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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
9/31

被害者

美音子と宮原とは、守と会わなくなって暫く経った、学生達が夏休みを迎える頃、買い物帰りに偶然、大型商業施設の駐車場に併設されたバス停で鉢合わせていた。

美音子たちは商業施設の最寄の中学の体操服を着ていた。

部活動帰りのようだった。

美音子からしたら時子は家庭をひっかきまわした諸悪の根源。

激しい憎悪を滾らせて睨み付けてきた。

「何、あのオバサンがどうかした?」

「あのオバサンの所為で、今、家は大変なの!」

時子は関りたくなくて足早にバス停近くに停めた自分の車に乗り込もうとしたが美音子は付いてきた。

「この間はどさくさに紛れて逃げてくれたけどさ、説明してくれない?色々」

口の聞き方を知らない子供とは関りたくなかったが相手をしてやらないと執拗に付きまとって来そうだったので対峙した。

「説明も何も・・・・・・前に話した通り、高倉さんとはビジネスパートナーで一緒に居ただけよ、それ以上の関係じゃないわ」

「すげー苦しい言い訳だなオバサン」

宮原もすかさず加勢した。

「・・・・・・言い訳なんてしてないわ、真実を話しただけ、それより1つ忠告しておくわ、あなたたち、もう中学生なんだから正しい口の聞き方を身につけた方が良いわ、そんな態度、世間では一切通用しないわよ」

只ならない空気を発しながら対峙する3人を多くの通行人が遠巻きに見守り、やがて離れていった。

通行人の誰かが警備員に報告したようで警備員が近づいてきたが、そこに美音子たちが乗る予定のバスが入ってきた。

「バス来ちゃったな、行くぞ」

「うん」

宮原に続きながら時子を振り返って、ゾッとする位冷たい声音で吐き捨てた。

「これで済むと思うな!」

捨て台詞を残し、バスに乗り込んだ。

「・・・・・・大丈夫ですか、お客様」

盛大に溜息をついていると背後から警備員に声を掛けられた。

「大丈夫です、ご心配おかけしました」

頭を下げ、荷物を車に積んで車に乗り込み、施設を出た。

車道に出ると、先ほど美音子たちが乗り込んだバスが、まだ、その姿を捉えられる位置を走っていた。

バスは暫し直線レーンを走った後、程なく左折レーンに入った。

時子は、その後ろを暫し走った後、右折レーンに入った。

バスの中からジッと車道を睨んでいた美音子は時子の車の車種とナンバーを記憶した。

「あっちの方向か・・・・・ナンバーは覚えた、ねぇ、今度さ、あのオバサンの家を突き止めるの手伝って?」

「まかせろ」

宮原は力強く協力を約束した。

その後、美音子たちは執念で時子の住んでるアパートを突き止め押しかけた。

時子は、その執念深さに思わず戦慄した。

けれど意外にも2人が直接手を出してくる事はなかった。

車から降りてきた時子を見て、勝ち誇った顔で笑った後、立ち去った。

しかし、程なく、様々な攻撃を受けるようになった。

郵便物が水浸しにされたり車に傷をつけられたりタイヤをパンクさせられたり。

悪化する事態に警察に相談したが、事態の好転は望めず、最終的には転居を検討した。

あんな別れ方をしているので、守がまた自分の前に現れる事はないだろうと思いながらも、あるいは逆恨みして仕返しに来ない保証は無い気がして、色んなリスク回避の為に思い切って引っ越す事を決めた。

引っ越しを済ませたタイミングで車のナンバーも変えて、そう簡単に割り出せない筈と高を括っていたが・・・・・・。

どんな手段でこんな早く割りだしたのか、何度も重いため息を漏らした。


 それから暫く時子にも好美にも特に大きな変化のない時間が流れた。

そして好美は2学期末の試験の前日。

「明日から期末試験だぁ、何かまだ準備が不十分なのに、英語に関しては一夜漬けで乗り切るしか無さそう」

不安要素を多々残している好美がボヤいた。

「私もだよ!もう数学の試験捨てようかな、それにしても、あっという間に冬休みが迫ってきてるね、まあ楽しみな冬休みの前に、イベントが山積みだけどね、期末試験に合唱コンクールにマラソン大会・・・・・・・合唱コンクールは別に苦痛じゃないから問題ないんだけど、マラソンがね・・・・・」

