変化
「好美ちゃん?と、お友達?」
「はい!こんな所で会うなんて!こんにちは!え、でも前の仕事って・・・・・」
「別に転職したわけじゃなくてダブルワークなの、少し前から、土日と祝祭日だけ、此処で働かせてもらってるの」
「そうなんですね」
「ええ、今日は当店の目玉商品のキングパフェを頼んでくれたのね、ありがとうございます」
好美達は会計を済ませて大満足で店を出た。
「こんな所でヨッシーの知り合いに会うとは!世間は狭いね」
「うん、ちょっとビックリした、それより、ちょっと、そこの店、入って良い?」
返事を聞く前に文房具店に入っていく好美に真希と歩も続いた。
「・・・・・嫌じゃなかったら3人で、お揃いの文房具買わない?子供っぽい事言ってるかもしれないけど何かお揃いの物が欲しいなって思ってて」
「文房具か、良いね!好美ちゃんは具体的に、どれが良い!とか有るの?私さ、丁度新しいペンケース買おうか悩んでいたんだけどお揃いで買うのってペンケースでも良い?」
言いながら歩がペンケースを手にした。
「あ、それ可愛いね!私は別にペンケースで平気!ヨッシーは?」
「うん!良いよ!確かに可愛いね!コレ、うん、コレにしよう」
欲しい物も直ぐに決まり3人、会計を済ませると颯爽と文具店を出て引き続きウインドーショッピングを楽しんだ。
歩と共に過ごす、そんな何気ない時間の尊さを好美も真希も改めて噛み締めていた。
程なく店内に17時を知らせるメロディーが流れた。
「もう、こんな時間だったんだ、今日は遊び尽くしたね!そろそろ帰ろうか」
店から、あっという間に着いてしまった3人の別れ道。
「今日は本当に楽しかった!ありがとう」
迷わず別れようとする歩を好美が思い切って引き留めた。
「・・・・・ごめん!もう少し話したい!」
言われて訝し気に振り返りつつも、とりあえず歩は自転車を降りて端に停めた。
歩が自転車を停めるのを見届け、好美と真希も路肩に自転車を置いた。
「その話は、もう良い!って不快になるかもしれないけど、ずっと自分の中の蟠りが解消できなくて」
「判る!実は私もだよ」
好美が吐露した胸中に真希が強く共感を示した。
「もちろん、それは歩ちゃんの所為なんかじゃない!友達を裏切った自分の所為なんだけど、上手く言えないんだけど」
自分の中に蟠りを打ち明けながら、どんどん頭の中で言葉が散らかっていくのを感じた。
それでも必死に自分の思いを語っていると。
「・・・・・関係ないよ!私には」
「え?」
歩が聞くに堪えない!といった様子で抑揚のない冷めた声音で遮った。
「2人の罪悪感とか私には重要じゃないし!私は前みたいな関係に戻れて3人で色々出来る事が一番嬉しいの!私は、この嬉しさを大事にしたいの!だから蟠りって一言で水を差すのも勝手に気まずくなるのも止めて」
「ゴメン・・・・私、また独り善がりの事を!そうだよね、よく考えると、その通りだよね」
思わず項垂れて見せる好美に歩が若干引いて見せた。
「そんな落ち込まないでよ、とにかく、それが私の本音だから、良い機会だから本音を2人に聞いてもらっただけ」
「・・・・判った、じゃあ最後に、コレだけ言って良い?」
好美の眼差しに「覚悟」が見え隠れしている事に気付いた歩は何を告げられるのかと、一瞬、警戒して見せた。
「私の事をもう一度受け入れてくれて、色々助けてくれて本当に、ありがとう」
言いたかった事を言えてスッキリしていると真希がすかさず便乗した。
「私も素直になれなくて、一番大事な、そういう事を、ちゃんと言ってなかったよね、本当にゴメン、こんな私を何度も受け入れてくれてありがとう」
本音を言い合ってスッキリした所で好美は先ほど3人で買ったペンケースを袋から取り出して誓った。
「このペンケースに誓うよ!私たちの友情は永遠だって、絶対に2人の手を離さない」
「私も真希と好美ちゃんの手を離さない、たとえクラス替えで3人見事にバラバラになっても」
「私も!」
「そう、充実した休日を過ごせてよかったじゃない、それにしても犬飼さん大変ね!そういえば休日も見かけなくなった気がする、休みなく働いてるなんて、お母さんも倒れて少し前に、お父さんも調子を崩したって話してたけど何かと要り様なのかしら」
2人、時子の事を案じながら箸を動かしていると、丁度、時子が帰宅してきた物音を聞いた。
「あ、噂をすれば・・・・・もう少し落ち着いたら作りすぎた切り干し大根、お裾分けに行くわ」
「うん」
