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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
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悔恨

「そういえば、日記渡しておくね」

言いながら真希が好美を振り返った。

好美は咄嗟に制服のスカートのポケットの中に紙を隠した。

「あれ?ヨッシー何か顔色悪くない?大丈夫?」

真希の心配そうな声音に歩も思わず振り返った。

「本当だ!平気?」

「大丈夫」

日記を受け取り、鞄にしまいながら勘ぐられたくないので元気に振舞って見せた。

悪意に満ちたメッセージを入れたのは誰なのか、誰の目に気をつけたら良いのか判らず何だか歩と普通に話すことが怖くなった。

それでも真希は普通に歩と話をしていたので自分もポーカーフェイスでいつも通り歩と接した。

次々と登校してくるクラスメイト達。

始業時間ギリギリで悠太も登校してきた。

そうして好美たちは2学期初日のスケジュールを順調に消化した。


 放課後、それぞれ部活動があり、3人で一緒には帰れなかった。

好美は一人で帰宅して交換日記を確認した。

歩が書いたページに早速、先日の返答があった。

『好美ちゃんも、あのパフェ挑戦したんだね、パフェに夢中で気づかなかった、私たちも4人で頑張って完食したよ、一緒に居たのは親友でもあり幼馴染の子だよ、今は山梨に引越して滅多に会えないんだけど、だから残念ながら彼女は誘えないんだけど、甘いのが嫌いじゃない小学校時代の友達とかに声掛けてみるね、因みに彼女も私たちと同じ中1だよ』

確認しながらも、自分は何をネタに日記を書いたらいいのか頭を悩ませた。

なんだか全て上の空で何も手につかなかった。

取り敢えず簡単に歩に返事を書いたが、数行で終ってしまった。

日記は、丁度、好美が最後のページだった。

しばし考え、ネタ探しも兼ねて、日記帳を新調するために出かけることにした。

好美は暑さ対策を整えた後、財布の中の所持金を確認した。

「買えそうだね・・・・・」


 厳しい残暑の中、自転車で数分程の距離にある文具店に向かい、迷わずノートを取り扱うコーナーに向かい吟味していると小学校時代、報道の後、自分から離れていった、乙黒由美と再会した。

お互い気まずくて、好美は落ちついて選べなくなった。

たまらず吟味と購入を断念して店を出ると、由美が追ってきた。

「・・・・待って!」

同じようにノートを吟味していたであろう由美も手ぶらだった。

「私・・・・・謝りたくて、好美ちゃんに」

言いながら鞄からスマホを取り出した。

「LINE、やろう?また私と」

「・・・・・やらない」

LINEをブロックされた事に気づいた時の苦すぎる記憶とイジメの記憶に阻まれ、由美の謝罪を受け入れる事が出来ず、好美は冷たく答えた。

拒絶の声音に由美はスマホをきつく握りしめ立ち尽くした。

「もう決めたから、由美ちゃんにブロックされたあの日に・・・・・LINEは信頼できる友達としかやらないって決めたから、由美ちゃんとは出来ない」

きっぱり断ると、自転車に乗ってペダルを踏み込んだ。

由美は小6の時の自分の行動を心底後悔した。

駐輪場から立去る好美の後姿を、由美が絶望の眼差しで見つめていた。


 好美は激しい動揺を抱えたまま、結局、自宅に戻った。

そして残暑厳しい中、再度、暑さ対策を講じて、今度はもう少し足を伸ばし学校の割と近くにあるショッピングセンターに出かけた。

エスカレーターで2階の文具コーナーに向かうと隣接する書店で、白いシンプルな半袖のポロシャツに水色のデニムのショートパンツを見事に着こなした歩に遭遇した。

歩は店員の目を気にしながら立ち読みしていた。

「あれ、歩ちゃん」

歩は文具店で何か買ったようで、小脇に文具店の茶色い紙袋を抱えていた。

「あれ、好美ちゃん、どうしたの?」

「日記帳が私で最後だったから、可愛いノートがないか探しに来てみた、歩ちゃんは?」

「お兄ちゃんと待ち合わせ!そうなんだ、ノート買いに来てくれたんだ、ありがとう、でも大丈夫!新しいノート今さっき新調したところだよ、今回は青空をモチーフにしたノートにしてみたよ」

