優等生の焦り
睨まれた理由がわからず呆然としていると、朝の部活動を終えた真希と歩が通りかかった。
「おはよう、好美ちゃん、どうしたの、呆然として」
「おはよう、いや、なんか甲本が2番目にランクインしてたから頭良いんだねって声掛けたら睨まれて」
「え、何で?」
真希も思わず訝しがりながら上位者発表リストに目線を流した。
「ちょっと!本当に歩、クラスでトップじゃん!嫉妬して良い?」
どうリアクションを取るべきか焦って見せる歩を横目に真希は好美の肩に手を回した。
「一緒に嫉妬に身悶えよう!ヨッシー、そして期末は私たちも上位にランクインしよう!」
「うん!今から頑張ろう!そういう事だから、判らない所は、どんどん歩ちゃんに聞くからヨロシク!」
「まず手始めに、秀才のノートの取り方のポイントを教えて」
「いやいや、判らない所はまず先生に聞こうよ!そしてノートの取り方のポイントって言われても上手く説明できないから、同じ感じでノート取りたいなら、これ見て参考にして?」
言いながら鞄を開けて、英語のノートを取り出して2人に差し出した。
2人で見下ろし、やがて真希が気づいた。
「・・・・・なるほど、ちょっとポイントが判った気がする」
「え、真希ちゃん凄い!真希ちゃんも、やっぱ秀才組だね」
「いや、全然、そんな事無いよ!でも配置とかスペースのとり方は頭に入った、ありがとう歩、今日の授業から早速、真似して取ってみる」
「なるほど、スペースの取り方がポイントなのか、じゃあ私も真似してみよう!ありがと歩ちゃん!」
職員室前で、はしゃいでいると、職員室の前の扉が開け放たれ両角が出てきた。
「ほら、職員室の前で騒ぐな!早く教室に行け!」
促され、3人、足早に教室に向かった。
いつものように歩が教室の前の扉に手を伸ばすと、内側から開けられ、そこに悠太が立っていた。
悠太は苛立ちを隠さず歩を睨み付け、体当たりしながら教室を出て行った。
「痛いな!ちょっと気をつけてよね!」
歩が思わず文句を言うと、振り向きもせず謝りもせず、盛大な舌打ちを響かせ、各教室前の廊下に設置された大きなロッカーから自分に割り振られたロッカーの扉を開けて英語の辞書を取り出し、再び歩にぶつかりながら教室内に戻り席に着いた。
「何あれ、感じ悪い!歩、大丈夫?」
「・・・・・うん」
「何か御機嫌斜めって感じだね、さっき私も睨まれたけど」
機嫌の悪いクラスメイトに八つ当たりされ困惑を滲ませ、入り口で立ち尽くしていた3人は、予鈴に促され席に着いた。
その日以降、好美と真希は事あるごとに悠太が歩に絡む場面を目撃していた。
例えば、掃除の時間だったり、移動教室の際、たまたま悠太の前を歩いていただけで容姿を指摘しながら過剰に邪険にしていた。
この日も移動教室の帰り・・・・・。
「前が見えないだろう!ウザイからデカイ図体で俺の前に立つな!」
悠太の言い草に一緒に居た真希が言い返した。
「は?いちいち人の後ろに着いてまわって文句言ってないで、気に入らないなら私たちの前を歩いたら?!っていうか、か弱い女子にデカイ図体とか失礼だから!」
好美は加勢できず、オロオロしながら成り行きを見守った。
「こいつの、どこがか弱いんだよ!テストだけじゃなくて図体のサイズもクラスで一番のくせに!本当の事、言っただけだろう!」
皮肉たっぷりに言われ、歩が露骨にウンザリして見せた。
「ねぇ、何でそんな私に絡むの?そんなにデカイ図体が気に入らないの?あんたも大きくなりたいの?」
「別に絡んでないし!邪魔なものを邪魔って言って何が悪いんだよ!っていうかさり気なくデカイ事を自慢するな!ムカつくから」
「何だ、あんたも大きくなりたいんだ、まあ、そのうち、あんたも私に追いつくよ」
「黙れ!羨んでないから自慢するな!俺の前をウロつくな!」
「もー煩いな!面倒くさいから、もう早く私の前に行きなよ!」
歩が大股で悠太との間合いを詰め、体格差に一瞬怯みかけた悠太の腕を掴んで、自分たちの前に突き飛ばした。