「同じだよ、期末テストとマラソンがね・・・・・ねぇ、明日さ午後から一緒に走らない?」

「良いね!」


迎えた2学期末試験の初日、英語と数学と家庭科の試験に頭を抱えながら向き合い、掃除等を済ませ解散した面々。

軽い昼食の後、スポーツ公園でランニングコースを2人で走った。

「真希ちゃんも足早いね」

息を切らせながら必死で真希について行った。

「日頃、部活で走ってるからね」

息を切らせ付いていく好美と対照的に真希はそこまで息を切らせる事無く走っていた。

「大丈夫?少し休む?」

「うん」

2人、近くのベンチに座った。

「ごめんね、言い出しっぺが根性無くて、足止めさせて」

「いいよ、仕方ないよ、ヨッシーは走り慣れてないんだから、でも、とりあえず、このコース一周は達成しよう!」

「うん!」

短い休息のあと、好美は腰を上げた。

「ありがとう、あとは一気にゴールまで行こう」

再び走り出し程なく、好美の足が再び止まった。

「どうしたの?」

真希が訝し気に振り返った。

「・・・・・ごめん、戻ろう」

「え?」

真希は困惑しながらも走ってきたコースを逆走する形で走っていく好美を追った。

少し離れた所で起きた小さな異変を敏感に察知したのは美音子だった。

「・・・・・・今のって」

猛ダッシュで逆走して後方から必死に追いかけてくる真希の様子をチラチラ窺いながら駐輪場を目指していた好美は前方不注意で前から歩いて来た男子中学生とぶつかった。

「ヨッシー危ない、前・・・・・!」

「え?!」

お互いに転倒しながら先に立ち上がった男子中学生。

相手の姿を確認しないまま立ち上がり、謝った好美。

「ごめんなさい、ちょっと急いでて」

「痛ってぇな!何だよ!!気を付けろ」

「ちょっと、どうしたの、ヨッシー、大丈夫?」

「・・・・・ごめん、ちょっと会いたくない奴が居て」

「それって、私の事?」

悠然と近づいてきた美音子に、好美も宮原も自分と接触した相手を明確に認識した。

「何だ、誰かと思えば、よく見たらパワハラじゃん」

「パワハラ?」

真希が訝し気に、けれど不快感を滲ませ宮原と対峙した。

「まさか、こんな所でパワハラに会うとは思わなかった・・・・・久しぶりだね、何してたの、こんな所で」

2人が好美の敵と直ぐに察し、すかさず庇うように真希が間に入った。

「そんなの、あんたが知る必要ないでしょう、っていうか何、パワハラって」

「さあ?教えてあげる義理は無いね、知りたいならパワハラに聞きなよ」

「何か分からないけど、私の親友をその変な仇名で呼ぶの止めてよ」

冷たく2人を一瞥して、好美に確認した。

「何なの、こいつら、ヨッシー」

「小学校で同じクラスだった奴等・・・・・・」

言葉少なく答えた。

「へぇ、素敵なクラスだったんだね、違う小学校で良かった」

皮肉たっぷりに納得して見せながら2人に間合いを詰めた。

美音子と宮原は真希に対する苦手意識と不快感に思わず顔を見合わせ、数歩下がった。