嬉しそうにテープで止められた上部を剥がし、少しだけ引っぱりあげてノートを見せた。

「良いチョイスだね!」

「なんか、2人の意見も聞かずに勝手に買っちゃったけど、ごめんね」

「ううん、またノート用意してもらっちゃって、何かゴメンね、次は私が用意するね」

「ありがとう、そういえば、調子は、もう良いの?朝なんだか顔色悪かったけど」

「大丈夫だよ、っていうか歩ちゃんでも、そういう漫画雑誌読むんだね、勝手に歩ちゃんは参考書の類しか読まないイメージを持ってた」

好美の偏見に歩は思わず失笑した。

「そんな事ないよ、参考書より漫画の方が詳しいよ、あ・・・・・お兄ちゃん来たから行くね」

言って雑誌を元に戻し、書店入り口で立ち止まった柄の悪い少年の方へと駆けていった。

2人は買い物客が殆ど行かないエリア、非常階段の方へと進んでいった。

そんな2人を見送って、好美は、歩が手にしていた漫画雑誌を取り、歩が読んでいたページを開いてみた。

そこに載っていたのは新人漫画家の読み切り作品だった。

自分の好みの画ではなかったが、歩と共通の話題が欲しくて思い切って購入して帰宅した。

真面目に読んでみると、ストーリーも画も自分と好みの合わない青春がテーマの作品だった。

他に掲載されている漫画に関しても、折角買ったので全部読んでみた。

全て読み切った後、日記の続きを書いた。

2学期が始まった事や、歩とショッピングセンターで、ばったり会ったことなど書いた。

そして歩が読んでいた雑誌を自分も読んでみた事と、その感想で構成し、気づけば相応の行数になっていて余白が殆ど無い状態で、それなりに見栄えの良い日記が仕上がった。

好美はノートを見直して無事に書き上げた日記を鞄にしまった。

「ただいま」

なんだかバタバタ過ごしているうちに、耀子が仕事から帰ってきた。

「おかえり」

スーパーで買ってきた食品を耀子と一緒に冷蔵庫に入れながら耀子が珍しそうに好美を振り返った。

「そういえば、今日はLINEやってないのね、珍しい」

「うん、今日は他にやること有ったし」

「そう」

そんな話をしていると、早速、好美のスマホにLINEが届いた。

確認すると相手は寛子だった。

「あ、お姉ちゃんからだ・・・・・・」

『元気?2学期が始まったね』

『2人そろって元気だよ、夏休みボケで今朝はイマイチ、エンジンが掛からなかったけど』

『残暑厳しいから余計にエンジン掛からないよね』

『うん』

『ところで、今日、偶然、駅で由美ちゃんを見かけたんだけど、何か暗かった気がする』

由美と好美は保育園の時から一緒で、お互いの家を行き来する仲だったので寛子とも、勿論顔見知りだった。

早速、返信しようとした時。

「好美、LINEは後にして手伝って、夕飯作っておくから、お風呂の掃除してきて」

「・・・・・はい」

言われたとおり風呂掃除をしながら、寛子からのLINEもあり、何だか由美の事が気になった。

より詳しく寛子に確認したくて、手早く掃除を終らせた。

掃除を終えてリビングに戻ると、耀子はまだ夕飯の準備中だった。

夕飯が始まれば、スマホに触れなくなるので、その前に好美は寛子にLINEを送った。

『実は私も、昼間、偶然にも、こっちの家の近くの文具店で由美ちゃんと再会した』

『そうなんだ、由美ちゃんは私に気づいてないみたいだったから話しかけなかったけど、丁度学校に行く時に見かけたんだけど、だから何でこんな時間に駅に居るんだろうって思った』