燿子が夕飯と洗い物を済ませ適度な時間を設けた後。
「じゃあ、ちょっと届けてくるけど、先にお風呂入っちゃって良いから」
「うん」
燿子が二階に上がっていく足音を聞きながら入浴の準備を進めた。
「さっぱりした、おまたせ」
声を掛けながらリビングに入ったが、相応に長風呂だったが燿子はまだ帰ってきてなかった。
ほんの少し玄関を開けて、2階の物音に意識を集中したが、何も聞こえなかった。
もう少し様子を確認したかったが、容赦なく吹き込んできた冷たい風に、すかさずドアを閉めた。
燿子が戻るまでスマホでも弄りながら待っていようかと思い時計を見ると、もう悠長にスマホを弄ってられる時間ではなかった。
「寝よう・・・・・」
布団に潜って、まどろみ始めた頃、玄関が開く音が聞こえた。
「・・・・・遅かったね」
好美は眠い目を擦りながらリビングに入った。
「あ、起こしちゃった?」
「大丈夫」
「こんな長居する気は無かったんだけど、すっかり犬飼さんと話し込んじゃったわ、犬飼さんね、まだハッキリ決めたわけじゃないみたいだけど、高齢の両親が心配だから実家に戻る事も考えてるって・・・・」
「そうなんだ?子供の足音とか煩いと嫌だし、上の階の人が犬飼さんみたいな人で安心してたんだけど」
「まあ、絶対に引っ越すって決めたわけじゃないみたいだけど・・・・・とりあえず私も、お風呂行ってくるわ、先に寝ちゃって良いからね」
「うん」
「嘘でしょ!早すぎ!もう学年末試験が来週に迫ってるなんて!」
自分の中で準備不足な感じが否めない真希が迫りくる学年末試験に嘆いて見せた。
「ねー!信じられないよね、私も歩ちゃんのおかげで二学期の期末では奇跡を起こせたけどやっぱ不安だよ!」
テスト勉強週間の初日。
全ての部活動が行われず、久しぶりに3人で下校した。
「まぁ、そんなに不安がらなくて良い気がする!しっかり準備して挑めば大丈夫だよ!また前みたいに3人で勉強しよう!」
「うん!また一緒に勉強しよう!早速明日から、って言うか前から思ってたけどヨッシー、もっと自信持ちなよ!ヨッシーやれば出来る子だと思うよ」
「ありがとう、自信も時には大事だよね、自信持てるように、もっと頑張るわ」
翌日から早速、好美達は放課後、図書室で勉強に励んだ。
「歩ちゃん、此処の答えなんだけど、これで合ってる?」
歩は自分の勉強を中断して顔を上げると、問題を確認しサラサラとノートの余白で解いていき大きく頷いた。
「・・・・・うん!合ってる」
「やったー!嬉しい」
「このままいけば学年末試験もきっとランクイン出来るよ、自信持っていいよ」
「ありがとう!」
「前から思ってたけど、ヨッシー飲み込み早いよね!歩の教え方も上手だし」
「うん!判りやすい!って言うか、ゴメン!まったく関係ない話して良い?」
2人、訝し気に顔を見合わせた。
「今更だけど、実は、前からそうしたかったんだけど、今度から私も歩って呼んで良い?」
「ああ・・・・・好きに呼んで?私もヨッシーって呼んだ方が良い?」
「歩が呼びやすいように呼んで?ヨッシーでも好美でも」
「じゃあ、今度から私も好美って呼ばせてもらうね」
話が脱線したまま盛り上がっていると、下校を促すチャイムが鳴り響いた。
3人で階下に降りてくると若林と鉢合わせた。
「あれ、若林、部活もないのに、まだ残ってたの?」
通学靴に履き替えながら、どうでも良さ気に歩が聞いた。
「ああ、家だと上の階の足音が結構気になっちゃったりで、余り落ち着いて勉強できる環境じゃなくて今日は教室で勉強してた、3人は図書室にでも居たのか?」
「うん!今回も歩に色々と教えてもらっていたところ!」
好美に自慢気に言われ若林が羨ましがって見せた。
「良いな!俺にもまた教えてくれよ、鏑木の教え方マジで解りやすいし、今回も過去最高得点を目指したい!そして今度こそ俺もランクインしたい!」
「今度こそランクイン出来たらいいね!私は別に教えるのは構わないよ、真希と好美が良いって言えば」
言われて縋るように若林が2人を見た。
2人、一瞬、顔を見合わせ了承した。
「ありがとう!明日から早速頼むよ」
大袈裟に喜んでみせると若林は颯爽と学校を出て行った。
流石に一緒に下校する気は無かったので、若林が学校から出て少し経ってから好美達も下校した。
「そういえば真希、その後、翔と上手くいってる?」
