置くことが出来るようになった。
要するに、自らにかけられた能力の成約を理解したことで、本来の力を出すことができるようになったのである。
麦「これで終わらせる…!」
麦から放たれた弾幕は、そのままフランへと吸い込まれていき――
最後のスペルブレイクをした。
麦「やっと…終わった…!」
麦はフランの方へと近付く。
フ「おめでとう。麦の勝ちだよ。」
麦「ありがとう。楽しかったよ。」
フ「そうだね…」
フランはなにか言いたげな顔をしている。
フ「実はね…私、数日前に能力をもらったんだ。その能力を使って未来を見てたんだけど…色んな人と戦っていたから…それがとてもとても楽しそうで…ついつい弾幕ごっこを吹っかけちゃった。…ごめんなさい。」
そうか、と麦は心の中で納得した。
未来が見えるのなら戦っている最中にマスタースパークを撃っているところぐらい簡単に見つかるだろう。
麦「いや、いいよ。私は楽しかったから。…その代わりに、その能力、返してもらえる?」
フ「…麦がそう言うなら。」
返してくれるそうだ。
麦はずっと手袋をつけていた手でフランの額を触った。
すると、光の粒子のようなものが額から現れ、天に登り、消えた。
……―――終わりか。
麦は弾幕ごっこで勝った感覚を噛み締めていると、急に立ち眩みが襲ってきた。
フ「ああ、やっぱり。――麦は能力を使いすぎたんだ。…それじゃあ、おやすみ。」
そのフランの声を聞いたあと、麦の意識が切れた。
いやー麦がフランに勝っちゃいましたね〜
これがなければ麦は弱いままだったでしょう。
…小説を短い間隔で上げるのキツイヨ…(後十三話)
次回もよろしくお願いします!
フランドール・スカーレット:神の被害者の一人。
『未来を見る程度の能力』を授けられる。
この能力をずっと部屋で使っていたため、部屋の外へ出ていない。
稲見麦:覚醒した。
やり方によっては見える範囲すべてに弾幕を敷き詰めることが可能。
つけている手袋の能力は『能力を奪う程度の能力』。