LINEを確認し、何だか昼間、由美を切り捨てた事が心に引っかかった。

モヤモヤしていると、また寛子からLINEが送られてきた。

『もしかして学校に馴染めないのかなって、心配になった、好美が文具店で会った時、何か話した?』

改めて思い出してみると、確かに何だか元気がなかった気がした。

『小学校の時の事、謝りたいって、またLINEやりたいって言われた』

返しながら、なんだか、ちゃんと話も聞かず、勇気を出したであろう申し出を深く考えもせず、突き放してしまった事が気になり始めた。

『そうなんだ?』


 寛子が好美とLINEしていると、突然、家のチャイムが鳴らされた。

思わず身構えて防犯カメラを確認すると、由美の両親が玄関で落ち着かない様子で立っていた。

寛子は施錠をはずし、外に出た。

「寛子ちゃん、久し振り」

母親が緊張気味に話しかけてきた。

「ご無沙汰しています・・・・・・」

思わず寛子も緊張気味に返すと、父親は切り出した。

「実は、うちの由美が、こっちに遊びに来ているんじゃないかって思って」

「え?来てないですけど」

寛子が答えると2人、困ったように顔を見合わせた。

「あの、悪いんだけど、好美ちゃんの所に案内してくれるかしら?あの子が好美ちゃんの所に行っているかもしれないから」

「・・・・・・それは無いです、勿論、好美と連絡をとる事は出来ますが、母も好美も引っ越し先は誰にも教えてない筈ですから、由美ちゃんが好美に会いに行く事は出来ないと思います」

「そう・・・・・」

「あの、由美ちゃん、どうしたんですか?」

「昨日の夜から帰ってきてなくて」

「え?!」

思わず心配になる告白を受け、玄関先で気軽にする話でもないので取り敢えず、2人を家の中に入れた。

 一方、急にLINEを中断され、好美が心配そうにメッセージを送った。

『どうしたの?トイレでも行ってるの?っていうか、こっちは今から夕飯だから、暫くスマホ触れないよ、また後でLINEするね』

好美からのメッセージを確認し、画面を閉じた。

「由美ちゃん、昨日、何かあったんですか?実は、今朝、駅で由美ちゃんを見かけました、由美ちゃんは私に気づいてないみたいだったし、私も学校の友達と一緒だったから声は掛けませんでしたが」

「え?!」

「私と同じ電車に乗って、でも車両が違ったんで、由美ちゃんが、どの駅で降りた把握していません、まさか、そんな事が起きているなんて思いもしなかったので、気をつけても無かったので、お力になれなくて申し訳ないです」

寛子が申し訳無さそうに謝ると、夫婦は顔を見合わせ、2人で気まずそうに首を横に振った。

「そう、駅で見たのね、ありがとう・・・・・どこに行ったのかしら、あの子・・・・・・GPS機能もOFFになっているみたいだし、LINE送っても既読にならないし、電話もでないしメールも読んでいるんだかいないんだか、もし、こちらを頼って来るようでしたら、すぐに連絡下さい」

「わかりました」

心労を滲ませながら夫婦は腰を上げた。

寛子は、好美が文具店で由美と再会した事実を告げるべきか迷った。

何度も頭を下げリビングを出ようとする両親を見て、迷いながらも寛子は告げていた。

「・・・・・・あの、実は、好美も日中、近くの文具店で偶然、由美ちゃんと会ったそうなんです」

2人、再び驚いて見せた。

「そして今、ちょうど、好美とLINEで、由美ちゃんの事を話していたんです、事が事なので、引っ越し先は教えられないけど連絡してみます」

「お願いします」

2人、申し訳無さそうに深く頭を下げた。

『ちょっと今、由美ちゃんの両親が来ているんだけど、由美ちゃん、昨日から帰ってないらしいんだよね、夕飯済んだら電話頂戴』

丁度、夕飯を終えた所で、衝撃のメッセージが届き、燿子に報告しながら激しく動揺した。

すぐに求められるまま好美は寛子の携帯に入電した。

寛子はワンコールで出て、由美の両親も聞けるようにスピーカーのボタンをタップした。

『もしもし、お姉ちゃん』

「好美ちゃん、久しぶり・・・・・好美ちゃんが、今日、由美と会った時の様子を教えてほしいの」

『お久しぶりです、私、由美ちゃんが、そんな状況にあるなんて思いもしなくて・・・・・由美ちゃん、小学校の時の事、謝ってくれたんです、またLINEやりたいって・・・・・勿論、心から謝ってくれたと思うんだけど、私、思わず断っちゃったんです、ブロックされた時のトラウマがあったから』