一瞬、体勢を崩しながらも踏みとどまり3人を一瞥して早足で前を歩いた。
悠太が教室に入っていくのを見届け、2人で歩を見上げた。
「平気?歩・・・・・戻ろう」
「大丈夫、真希が怒ってくれたからスッキリした、ありがとう」
「ううん」
好美は事あるごとに保身に走り、傍観に徹してしまう自分に腹が立っていた。
「ねぇ、期末テストの勉強、今度は歩の家でやらない?」
この日、陸上部の2人と、写真部の好美の部活動の終了のタイミングが、たまたま一緒になり、久しぶりに3人で下校しながら、真希が提案した。
「良いね!歩ちゃんの家にも行ってみたい!」
「うちは・・・・・ゴメン、都合悪い、双子のお兄ちゃんの片割れが、ちょっと荒れてて、2人にも迷惑掛ける可能性もあるから」
歩が申し訳なさそうに断った。
「そういえば歩の日記に、お兄さんの事、ちょっと書いてあったね」
2人、思わず顔を見合わせ歩が書いた日記の内容を思い出した。
「じゃあさ、ヨッシーの所は?」
「ごめん、うちも厳しい・・・・・」
「そっか・・・・じゃあ、また家に来る?今回は、お姉ちゃん、家に居るかもしれないけど・・・・それでも良い?」
「私たちはお邪魔する立場だから全然大丈夫!ね、好美ちゃん」
「うん!ゴメンね、家に招待できなくて」
「仕方ないよ!じゃあ今週末、また勉強会やろう!」
「さ、どうぞ、上がって」
真希に案内されるまま、2人、リビングに居る両親に丁寧に挨拶した後、2階に上がった。
「この間も言ったけど、今日はお姉ちゃんも居るけど気にしないで、お姉ちゃんも期末試験を控えていて勉強するからって・・・・」
「あの、無理言ってお邪魔して、申し訳ありません、静かに勉強しますので」
歩が真希の姉、咲希に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ・・・・別に・・・・ごゆっくり」
咲希が思わず身体を引きながら歩を見上げた。
事前に歩を見て露骨に反応したり、歩を不快にさせる事をしないように釘を刺しておいたのだが、忠告を全く守らない姉に、内心、毒づいた。
それでも気持を切り替えて自慢の友だちを咲希に紹介した。
「同じクラスの友だちで為末好美ちゃんと、鏑木歩ちゃん」
「・・・・・鏑木?」
咲希が思わず復唱した。
「どうしたの?」
「もしかして、上に幹汰と大地っていう双子の兄弟居ない?」
「居ます、3月まで西浜中の生徒でした」
「だよね、へぇ、あの2人の妹なんだ、似てないね」
率直な感想を遠慮なく述べられ思わず苦笑いする歩を見て真希が咎めた。
「ちょっと、お姉ちゃん!さっきから失礼でしょう!」
真希に怒られ、咲希が気まずそうに謝った。
「ごめん・・・・」
「いえ・・・・・お姉さん、兄達の事を知っているんですね」
「うん、1年の時に幹汰と同じクラスで2年3年で大地と同じクラスだった」
「そうなんですね、兄が大変お世話になりました」
「いえ、とんでもないです」
歩の丁寧な対応に咲希も丁寧に返した。
「じゃあ、とりあえず勉強始めよう」
真希が部屋の真ん中に置かれた丸テーブルに2人を促した。
咲希は3人が期末試験の勉強を始めたのを見届け、自分も机に向かった。
「あれ、ヨッシー、結局ノートの取り方、もとに戻したんだ?」
「うん、歩ちゃんのノートの取り方を意識してたら、その事ばかりに気を取られて逆に説明を聞き逃したりしちゃって・・・・・・凡人が秀才の真似しても良いこと無いって学んだ、真希ちゃん凄いね!まだ、そのノートの取り方、実践してるんだ」
「まあ、結局、私も真似してるだけなんだけどね、この方が家で勉強する時、何となく復習しやすい気がして、少しでも秀才に近づくには、とりあえず真似してみるのが一番の近道なのかなって思って」
そんな会話を耳にした咲希が興味深そうに3人を振り返った。
そして歩のノートを覗きこみ感嘆を洩らした。
「凄いね、これが中1のノート?けっこう勉強のできる双子だったけど、やっぱ妹も優秀なんだ」