「可もなく不可もなく、かな・・・・・翔君は、まだ私に対して全く恋愛感情が無いからね、もしかしたら、友達以上の関係に発展しないまま自然消滅って可能性も無きにしも非ず、なんだけど、優しいからだと思うけど、積極的に私の事を判ろうとしてくれてるのが伝わってくる、私の事より歩は?新しい恋をしたりとかないの?」
「今のところ誰かに、ときめきを感じる事もないし、縁を感じる事もないんだよね、もしも、また縁を感じる人に出会えたら、積極的に青春を謳歌しようかなって思うけど、そういえば好美は?好美は好きな人とか居ないの?」
「居ないね、坂口君は別にして、やっぱ自分の中で男子に対して良い印象を持てない所為だと思うけど」
2人の脳裏に乾達の顔が浮かび思わず納得した。
「まぁ、クラス替えに期待かな、でも、とにかく歩と真希ちゃんと同じクラスになりたいから、その願いが叶うなら、心がときめく男子が居るクラスじゃなくて良いや」
「あと、担任は絶対に岸本以外ね!これも譲れない希望だよ!」
真希が口にした強い要望に2人が大きく頷いた。
学年末試験の勉強が一段落ついたところで、好美は交換日記を開いたて2人の他愛ない平和な日記に目を通した後、2人にコメントを残した。
『そっか、歩の携帯、前にも増して調子悪くなってきちゃったんだね(-_-;)長く使ってきた物って愛着が沸くし、物を大切に使うって凄く大事な事だよね、特に不便さを口にすることもなく今もまだ大事にガラケーを使い続けている所を見ると本当に尊敬しちゃうよ、もしスマホデビューする事になったら3人でLINEしよう♪』
『真希ちゃん、お姉ちゃんの機嫌直った?やっぱ進学の事とかでピリピリしてるのかな、日記を読み返して気付いたけど、ピリピリしてる率、高くない?身内がピリピリしてると息が詰まってくるよね、グチは遠慮なく溢してね♪』
2人に向けてメッセージを書いた後、少しずつ書き溜めたネタを面白おかしく書いてノートの行を埋めていった。
愉しんで日記を書きながら不意に連絡の間隔が空き気味になっている由美の事を思い出した。
思い返してみると年末年始にLINEスタンプを送り合ってから音沙汰なしになっていた事に気付いた。
由美の近況と併せ、美音子と宮原に関する情報も欲しいと思い早速、絵文字を豊富に使ったLINEを送った。
『由美ちゃん、久し振り、元気?今ってLINE平気?』
LINEは直ぐに既読になった。
そして。
『久しぶり、連絡ありがとう!うん、LINE平気だよ』
同じく絵文字が豊富に使われたメッセージにホッとしていると、またメッセージが届いた。
『試験勉強とか色々でご無沙汰になっちゃってゴメンね』
『それは、お互い様だよ、気にしないで♪』
その後、何度か他愛ない話題のメッセージをやり取りして少しずつ、本題に入っていった。
『ところで学校生活は、どう?』
『問題の2人が居ないから平和だよ、好美ちゃんは?』
『私も平和を取り戻せたから今は学校も楽しく行けてる』
『良かったね!凄く頑張っていたもんね』
『うん、ところで、そろそろ進路の話とか出てくる時期だよね、由美ちゃん、目指してる高校ある?』
『高校は正直まだ、どこを目指すべきか定まってなくて、とりあえず美音子と宮原が行きそうな所は絶対に避けたいと思ってる』
由美も自分と似たような考えだと知って少しホッとした。
『全く同感だよ!因みに、あの2人がどこに進もうとしてるか流石に判らないよね』
『ゴメン、流石に判らない、あの2人試験だけは受けに来てるみたいなんだけど、試験終わったら誰とも話さずに直ぐに帰っちゃうから、まあ私は本当に関わりたくない2人だから一秒でも早く学校から出て行ってくれるのは良い事なんだけど、そんな状況だから、誰も2人の志望校なんて判らないんだよね』
『そっか、ありがとう、もしも奇跡的に、あの2人の進路とか情報をゲットしたら是非私にも教えて』
『うん!判った、あ、お母さん帰ってきちゃったから、この辺で、じゃあ、またね、お互い頑張ろうね』
LINEを終えると、程なく、燿子も帰ってきた。
しかし、その足音は心なしか慌ただしい物に感じた。
「お帰りなさい、どうしたの?」
「ただいま、お母さん、ちょっと今から急遽、向こうに行くことになったから、悪いんだけど夕飯、準備しておいて、材料は買ってきたから」
言いながら本日、作る予定の料理の食材を食卓に出して、他の物を慌ただしく冷蔵庫に詰め込んだ。
「何?どういう事?」
「さっき寛子から電話があって、お父さん、インフルかもって、熱が40度近くあるって」