3人、何も言えず、スマホの液晶を見下ろした。

『由美ちゃんに届くか判らないけど、LINE送ってみます、またすぐに連絡します、一度切ります』

操作してみると、ブロックは解除されている事が判った。

「どう?由美ちゃんに送れそう?」

「うん」

好美はメッセージを作成して由美に送信した。

『昼間はゴメンね、あれから色々考えたの、今凄く由美ちゃんと話したい、メールでも電話でもLINEでも良い、由美ちゃん、どれが都合良い?』

送ったメッセージには直ぐに既読がついた。

けれど返信は無かった。

「どう?」

「今のところ既読スルー状態、怒っちゃったのかな、昼間、断っちゃったから・・・・・・でも、そんな子じゃないと思うんだよね由美ちゃん」

燿子は直ぐに寛子にLINEでこちらの状況を送った。

すぐに燿子のスマホに寛子からのLINEが入った。

『今、どこにいるか、さりげなく聞き出せそう?』

燿子がスマホ画面を好美に見せた。

「やってみる」

『因みに今の状況とか聞いても良い?電話使うと周りに迷惑かけちゃうような所に居る?』

けれど、やはり返信が無かった。

悪い予感ばかりが脳裏をよぎり、それでも、悪い予感を払拭するように複数回、連絡が欲しい旨のメッセージを送り続けた。

けれど返信が届くことは無く、気付けば、あれから1時間以上が経過していた。

好美が、何とか連絡を取りたくて、何通目かのメッセージを送った時、チャイムが鳴らされた。

思わず顔を見合わせ燿子は腰を上げ、魚眼レンズを覗いた。

「え・・・・・ちょっと、好美!!」

「え?」

燿子に手招きされ、好美は腰を上げた、魚眼レンズを覗きこんだ。

「え?!何で・・・・・何でアパート知ってるの、由美ちゃん」

立っていたのは、まぎれもなく由美だった。

2人、思わず玄関を開けた。

「・・・・・・こんな時間に、すみません」

由美は疲れ切った様子で立ち尽くしていた。

「とりあえず入って?」

燿子が家の中に招き入れた。

「お邪魔します」

小学校卒業以来、今日、偶然再会するまで一度も連絡を取り合っていなかったのに、表札も、つけてないのに、どうやって由美が、このアパートの、この部屋にたどり着いたのか不思議で仕方なかった。

「・・・・・なんで家を知ってるの?」

「ごめんね、好美ちゃん、こんな時間に押しかけて」

「由美ちゃん、何か困ってるの?好美を頼らないとならない状況なの?」

耀子に聞かれ、目を泳がせながら、やがて頷いた。

「何に困ってるの?そして大事な事だから、これは、ちゃんと正直に答えて欲しいの、何で私たちの引越し先を知っているの?」

「ここを知ったのは偶然です、地図アプリで別の場所を探していて、そうしたら、ここのアパートにおばちゃんの車によく似た車が映っているのを見つけて、ナンバーはモザイクがかかっていたから確信は無かったんだけど」

2人、便利になりすぎる世の中に恐怖を覚えた。

転居先を誰にも教えなくても、こういう所から割り出されるのだと思い知った。

「もう一つ、大事な事だから正直に答えて欲しいんだけど、それ、他の人に教えたりした?」

「してないです」

「お姉ちゃん経由で聞いたけど、昨日から家に帰ってないって、いったい、どういう事?何があったの?おじさんも、おばさんも心配していたよ、2人とも、由美ちゃんの事を必死に探して今、向こうの家に来てるって」