「良いね、優秀な兄弟が居るって!何かと有利だよね、わたしも優秀な兄弟が欲しかった」
「ちょっと!私もそれなりに優秀なんだけど!」
自分を蔑ろにして歩を羨ましがる妹に咲希は思わず意見した。
「はいはい、それなりに優秀だね!優秀なお姉ちゃんが居るから期末は少し成績良くなるかな」
「それは真希の努力次第だね!まぁ、頑張りな」
咲希は前に向き直り勉強を再開した。
有意義な勉強会を経て好美たちは期末試験に臨んだ。
相応に知識は身につけたつもりだったが、相変わらず問題を解くスピードが不十分で見直しが出来ず、教科によっては中間試験同様、最後まで解けなかったりと、決して手ごたえは良くなかった。
「歩ちゃん、テストどうだった?」
期末試験、最終日、3人で下校しながらテストの出来について語り合った。
「簡単ではなかったね、今回は順位も落ちてると思う、特に音楽のテストが難しかった」
「意外!だって歩、音楽の授業も好きって言ったのに」
「うん、音楽の授業は好き、合唱とかも楽しいと思うんだけど、問われる知識も何か特殊でしょう?だから好きな科目ではあるけど、得意な教科ではないんだよね」
「でも、そう言っても歩ちゃんの事だから、今回も、絶対に名前張り出されてるよね」
「そうだったら嬉しいけど・・・・」
そして迎えた上位者発表の日。
張り出された上位者リストの前、あの時と同じ様に悠太が鋭い眼差しで上位者リストを見上げていた。
また悔しい結果が張り出されているのかと、好美がさりげなくリストを見ると今回は悠太がクラスのトップだった。
そこに歩と真希も登校してきてリストの前で立ち止まった。
「ほらね、やっぱり順位下がったでしょう、音楽のテストとか難しかったもん」
それでも1位の悠太と僅差で、たった18点の差しかなかった。
「でも、やっぱり堂々の2位にランクインしてるでしょ、歩ちゃんの事だから絶対、トップ10には入っていると思ったけど!っていうか真希ちゃんもランクインしてるし!」
「え!あ・・・・本当だ!奇跡だ!ギリギリ9位に食い込んでる!ノートの取り方が功を奏したのかな、でも全然自信無かったのに!」
「やったね!真希もランクインおめでとう!」
歩はトップの座を奪われても別段悔しがる事も無く、そして何の抵抗も無く真希を評価した。
そんな、余裕を見せ付ける歩を憎悪の眼差しで睨んで悠太は教室に向かった。
「嗚呼、今回も私の名前は載らなかったね、分り切ってた事だったけど、っていうか、見た?今の甲本の顔!怖い!何かまた睨まれたね、堂々の1位なんだから、もっと喜べば良いのにね」
好美は怒りのオーラを露骨に放ちながら順位表の前を離れる悠太の背を見送った。
悠太は抑え切れない苛立ちを持て余し、自分の教室の前のロッカーを蹴飛ばした。
近くを通っていた別のクラスの男子が音に驚き振り返った。
思わず目が合って、悠太は、バツが割るそうにしながら、幾分、冷静さを取り戻し自分の席についた。
そこに、歩たちが教室に入ってきて、好美が悠太に近づいた。
「・・・・・何?」
悠太は素っ気なく面倒くさそうに、興味なさそうに、そっぽ向いて利き手で頬杖ついて塩対応をしてみせた。
「もう、人と話をする時は、ちゃんと目を見て話そうよ!日誌!日直が取りに来ないから、渡してあげてって先生が・・・・・」
「そう、そこ置いておいて」
「ちょっとさ、ありがとうとか普通に言えないの?」
歩に意見された悠太が過剰に反応した。
「お前に関係ないことだろう!いちいち意見するな!」
過剰に反応して声を荒げる悠太を他のクラスメイトも訝しげに振り返った。
気まずそうにしてみせる悠太を横目に、すかさず真希が加勢した。
「こっちは普通に話してるんだから、あんたも、いちいち切れるな!」
真希の迫力に負けて悠太が投げやりに心の篭らない謝罪を口にした。
「はいはい、わざわざ日誌を持ってきてくれたのに、素直に普通に礼も言えず申し訳ないですね、ありがとうございました」
3人思わず顔を見合わせ、呆れ返りながら席についた。