「ま、良いや、今更あんたと話す事なんて無いし、こんなの放っておいて行こう、そろそろ約束の時間だし」

「ああ」

「約束?」

真希が訝しげに復唱した。

「何?盗み聞き?良い趣味だね」

一瞬言い返せなかった真希は悔しそうにしながら気持を切り替え好美を振り返った。

「とりあえず一周してゴールしよう、その為に来たんだから」

「うん」

気を取り直して2人、ジョギングに戻ろうとした刹那、公園前の通りに一台のバスが停まった。

「来た、きっとあのバスだね」

「ああ」

丁度、バス停で学生が一人待っていた。

その一人が乗るのは確認できたが、そのバスから誰も降りてこなかった。

「・・・・・乗ってなかったな」

「乗り遅れたのかな」

そんな話をしている2人を思わず2人で訝し気に見たが、2人が誰と待ち合わせていても関係ないので、その場を後にして何とか一周走り切った。


 「しんどかった!!このコースで、2.5キロか・・・・・・2.5キロでこの疲れ具合か、本番大丈夫かな、真希ちゃんに付いていけるのかな、もっと頑張らないと」

微かに滲んだ額の汗を手の甲で拭いながら息を切らせながらも近くのベンチに座った。

「大丈夫!上出来だよ、それよりさ・・・・・嫌なら断ってくれて良いんだけど、聞かせてくれない?さっきの奴等の事」

「うん・・・・・」

好美は周囲を見回し、誰も居ない事を確認して、小6の時からの事を掻い摘んで打ち明けた。

一家が遭って来た被害に時折、思わず眉根を寄せながらも真希は真剣に好美の話を聞いた。

「そうだったんだ・・・・・・・・・だから夫婦で別居までして学区外に引っ越してきたんだ」

「うん、真希ちゃんには、こういう機会があったから話したけど、今の話は誰にもしないで、時期が来たら歩ちゃんにも、ちゃんと私から話すから」

「判った!誰にも言わない・・・・・」

言いながら小指を差出してきた。

好美も小指を絡め互いに軽く上下に手を振った。

「いつか歩にも、ちゃんと話せる日が来ると良いね」

「うん・・・・・」

「その歩の事なんだけど、今日さ、朝からずっと体調悪そうだったよね、顔色の悪さにビックリしちゃった」

「うん、私も心配だったさ、まぁ、あの歩ちゃんの事だから、多少体調が良くなくても難なく高得点を叩き出すんだろうけど、さて、陽も傾いてきたし、そろそろ帰ろうか」

「うん!」


 無事に期末試験最終日を迎え、2人、ご機嫌で合唱コンクールの課題曲を口ずさみながら下校した。

「アルトの歩が居たらなぁ・・・・・・3人でハモリたかったな・・・・・・・」

真希が寂しそうに呟いた。

「実はさ、小6の時の自由曲が、まさに、この曲だったんだよね、張り切って歌うぞ!って思ったのに、この間、公園で会った奴らが勝手に人を伴奏に推薦して、断ったのに教師まで挑戦は大事とか言って伴奏者やらされて歌えなかったんだよね、悔しいから弾けるようになってやったけど」