「聞きたいことは色々あるけど、まずは乙黒さんに連絡しておくわよ、凄く心配していたから、良いわね?」

「・・・・連絡は自分でします」

言いながら母親の番号を呼び出した。

「もしもし、お母さん」

『由美!あんた本当に、どういうつもりなの!どれだけ心配掛けたら気がすむの!』

かなりの剣幕なのが、電話越しにも伝わってきた。

「ごめんなさい!でも・・・・・」

由美が大粒の涙を零しながら携帯を握りしめながら胸中を吐露した。

「どうしても、もう学校に行けない!」

由美の口から飛び出した訴えに、好美と耀子は思わず顔を見合わせた。

「私が学校に行けないのは2人の所為じゃないよ、だからもうケンカしないで、私のことでケンカする2人を見るのが本当に辛いの!離婚するとか脅されても、行けないの!」

『・・・・・とにかく帰ってきなさい!学校の件は、ちゃんと話そう?今どこにいるの?』

「それは・・・・・教えられない」

耀子に口止めされている事で上手に答えられずに居ると。

『いい加減にしなさい!今日も帰ってこないつもりなの?!』

『落ち着けよ、そんな怒鳴り散らしてたら由美だって帰ってきにくいだろう』

ヒステリック気味に漏れ聞こえる声に疲弊を滲ませる由美に見かねて、耀子が電話を変わった。

「もしもし、ご無沙汰しています、為末です」

『え・・・・為末さんの奥さん?!やだ私ったら!大きな声で、ごめんなさい』

突然電話を代わられ、羞恥心にアタフタした。

「偶然、近所のコンビニで由美ちゃんを見かけて、今一緒に居るので送り届けます」

『・・・・・判りました、大変ご迷惑をおかけします』

通話を終え、耀子は由美を車に促した。

好美も一緒に車に乗った。

車の中で由美は打ち明けた。

「私、中学でも美音子と同じクラスになったんだけど」

重く沈んだ声で話し始める由美に・・・・忌々しげに美音子の名を口にする由美の様子に好美は凡その予想が出来た。

由美は小学校時代、『美音子ちゃん』と呼んでいたのだ。

「美音子、小学校の時みたいに、またイジメ始めて」

「最低だね!あんなに由美ちゃんにベッタリだったのに、っていうか何が楽しいんだろう」

好美が思わず怒りを滲ませた。

「最初は違う子がやられてたんだけど、その子がターゲットになっちゃった理由っていうのが宮原なんだけど」

「どういう事?」

「その子、宮原と同じ新聞委員になって、でも本当は美音子、自分が新聞委員になりたかったみたいで・・・・好美ちゃん、違う学校だし、この際話しちゃうけど、美音子、宮原の事が好きみたいで、その子と宮原が話すのが気に入らないって、クラスで孤立させるように仕向けて、好美ちゃんの時も実は、そうだったの、今となっては全部言い訳になるけど、好美ちゃんと口聞いたら仲間はずれにするって迫られて、従うしかなくて、でも、本当に、その子に対してのイジメは好美ちゃんの時より更に酷くて、色々と目に余るところがあったから思い切って止めたんだよね、そうしたら即行で裏切り者認定されて」

「・・・・・極めて幼稚ね!」

耀子がハンドルを握りながら呆れ返って見せた。

「その子、中間試験が終る頃までは登校できていたんだけど、期末試験の頃には完全に学校に来なくなっちゃって・・・・あの子を庇ったりしなければ、自分がターゲットにされる事は無かったのに、何で美音子に意見しちゃったんだろう」

「勇気出して止めたのね、偉いわ!庇った事を後悔する必要なんてないわ!だって間違った事、してないじゃない、やった後悔よりやらなかった後悔の方が後に響くものだと、おばちゃんは思うけどね」

自分を認められ由美は涙を止められなかった。

「・・・・・美音子に、どんな事されてるの?」

「色んな物を隠されたり、机や鞄の中にゴミを詰められたり、SNSで悪口書かれたりクラス中を巻き込んで無視されたり、同じ部で仲良くなった違うクラスの私の友達にも、ある事無いこと吹き込んだり」

「そう・・・・好美の時にも思ったけど、本当に、最低ね、その美音子っていう子」

「だから私、学校に行くのが嫌になって時々、こっそり休んでいたんです、でも、夏休み前に、学校サボってたらお母さんが急に家に帰ってきて、学校サボってるのがバレて・・・・行かないことでしか身を守れないのに、お父さんとお母さん、私が学校サボった事で大ゲンカして、それから凄く夫婦喧嘩が増えて、最終的には離婚するって!だから私が居なくなれば2人とも仲直りするかもって思い切って家を・・・・・でも、家を飛び出してみても、学校でも孤立させられちゃったから結局誰も頼れなくて」