歩は大して気にしていない様子だったが、好美は、結局また加勢できなかった事で自己嫌悪に陥っていた。
掃除の時間、体育館の更衣室の掃除をしながら真希が思い出したように歩を振り返った。
「そういえば歩、今日、誕生日じゃない?」
「あ!そうだよね!そういえば日記の自己紹介で書いてあったね!」
「うん、覚えててくれたんだ!ありがとう、2人とも」
「おめでとう!」
2人、事前に何回も練習したかのように、きれいに声を揃えて祝福した。
「ありがとう!っていうか声揃いすぎ!実は密かに練習してた?」
「してない」
そう答える声音まできれいに重なり、3人で笑い合った。
「何か、最強だね私たち」
笑いすぎて滲んだ涙を小指で拭いながら歩が2人を見つめた。
「好美ちゃんと真希が友達になってくれて良かった!」
「私もだよ!歩とヨッシーが友達になってくれて良かった」
「私も歩ちゃんと真希ちゃんと同じ班になれて、友達になれて良かった!でも2学期も席替えがあるんだよね・・・・・また同じ班になれたら良いけど」
「そうだね、でも同じ班になれなくても私たちの友情は変らないよ」
言いながら歩が愛おしそうに2人を抱きしめた。
そうして友情を確かめ合い迎えた夏休み。
とはいえ、体育会系の部に所属している真希と歩は、ほぼ毎日登校していた。
夏休み後、初めて迎えた学年登校日に真希から回ってきた日記は好美のところで長く止まっていた。
日記のネタにできる面白い事が、特に起る事も無く、それでも少しずつ書き溜め、日記と平行して膨大な夏休みの課題を懸命にこなしていた。
それでも真希とLINEを愉しむ日常は大きく変らなかった。
毎週末、離れて暮らす大和と寛子に会って近状を報告しあう習慣も変らなかった。
平凡に過ぎる中、ある週末、駅で一家揃って一緒にショッピングを愉しんでいた時、好美は歩を目撃した。
一緒に、兄と思われる双子と、小柄さが一層引き立つ小学生位の少女がレストラン街の庶民的な店で巨大パフェを協力しながら幸せそうに楽しそうに食べていた。
「ほら、置いていくぞ好美」
大和に呼ばれ好美は我に返り少し先を行った家族を追った。
「・・・・うん」
「さっきの店、入りたいのか?」
「ううん、今、そこの店に学校の友だちが居て巨大パフェに果敢に挑んでいたから・・・・・今度挑戦してみようかなって思って」
「ああ、あの巨大パフェ、この間クラスの子が挑戦したみたいで写真見せてくれた、その子は同じ部の友達と4人で行って完食したらしいけど結構な量で、もう1人ぐらい誘っても良かったかも!って」
「そうなんだ、3人って無謀かな、食べきれないかな」
「まあ、時間制限も無いし挑戦してみたら?限定5食だから運が悪いと、もう終ってたりするけどね」
「そんなレアなパフェがあるのか?っていうか、そんなにデカいのか?」
「うん!」
2人で力強く頷いて見せた。
「何それ、怖いもの見たさで、ちょっと挑戦してみたいわね・・・・甘いものには目が無いし、でも、もう無理できる年じゃないし・・・・」
興味を示しつつ、耀子は消極的だった。
「いや、この際、挑戦してみないか?寛子の友達は4人で何とか完食できたんだろう」
「うん」
好美たちは、一瞬話し合って程なく歩たちが居る店に入っていった。
「いらっしゃいませ」
歩はパフェに夢中で好美の来店に気づくことは無かった。
4人は若い女性ウエイトレスに、歩から離れた席に案内された。
好美はメニュー表のデザートのコーナーを開いて確認した。
「これって頼めますか?」
「巨大抹茶パフェですね、大丈夫ですよ!」
好美が指差した逆三角形の大きなグラスに盛り付けられた巨大パフェの写真を見下ろして、ウエイトレスは店の目玉商品のオーダーを受け誇らしげに端末を操作して営業スマイルを見せた。
「少々お待ちください」
好美はワクワクしながらパフェが出てくるのを待った。
程なく、ウエイトレスが重そうに巨大抹茶パフェをテーブルに運んできた。