「悔しさだけで弾けるようになるなんて凄いじゃん!それにしてもホント、嫌な奴らだね、明後日思う存分歌おう!そして、どうせなら優勝しよう」

「うん」

「じゃ、また後で此処でね」


 スポーツウェアを身に纏い軽く膝や足首の関節をほぐし、2人でスタートラインに立った。

「13分後に此処に戻って来れるように、とりあえず、完走を目指そう」」

言いながら真希がスマホに目を落とし時間を確認した。

「じゃ行くよ」

真希が液晶の画面をタップして駆け出した。

好美は日ごろ走り慣れていてペース配分にも長けている真希に懸命に付いて行った。

少しずつ広がる距離を詰める事が出来ず、だいぶ離れてしまったが何とか走り切った。

目標だった13分には間に合わなかったが真希は好美を評価した。

「本番もこの調子で走れたら問題ないよ、一緒に頑張ろう」

「うん」

「それにしても今日は一段と冷えるね・・・・・・・帰ろうか」

「ホント寒いね!」

好美は吹き抜ける冷たい風に思わず身体を竦ませ、真希と共にジョギングコースを後にし駐輪場に向かった。

「あれ?ねぇ、あそこ走ってるの歩ちゃんだよね」

「え?」

真希は好美の言葉に思わず、チェーンロックのダイヤルを回す手を止めた。

良くも悪くも目立つ長身を暫し2人で見守った。

歩は黙々と走りこんでいた。

「やっぱ歩ちゃんも足速いね!足の長さも違うから余計だよね、マラソン大会でも普通に一等になってそうな速さだね」

「そうだね・・・・・・さ、帰ろう」

真希が力強くペダルを踏み込んだ。


 いつもの道で別れ一人、アパートまで戻ってきた好美は思わずアパートの敷地内に入る手前でブレーキを掛けた。

そしてUターンした。

またしても美音子たちが居たのだ。

一階の好美たちの部屋には宮原が、二階の時子の部屋には美音子が張り付いていた。

とりあえず近くのスーパーの、ちょっとしたイートインコーナーでホットココアで暖を確保しながら耀子に報告のメールを入れた。

返事は直ぐに届いた。

『丁度仕事が終ったから、直ぐに行くから其処で待ってて』

『了解』

不安な気持で一杯になりながらココアを啜っていると、時子がカートを押しながら通り過ぎた。

「あ、こんばんは」

「好美ちゃん、こんばんは、お買い物?」

「・・・・・・いえ、ちょっと母と待ち合わせで、直ぐにでも帰りたいんだけど、アパートに会いたくない人物が居て」

「え?」

「諦めて引き上げてくれてれば良いんだけど」

「それ、どんな人物?」

「中学生の男女2人組」

時子は思わず身体を強張らせた。

思わず時子も2人が立去ってくれている事を切に願った。

そこに耀子が到着した。

「好美、お待たせ・・・・・あら、犬飼さんも今帰り?お仕事お疲れ様」

「こんばんは、お疲れ様です」

会釈して動揺を押し隠し、カートを押してレジに並んだ。

そんな時子と別れ帰宅すると、まだ張り付いてる2人の姿が確認できた。

車がアパートに着くまでの間、2人打ち合わせておいた。

「たまに授業参観日に見かけるか見かけないか位の程度だし、どこにでも居るオバサンだし、きっと覚えてないわよね私の事なんて」

「そう願いたいね」

まず耀子が一人で部屋に近づき宮原を追い払い、好美は後部座席で身を隠す作戦だった。

「あら、どなた?家に何か用?」

「え・・・・・此処って」

階下で戸惑う宮原に気付いた美音子が下を覗き込んだ。

「何か用かしら?」

「いえ・・・・・あの」

冷たく見つめられ、思わず口籠った宮原。

困惑して言い淀んだ宮原に、もう一度冷たく聞いた。

「家に何の用?」

「えっと・・・・・この真上の部屋の住人って、どんな人ですか?」

「上の部屋の住人?あなた一体何なの、そんな事、あなたが知ってどうするの?そんな事聞く為に私が帰ってくるのを待っていたの?」

「そういうわけではないんですが・・・・・・・」

「それなら何故、私の家の前で待ってたの」

思わず、そのまま逃げだしたい気持ちになっていると、燿子が畳み掛ける様に間合いを詰めた。

「何か判らないけど帰ってくれないかしら、ご家族が心配するわよ、残念ながら上の部屋の住人どころか隣の住人の事さえよく判らないわよ、最近越してきたばかりで挨拶にも行けてないから」

下でのやり取りを聞いていた美音子が降りてきた。

そして耳打ちした。

「良いよ、仕方ない、今日は帰ろう、一階は関係ない事が判っただけでも充分だよ」

ささやかれ小さく頷いて引き下がって見せた。

「最近、引越してきたんですね、なら前の住人の事とかも判らないですよね、変な時間に失礼しました」

何とか2人を追い返す事に成功した。

何かの弾みで急に戻って来たりしないか気を付けながら、車のドアを開けた。

そしてスーパーに戻って自転車を回収して帰宅した。

スーパーから戻り自転車を定位置に戻した頃には時子も安全に帰宅を果たしていた。


 お風呂上り、好美は居間から話し声が聞こえる事に気付いた。

居間に入ると時子が来ていた。

「好美ちゃん、お邪魔しています」

「こんばんは」

予期せぬ時子の訪問に驚きながら、とりあえず、2人の話の邪魔にならないように部屋に入ろうとしたが。

「待って、好美ちゃん」

「はい?」

「例の2人について話したいって・・・・・犬飼さんが」

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