「そう・・・・辛かったね、今の話、2人には、ちゃんとしたの?」

「してないです・・・・」

「由美ちゃんの気持は良くわかるわ、でも、ちゃんと話すべきだと思うよ」

「・・・・・はい」

「あと、大事なことだから、もう一度お願いするけど、私達があのアパートに居ることは絶対に誰にも言わないって約束して」

「約束します」


 程なく到着し、由美は無事に両親の許に戻った。

「どうも、このたびは、大変ご迷惑をおかけしました」

平謝りを続ける2人に、恐縮して見せて、由美を引き渡した。

「もう!本当に、どれだけ心配したと思ってるのよ!ホラ、ちゃんと為末さんにも謝って!凄く心配掛けたんだから」

促され、由美は改めて心配掛けた事を3人に謝罪した。

そして由美は両親と共に帰宅した。


 いつもの時間に布団に入ったが、なんだか寝付けなかった。

由美との再会で苦い記憶が触発され夢見が悪かった。

目覚めが悪く、目覚まし時計が鳴る30分前に起きていた。

「あら、今日は早いわね」

「・・・・うん」

好美はリビングで充電されているスマホを手にした。

スマホを立ち上げると由美からLINEが届いていた。

『昨日は色々ゴメンね、そして、改めて、謝りきれないけど小学校での事も本当にゴメンね、あれからケンカしながら話し合いながら、何とか自分が望む方向で落ちついたよ』

『良かった!食事中や夜9時以降はLINEできないルールは健在だけど、またLINEやろう』

『ありがとう、好美ちゃん今から学校だよね、忙しい時間帯にLINEしちゃってごめんね、またLINEするね』

『うん』


 いつもと異なるタイミングで起きてしまい、何となく身体がだるかったが登校した。

好美が登校すると、ちょうどグラウンドから真希と歩も朝の部活動を終えて校舎に入ってきた。

「ヨッシー、おはよう」

「おはよう!今日、いよいよ運命の席替えだね」

「ねー、また好美ちゃんと真希と同じ班になれる奇跡、起きないかな」

「2学期も3人で同じ班になれたら良いね、あ、日記渡しておくね、って言うか今思い出したけど、私日直だから職員室よって日誌貰ってから行くから先に行ってて」

「わかった」

下駄箱で2人と別れ、好美は職員室に向かった。

問題なく担任から日誌を受け取り教室に向かおうとした時、好美は登校してきた悠太に呼び止められた。

「・・・・・・何?」

「席替えの後、岸本の国語の授業の時、『あの紙』回せ」

「・・・・・あの紙って?」

無意識にスカートのポケットを触っていた。

「とぼけるな!いいか、逆らうなら、お前も同じ目に遭うぞ、それが嫌なら国語の授業中に必ず回せ」

「あんたが入れたの?何で私の机に入れたの?」

悠太は答えず、もう一度、釘を刺して好美を置いて教室に向かった。

好美の脳裏に、昨日の由美の涙が過ぎった。

イジメられている子を庇ったせいで不登校に陥った由美の涙を鮮明に思い出し動揺した。

けれど歩は自分の大事な友達だ。

もし、この紙を入れられていたのが真希だったら、真希はどうしていたのだろう。

昨日はバタバタしていて真希とLINEをする機会が無かったので、この件は結局誰にも相談出来ずじまいだった。

今まさに究極の選択を迫られていた。

自分にとって歩は大事な友達。

その事実は変わらない。

だけど、悠太に反抗すれば由美の二の舞になる。

由美の二の舞は絶対に避けたかった。

ここで由美の二の舞になったら、自分は何のために、わざわざ耀子と学区外に引越してきたのか。

もしも、ここで再びイジメに遭ったら、今度はどこに逃げたら良いのか。

好美は今の平穏の中学校生活を守りたかった。


 ふらふらと教室に戻ってきた好美を見て、2人思わず顔を見合わせた。

「どうしたの、大丈夫?好美ちゃん」

「・・・・・うん」

「大丈夫だって!例え3人バラバラでも私たちとヨッシーの友情は永遠だよ!」

「ありがとう」


程なく担任が入ってきて1時限目は席替えが行われ、3人見事にバラバラになった。

好美は窓際の一番後ろの席になった。

刻一刻と2時限目の時間が迫ってきた。

最後の最後まで悩み抜いて、迷い抜いて逆らえず、授業開始とほぼ同時に悪意に満ちたメッセージを前の席の女子に回した。

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