巨大なグラスの中に結構な密度で、わらびもちとコーンフレークとスポンジケーキと抹茶のアイスが敷き詰められ、たっぷりの生クリームとポッキーで飾り付けられた迫力満点のパフェを初めて見る4人は思わず圧倒され言葉を失った。
放心した後、迫力満点の巨大パフェに4人思わずスマホを向けシャッターを切っていた。
「話には聞いていたけど、写真でも見たけど、やっぱ凄い迫力だね・・・・・さ、皆で気合入れて食べよう!」
言いながら寛子がスプーンを手にした。
「確かにデカいな・・・・・よし」
3人、寛子に続いてスプーンを動かし続けた。
「ちょっと・・・・これは、美味しいけど確かに、もう1人か2人、一緒に食べる人が居ても良かったかもね」
4人、音を上げながらスプーンを動かし続けた。
そして頻繁に休憩を挟みながら、何とか4人で完食した。
そして空になったパフェグラスも撮った。
気がつけば、歩たちは、とっくに退席していて、歩たちが居たボックス席は、違う利用客が座っていた。
帰宅後、早速、真希に写真を添付してLINEを送った。
『今日、一家4人で挑んできた!』
『これ、駅ビルのレストラン街の中にある店のパフェだよね?凄い大きさだね!コレ、ちゃんと食べきれた?』
『うん!時間を掛けて何とか4人で完食したよ!』
メッセージと共に空になったパフェグラスの写真も添付した。
『凄いね』
『実は前から3人で挑戦したいと思っていたんだ、でも今日実際に挑戦してみて、あの量を3人で挑むのは無謀な気がした』
『凄いボリュームだもんね、確かに3人では無理そうだね、でも、これは私も挑戦してみたいと思っていたんだよね』
『それなら、それぞれ1人ずつ誘ってみない?』
『良いね!もし行けそうな人が居なかったら、誘うの、お姉ちゃんでも良い?』
『うん、そういえばさ、話は変るんだけど、歩ちゃんに妹なんて居たっけ?』
『歩に妹?居ないんじゃない?日記には双子のお兄さんの事なら書いてあったけど、何で?』
『実はさ、今日、歩ちゃんも双子のお兄さんと、小学校高学年位の子と、やっぱり、この巨大パフェ食べていたんだよね、お互いに連れが居たから声は掛けなかったんだけど』
『そうなんだ、じゃあ親戚の子かもね、妹が居るなんて聞いてないし』
『うん、そうだよね、じゃあ、明日学校でね』
『うん、また明日』
LINEを終えた後、一家でパフェを食べたことを交換日記のネタとして書き上げた。
『今日、家族と巨大パフェに挑戦してきた!密かに3人で挑戦してみようと思っていたけど実際に食べてみて3人では、ほぼ不可能な気がしているよ!でも真希ちゃんや歩ちゃんと挑戦したいから、それぞれ一人ずつ誘って計6人で挑戦してみない?因みに実は今日、店で巨大パフェ食べてる歩ちゃんの姿を見かけたよ♪お互い連れと一緒だったから声は掛けなかったけど、歩ちゃん達は完食出来た?っていうか歩ちゃんと一緒にいた小学生高学年位の子って親戚の子?』
「よし・・・・」
好美は、翌日、歩に回す日記帳を鞄に入れて、蒲団に入った。
全校登校日を迎えたこの日、簡単な顔合わせと簡単な校内掃除等のスケジュールを無事に消化し、下校しながら好美は歩に日記を回した。
猛暑の中の登校は正直、面倒だったが、実際に友だちと顔を合わせられるのでポジティブな気持で登校日を過ごした。
「日記、長く止めちゃってゴメンね」
「気にしないで!」
歩は笑顔で日記を受け取った。
そしていつもの分かれ道で元気に手を振り帰路についた。
「じゃあ、好美ちゃんとは次は2学期だね」
「うん!また2学期にね」
そして迎えた2学期。
登校した3人は鞄から夏休みの課題などの提出物を机に入れようとして、好美は一瞬手を止めた。
指先に、身に覚えのない紙の感触。
そっと取り出した紙はB5サイズのルーズリーフが四つ折りにされたものだった。
紙を開いて、思わず息が止まりそうになった。
それは一文字ずつ定規を使い作成された悪意に満ちたメッセージだった。
『かぶら木歩をクラスから排除する、あいつと口きいたら同じ目にあう』